93話 有言実行の女
「……え?」
突然のことでコーヒーを飲もうとした手が止まってしまう。
今、このハーフ女なんて言ったんだ?
まあ、多分俺の気のせいだと思うが……ってか気のせいであってくれ。
「だから、私がユズっちに告白しちゃうよって!」
気のせいじゃなかったようだ……。
「……もちろんいつものおふざけだろ?」
「そう見える?」
即座に返答したアリアの顔は真剣な表情そのものだった。
その顔を見て、どう答えていいのか分からず、無言のまま顔を左右に振る。
「……ってかおまえってえっと、なんていうか」
これまでそういった人にあったことがないのもあるが、色々と扱いが難しいのもあり、どうやって接していいのかわからず言葉がししどろもどろになる。
「可愛い女の子限定だけどね、基本的には普通だよ?」
「そういうことね……」
思わず安堵の声が漏れる。
「だって私の嫁わかるでしょ?」
自信たっぷりな顔で俺の顔をじっくり見るアリア。
ちなみにコイツの嫁というのはアニメ『究極勇者ライガ』に登場するライバルキャラのフウヤのことなんだが……。
アリアは嫁と言っているが、フウヤは列記とした男だ。見た目は中性的だし、声優もたしか女性だった気がしたが。
「……嫁って、フウヤは男だろ?」
「まったくカナトっちはわかってないなあ、女体化したフウヤはものすごくかわいんだぞ! しかも爆乳でさ! あ、今ならユズっちの気持ちがわかる気してきた!」
「わかったから大声で叫ぶな」
「今度同人誌貸してあげるから読んで! 安心してちゃんと貸し出しようだから」
「結構だ!」
これ以上話しているとコイツのペースに持っていかれそうになる……。
「……ってことは柚羽に何かするのはいつものおふざけか?」
「それはガチかな」
今度こそ落ち着いてコーヒーが飲めると思ったが、返答にまた手が止まる。
「修学旅行とかこの前の女子会で一緒に過ごしてみてさ、ユズっちかわいいんだよねえ〜、小動物的というか、肌もプニプニしてるし……他にもあげたらキリがないんだけど!」
柚羽の話になった途端、自分の話題になったら早口になるオタクのようにベラベラと流暢に話し出していくアリア。振る話を間違えたかもしれない。
「それにさ、ユズっちも私に興味あるのかなって思ったりするんだよね〜それこそこの前もそうだし修学旅行でも私の胸を触りまくってたし! もしかしてこれってユズっちからの愛情表現だったりするかな、って考えたら私の股に何かがはえ……」
「それ以上話すな!!!」
大声をあげて目の前の女の脳内で繰り広げられてる妄想を必死に止める。
「ほら、思春期だからすぐ妄想しちゃうんだよね〜フヒヒ」
それに対してアリアは気持ち悪い笑い声をあげていた。
……その光景に既視感を感じてしまう。
「いつもは冷静沈着な私がユズっちのことを考えるだけでこうなっちゃうんだから、これはまさしく彼女への愛情だと思うんだよね」
「……今のはボケたって認識でいいんだよな?」
「どういうこと?」
こいつの顔を見てみると、首をかしげながら「私、超真面目にいっているんだけど?」と言わんばかりの表情をしている。
「ってことでカナトっちがユズっちのことを放っておくなら、私が取っちゃうからね」
「……何度も言ってるが柚羽とは単なる幼馴染で——」
その直後、俺の話を遮る様にアリアが俺の名前を呼ぶ。
「そんな言い訳はいいから! それに私がユズっちの話をしてる時のカナトっち、結構睨む様に見ているからね」
アリアの言葉に絶句する。まったく持ってそんなつもりはなかったが……。
昔から考えてることが顔に出やすいとは言われるが、気づかないところでも出てしまうのか。
「悩んでいるなら話聞くよ? ほら、ずっと悶々と1人で悩んでるよりも人に話したほうがスッキリするっていうし!」
「……単純に聞いてみたいって顔に見えるが気のせいか?」
「うん、気のせい」
絶対に嘘だ。
キラキラと目を輝かせながら断言されても信じられるはずがない。
「さぁ!、どーんと!私の胸に飛び込んでおいで! カナトっちならラッキースケベな展開になっても怒らないから!」
アリアはいつでも受け入れOKと言わんばかりに両手を広げてこちらに向けていた。
「逃げる選択肢は?」
「ラスボスからは逃げられないのは知ってる?」
つまり、逃す気はないということだ。
というかこのハーフ女、自分のことラスボスだと思ってるのか……。
やっぱり出会した時に必死に逃げればよかったなと過去の出来事に後悔をしながら仕方なく話す羽目になってしまう。
「……と、いうわけだ」
追加で頼んだコーヒーを飲みながら中学の卒業式の出来事や原因など、事細かくアリアに説明していった。本当であれば言いたくなかったが、言わないと四六時中付き纏われそうな気がしたので渋々説明することになってしまった。
聞き手のアリアは終始、腕を組みながら俺の話すことに対し、ずっと「うんうん」と頷いていた。
「なるほどねぇ〜」
話が終わってもアリアは腕を組んだまま「うーん」「そっかぁ」など、しばらくの間ずっと一人呟いていた。
その間俺はずっと黙ったまま、アリアが話し出すのを待っていた。
……というか、話しかけても反応ないし。
「たしかにユズっちにしか興味がないからって他の女の子の告白を無視するのはどうかと思うけど、それをユズっちにぶつけるのはどうかと思うけどね」
ようやく開いたアリアの言葉に黙ったまま聞いていた。
「でも、カナトっちはユズっちを助けてたんだから問題はないと思うよ、現にユズっちだってカナトっちの傍にいるんだし」
「……そうだな」
「ってわかってるなら別に悩む必要なんかないと思うけど?」
それは充分にわかっているつもりだ。
「カナトっちは一体何が引っかかってる感じなの?」
アリアは身を乗り出す様にグイっとこちらへ顔を寄せていた。
「……自分の気持ちの整理」
誰が何と言おうともあの卒業式の出来事が起きた要因は俺にある。
それによって柚羽を傷つけてしまった。
それが払拭されない限り気持ちの整理ができたとはいえないと思っている。
「それじゃその整理はいつできるの?」
「わかったら苦労しない」
「その間にさ、ユズっちの気持ちが変わっちゃったらどうするの?」
アリアの言葉が槍の様に刺さってくる。
それに関しては考えなかったわけではないが、自分で考えるのと人に言われるのでは言葉の鋭さが違うことを身を持って実感する。
「……そうなったら諦めるしかないだろうな」
もちろん、そうなって欲しくない。
「カナトっちって嘘つくの下手だね、嫌だってのがおもいっきり顔に出てるよ」
「……うるせーよ」
吐き捨てる様に言うとアリアはフヒヒと気味悪く笑っていた。
「ならさ、カナトっち……」
「なんだよ?」
「だったらカナトっちが絶対に動くことをしてあげようか?」
ふとアリアをみると、悪いことを考えているような表情を浮かべている。
俺は何も言わずにそのままアリアの顔を見ていた。
「期限を決めて、それまでにカナトっちがユズっちに何もしなければ私がユズっちのことを奪っちゃうってのはどうかな?」
「……奪うって何を奪うんだよ」
「キザっぽく言えばユズっちの心? その後に初めてとか?」
「……あえて聞くが初めてとは?」
「そりゃあ、バー……」
「——もういいそれ以上喋るな」
間髪入れずにまたもや外で軽々しくいうべきでないことを言い出そうとするアリア。
もしかして気にしすぎてる俺がおかしいのかと思えてくる。
……絶対に違うと思うけど。
「……そんなことできるわけないだろ?」
「カナトっちが知らないだけで色々と方法はあるよ、今から事細かく説明してあげようか?」
「やめてくれ……」
ものすごく生々しい話になりそうなので、やめておいた。
「それじゃ期限は夏休み最後の日にしておこうか! 一夏の経験的な感じで燃え上がりそうだし!」
不安と呆れが混じったため息を吐き出す俺に対して、アリアは楽しそうに笑っていたのだった。
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