94話 奏翔を苛む男の欲望
「……ただいま」
何ともいえない体の重さを感じながら家の玄関のドアを開けてから家の中に入る。
玄関付近はシーンと静まり返っているが、奥のリビングから微かにだが音が漏れ出していた。
ピコピコと甲高い機械音であったり、鉄と鉄のぶつかり合う様な音が聞こえるので、柚羽がいつも通りアニメを見ているのだろう。
いつもならすぐにリビングに行くのだが、今日に限って言えば部屋で一人になりたかった。
理由はアリアに振り回されたことによる疲れもあるが、それ以上に考えたいことがあったからだ。
——期限を決めて、それまでにカナトっちがユズっちに何もしなければ。
あの時アリアの放った言葉が頭の中にずっと残っていた。
これが虎太郎とか総一郎が言ったのなら適当に受け流すところだが、変なところに行動力というか人を巻き込んでいく才能を持ったアリアとなったら話は違ってくる。
「……あの感じじゃマジでやりそうだな」
普段はおちゃらけてるというか、くだらないことを口にしていることが日常的だが、今日の感じでは期限を過ぎたら実行に移していくと思う。
まだ期限である夏休み最終日まで1ヶ月以上残っているので、さっさと気持ちの整理をつければいいだけの話だが、年単位で考え続けていることをたった数日でケリをつけられるほど俺は器用な人間ではないのは重々承知している。
「……どうすればいいんだかな」
ベッドに倒れ込みながら盛大なため息が口から漏れていく。
色々なことが起き過ぎて生じた疲れからそのまま布団の魔力に吸い込まれそうになっていく。
15分ぐらいなら寝てもいいかもしれない。どうせ柚羽はリビングでアニメ鑑賞中だし……。
そんな悪魔の囁きに負けそうになっていると背中越しに突如、重みを感じた。
「……柚羽、重いぞ」
重みの原因はリビングで絶賛アニメ鑑賞中だと思っていた同居人だった。
布団の上に突っ伏しているので、詳しく状況は把握できないが、どうやた俺の背中の上にもたれかかっている様だ。
若干ではあるが、耳元にこいつの吐息がかかっている。
「むぅ……女の子にそんなこと言っちゃいけないんだよ! それに重いのはこれのせいだから!」
そう言って柚羽は自身の体を前後に擦り付けていた。
背中越しにズリズリと服と服の擦れ合う音が聞こえてくる。
「ふへへ〜どうやら柚羽ちゃんの爆乳が気持ち良過ぎて何も言えないみたいだね」
堪能できるほどないだろと喉の奥から言葉が出かかっていたが、必死に堪える。
そんな俺の苦労もしらずに柚羽は満足したのか、体を起こし、俺の尻へ腰掛ける姿勢になっていた。
「それよりもいつの間に帰ってきてたの?」
「10分ぐらい前」
柚羽の声が少し不満そうに聞こえる。
俺がうつ伏せの状態で顔が見えないので、本当に不機嫌なのか定かではないが。
「帰ってきたなら声かけてもいいのに」
「……アニメ見てたみたいだから邪魔したくなかったんだよ」
「むぅ……別にそんなこと気にしなくてもいいのに、一緒にラブコメ作品みたかったのになあ」
「あの作品気まずい雰囲気になるから嫌なんだけどな」
「気まずいって?」
「……肌色とお色気シーンが多い」
柚羽が最近見ているラブコメ作品は年齢制限を間違えているんじゃないかと思えるぐらいお色気シーンが多い。
せめての救いが真夜中の放映だということだ。
ちなみにそれを見た後は真逆とも思える熱血系ロボットアニメを見るので、一緒に見ている立場からすれば温度が激しくで風邪をひく勢いだ。
「気まずくなったらそのまま隣にいる柚羽ちゃんに感情をぶつけちゃってもいいんじゃよ?」
「一応聞くがどうやってぶつければいいんだ?」
「まずは柚羽ちゃんを押し倒す、そして服を脱がす、その後は下着の——」
「——わかったそれ以上言わなくていい」
「それじゃこれから練習でやってみようか? ちょうどいいことに今の服装は簡単に脱がせやすいし!」
今日1日家にいたと思うので、格好は変なテキストが書かれたTシャツにハーフパンツ姿だろう。
……わかったとする気は全くないが。
「あれ?」
柚羽が声を上げたと同時に背中にまた重みを感じる。
そして耳元でスンスンと匂いを嗅ぐ音が聞こえてもいた。
「どうした?」
「……誰かと会ってた? 私以外の匂いがする!」
「猫かと思ったら犬になってたか……」
「奏翔に変な虫がつかないように監視するため、匂いに対して敏感になるバッシブスキルにポイント爆振りしてるんだよ!」
そう告げながらも俺の首元の匂いを嗅いでいく柚羽。
見えないからこそなのか体中に鳥肌が出てきていたので、アリアと会っていたことを話した。
「……私に黙って会うなんて浮気だ! 不純だ! 柚羽ちゃんという人が近くにいるのに!」
「まず浮気って言葉を辞書ひこうか?」
たしか浮気って法的に決められた相手がいた場合に起きることだったはず。
なので今の俺や柚羽には適用されないと思っている。
——今の俺たちには。
だが、俺の言葉を無視してか柚羽は俺の背中を叩き続けていた。
ほどよい力加減が心地よく感じてしまう。
「……奏翔」
「何だよ?」
「……罰として柚羽ちゃんを抱きしめること!」
「それなら今のままでよくないか? 後ろから抱きついているし」
「奏翔の顔を見ながら抱きしめられたいの!」
柚羽が話しているうちに背中の重みがなくなっていた。
どうやら柚羽がベッドからおりたようだ。
「よっこいしょっと……」
ゆっくりと体を仰向けにすると、ベッドの真横で半開きに口を開けた猫のイラストが書かれたTシャツを着た、膨れっ面の柚羽が映っていた。
「ほら、いいぞ」
両手をあげると、先ほどの膨れっ面が嘘だったかの様に柚羽の表情が明るくなっていた。
「ひゃっほーい! 奏翔の体にダーイブ!」
そのまま俺の方へともたれかかってくると同時に自身の両腕を俺の首にまわしてきた。
毎回思うことだが、チョロすぎないか?
「ふわぁ……奏翔成分不足してたからたまんねーぜ! やっぱり奏翔しか勝たん!」
自分の欲求を満たされたからか、大声で叫びちらかしていく柚羽。
猫のように俺の体に顔を擦り付けていく。
「……やっぱり猫だったか」
「柚羽ちゃんは甘えたがりのにゃんこだから仕方ないにゃん! 奏翔は誰にも渡さないためにもちゃんとマーキングしておかないと」
「頼むから本当の猫の様にマーキングするなよ」
面倒なので説明する気はないが、そういった趣味は一切ないので。
「ほら、私も抱きしめているんだから奏翔もぎゅっとして〜」
「わかったよ……」
言われるがままに柚羽の背中へ両腕をもっていき、そのまま抱きしめる。
「うぅ〜……すっごい気持ちよくて変な声出ちゃいそう」
その後もずっと変な声をあげていく柚羽に対して俺はため息で返していく。
というか、そうでもしないと平常心を保つことができないと思ったからだ。
ずっとクーラーの聞いたリビングにいたせいか、夏の暑さに照らされ続けた体には冷ややかな柚羽の体温。
それもあるがそもそもの小柄で抱きしめやすい体躯。
俺にとっても柚羽の体を抱きしめることは心地いいと思っている。
ずっと長いこと——。
「むぅ……毎回おもっているんだけど奏翔は何とも思わないの? 柚羽ちゃんの”ないすばでー”を抱きしめてるのに」
柚羽は不満そうに口にするが、そんなことはない。
口にはしないだけで、俺も十分に満足している。
けれど、我慢しないとそれこそ先ほど柚羽が望んでいることをやってしまいそうな勢いになる。
それをするのは、自分の気持ちに整理をつけ、自分の気持ちを彼女に伝えてから。
「……思っていることを言っていいのか?」
「うん、言葉での表現が難しいなら行動に移してもいいよ?」
今の俺にはその言葉が悪魔の囁きにも聞こえてくる。
だけど、まだその囁きに耳を傾けるわけにはいかない。
「運動してないせいか、肉付きがよくなっているんじゃないか? できるなら別のところに肉をつひぇ——」
言ってる途中で柚羽に頬を引っ張られてしまった。
柚羽の方に視線を向けると、頬を膨らませながら怒った猫の様な唸り声をあげている。
まあ本音を言えば柚羽は今のままで充分なんだけどな……。
沸々と湧き上がる男の欲望を必死に抑えながらも俺は好きな相手の体をずっと抱きしめていった。
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