97話 夏と海を楽しむしかないよね!
「……暑すぎだろ」
目の前に広がるのは大海原、その手前には無限に広がってると思えるほどの砂浜。
辺りを見渡すと、夏休みということもあってか水着姿のカップルの他にも家族連れも。
7月の終わりということもあってか、ここぞとばかりに人が密集していた。
「何で俺はここにいるんだか……」
前日に買ってきた使い捨て用のビニールシートの上に座りながら、雲ひとつない青空へと向けて呟くが、もちろん返ってくるわけがない。
「にしても柚羽とアリアはまだか……」
真夏の太陽に照らされること数十分経つが、2人が帰ってくる気配は全くない。
暑い日差しを浴びすぎてそろそろ気が遠くなりそうになっていた。
「かなとー! おまたせー!」
暑さのせいなのか、このまま倒れてもいいかなんて思っていると、遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
そちらへ視線を向けると、レースが基調の白い水着姿の柚羽がこちらに向けて大きく手を振っていた。
その隣には黒いビキニ姿のアリアが……
「えっ——」
見た直後に口から出そうになった言葉を抑えるために口元を両手で塞ぐ。
……隣にいる柚羽の前では口が裂けても言えないが、そこだけ格差社会が繰り広げられていた。
あえて何の格差とは言わないが。
「おいおい見ろよ、何だあの女、モデルか?」
「朝からいいもの拝ませてもらったぜ、せっかくなら感触も味わいたいところだな」
「うわぁ……自信なくすぅぅぅ」
自分だけかと思ったが、周りにいる人たちもアリアの姿に魅入っているようだ。
「いやあ、ごめんねカナトっち、ユズっちの水着姿見たらムラっと沸るものがあって……」
アリアの言葉に呆れつつ、柚羽の方を見ると下を向いていた。
どうやら、色々とされたようだな。
「安心してよ、手は出してないから、目で舐め回す様にみていただけ!」
直後、アリアはウヒヒと気味の悪く笑っていた。
「柚羽、次コイツに何かされたら大声で叫べ」
「……うん、そうする」
柚羽の言葉にアリアは「いやだー!」と叫んでいた。
「それにしてもカナトっちは何でパーカーなんて着てるの?」
アリアは叫んだあと、すぐに俺の着ているパーカーを指さしていた。
「自分の体を守るためだ」
「どういうこと?」
過去に家族で海へ遊びにいった際、盛大に焼けたのはいいが体が真っ赤になるだけで黒くなることはなかった。
風呂に入れば悲鳴をあげたくなるほどヒリヒリするが、少し経てば元通りの体の色に戻ってしまう始末。
これに関して言えば父親もそうらしいので遺伝の様だ。
一応、何かあった時に備えて海パンに着替えているが、できることなら海には入りたくはない。
「えー、そんなこと言ったら海に来た意味がないじゃん!」
そう言ってアリアは俺の腕を掴むとそのまま海岸の方へと歩き出していく。
「って人の話を聞いてたか!? 海には入りたくないんだよ!」
「ここまで来て、海に入らないなんてナンセンスだよ!」
アリアに向けて叫んでみるが、こっちを見ることなくわけのわからないことを言いながら真っ直ぐ歩み続けていく。
引きずられながら後ろにいる柚羽へ助けを求めるも……
「アリアさん! 独り占めはダメだよー!」
俺には助けなどいないことを身をもって知ることになり、そのまま海の中へと入っていくことに。
……予備のパーカー持ってきて正解だったな。
「……つっかれた」
アリアと柚羽に付き合わされること数時間。
外で運動をしない人間にとっては海での活動は必要以上に体力を消費していた。
3人揃って腹の虫がわめき出したので、体を休めるため、目についた海の家へと入ることに。
空いている席に座るとドッと疲れて押し寄せてきてくる。
「奏翔、もう疲れたの? 家にばっかいるから体力が落ちたんじゃない?」
横の席に座ってる柚羽が含みのある笑みを浮かべていた。
そのセリフ、おまえにだけは言われたくないんだが……。
「運動嫌いが何でそんなに元気なんだよ……」
「この水着のおかげかも」
来ている水着をこちらに見せつけてくる柚羽。
疲れもあってか返事をいれる余裕すらなくなっていたので、そのまま黙っていることにした。
「レジが混む前にお昼頼んでくるけど、奏翔は何が食べたい?」
「……柚羽のセンスにまかせる」
腹は空いているものの、疲れから考える余裕もなかったので、任せることにした。
「わかったよー、行ってくるから荷物みててねー」
「……いってらっしゃい」
気だるそうに手を振ると、柚羽は店の入り口の方へと歩き出していった。
俺はそのままテーブルの上に突っ伏していった。
「って、カナトっち疲れすぎじゃない!?」
柚羽が注文しに行った直後、アリアの驚きの声が頭の上に響き渡っていた。
ゆっくりと顔をあげると、水色のパーカーを羽織ったアリアの姿が。
「……慣れないことしたから必要以上に体力を持っていかれたんだよ」
俺が答えるとアリアは先ほどの柚羽と似たような憎たらしい笑みを浮かべていた。
柚羽はいつものことで慣れてるが、コイツにされるのはちょっと腹立つな。
「ってかユズっちは?」
「昼買いに行った」
アリアは「そっかー」と言いながら向かいの席に座る。
「で、気持ちの整理はできたの? 前に話してからそれなりに経ったけど」
「……できてると思うか?」
俺が返すとアリアは大きくため息をついた。
「カナトっちってはっきりとした性格かと思ったんだけどね」
「……この件に関してだけ普段通りにはいかないんだよ」
もちろん、これは単なる言い訳にしか過ぎない。
アリアの言う通り、いつもならすぐに決断できるのだが……。
あれだけ大切に思っていた人間を傷つけたのに、そう簡単に決断していいのか、その考えが頭の中によぎって、まったく離れようとしない。
——何かこれを払拭できる様なきっかけでもあって欲しいと願いつつ。
「早くしないと、本当にユズっちのこともらっちゃうよ?」
「……そんなこという割にはおまえもすぐに行動に起こさないんだな」
「だってそんなことしたって、ユズっちは喜ばないし」
アリアはただ、親友である柚羽の幸せを願っているだけなのはわかっている。
「でも、ずっと平行線の状態を続けてもユズっちが可哀想じゃん? それなら私が傷ついたユズっちの身も心も癒してあげようっていうわけだよ」
「……あいつのことを考えてると思ったけど、意外とエゴが混じってるな」
「それはカナトっちに言われたくない! ある意味自分のエゴがあるからずっと悩んでいるんでしょ」
アリアの口から出てきたド直球の正論をぶつけられ俺は何も答えられなくなってしまう。
「せっかく、こんな広い海に来たんだし、開放感に駆られて勢いで言っちゃうのもアリなんじゃない?」
満面な笑顔でアリアは俺の顔を見ていた。
「駆られたついでにそれから先に進むのもありだよ? さっき一目につかなさそうな岩陰あったし」
「……そこまで行ったら単なるおせっかいだ」
俺の言葉にアリアはニヒヒと言いたそうな声で笑っていた。
「それにしてもユズっち遅いね、どうしたんだろ」
「これだけ人がいるんだし、混んでいるんじゃないか——」
そう言いながら俺はすぐに席を立つ。
「どうしたのカナトっち?」
「……荷物見ててくれ」
俺は一点を見ながらアリアに告げる。
「え、わ、わかったよ……」
視線の先には柚羽の姿。だけど、その前には2人の男の姿。
勘違いであって欲しいが、柚羽の姿を見る限り、どうやら良い相手ではないようだ。
俺はすぐにそこへ向かって駆けていった。
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