92話 アリアからの果し状
「……いい加減起きろ、じゃないとパジャマ洗えないだろ」
「ふにゅ〜……それなら脱がして〜」
バイク旅行から1週間近く経った平日の朝……というか昼直前。
まったく起きてこない柚羽を叩き起こしているが、布団を被ったまま中身は出てくる気配がまったくなかった。
一度布団を剥ぎ取ろうとしたが、すぐに戻されてしまい、堂々巡りへと発展してしまう。
「いくら休み中とはいえ生活リズム崩れすぎだぞ……」
「しょうがないじゃん〜……アニメの一挙放送やるネット番組がわるいんだよ〜」
布団の中から目覚めきってないこもった声が聞こえてきた。
ちなみに一挙放送になっているアニメはHDDに録画しているのだが、ディレクターズカットだから違うと言っていたな。
よくわからんが……。
これ以上ここにいても状況は変わらなさそうなので、先に他の用事を済ませるために柚羽の部屋を後にした。
「駅の方へ行くか」
とりあえず向かったのは駅前のショッピングモールへ。
平日ということもあってか客足は少なかった。おかげでのんびりすることができるのだけれども。
「とりあえず本屋だな」
買おうと思っていた漫画の発売日ということを思い出してモール内にある本屋へと直行して無事購入。
「えっと他には……」
購入した漫画をカバンの中にしまってから、スマホのメモアプリを見ていると……
「あー! カナトっちじゃん!」
遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえてそちらへと視線を向けると、目が痛くなりそうな赤髪の女がこっちへ大きく手を振っていた。
「……帰るか」
捕まったら長時間付き合わされそうだと察して、赤髪の女がこちらへたどり着く前に踵を返してその場を去ろうと思ったが……。
「なんで無言でいなくなろうとしてるの!!」
あっさりと赤髪の女……鹿島田有愛肩を掴まれ、身動きが取れなくなってしまった。
俺はその場で大きなため息をついていた。
「なーんでさー! みんなが夏休みを楽しんでる時に学校なんか行かないといけないの!」
アリアに捕まった後、引きずられる様に連れてこられたのはモール内にある飲食店へ。
店内に入って互いに注文をすると、よほど鬱憤が溜まっているのか、大声で叫び出していた。
「……テストで赤点取るのが悪い」
ちなみにクラスで赤点を取ったのはアリアと虎太郎の2人。
「私が求めてるのは正論じゃなくて慰めの言葉!」
「……俺にそんなものを求めるな」
「こうなったらユズっちに慰めてもらうしかない! またユズっち家に呼んでいい?」
「……どうぞご勝手に」
そこは俺に許可を取る必要はないだろと思いながら俺は注文したアイスコーヒーを飲んでいく。
「そういえばユズっちで思い出したんだけど、この前2人でお泊まりでお出かけしたんだって?」
アリアの言い方に思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになっていた。
柚羽のやつ話していたのかよ……。
口からこぼれない様に堪えてからアリアの顔を見ると右手を口元に当ててニヤニヤとしていた。
こいつ絶対によからぬことを考えてるだろ……。
「おまたせいたしました、チーズインハンバーグ300グラム、ライス大盛りセットになります」
タイミングよく、スタッフが注文したものを持ってやってきた。
ちなみにこれを頼んだのはアリアだ。量の多さに見ただけで胃がもたれそうになる。
「で、お泊まりまでしたのに何もなかったの?」
熱々の黒いプレートの上に置かれたハンバーグをフォークとナイフで切りながら俺の方を見ていた。
何もないと答えて終わらせようかとおもったが、この女がそんな返答で納得してくれるとも思えない。
——好きだよ、奏翔。
あのことを思い返すと、囁く様に呟いていた柚羽の言葉が脳裏に流れ出していた。
目が覚めたと思ったら耳側であんな言葉が聞こえてビックリして、ずっと寝たふりをしていた。
すぐに終わるだろうと思っていたが、柚羽も気分良くなったのかずっと呟いていた。
……中にはネット配信者も絶対に言わないであろうセンシティブなワードを連呼していたので、耐えきれなくなり、 止めさせるために抱きしめていた。
あのまま聞き続けていたら、俺の精神的におかしくなるというか、絶対に自分の欲望に負けていたと思う。
よく抱きしめるだけで我慢できたと自分を褒めたいぐらいだ。
「その顔はなんかあったって感じだね〜」
自分の脳内であの時のことの振り返りを終えると、目の前のアリアが口の中に入れていたハンバーグを食べながら不適な笑みを浮かべていた。
「……ご想像におまかせする」
「ちょっとそこらへん詳しく!」
アリアはこちらへと身を乗り出していた。
「はいはい、いいからさっさと食べろよ冷めたら美味しくなくなるぞ……」
ほんわかと湯気と香ばしい匂いを漂わせているハンバーグを指さしながら告げるとアリアは不満そうに目を細めながら黙々とハンバーグを食べていった。
「でもさ、二人でお泊まり旅行をしたってことは、ユズっちにちゃんと言ったんだよね」
「……何を?」
「ユズっちへの告白」
アリアの言葉にコーヒーを飲もうとしていた手が止まった。
その様子を見ていたアリアの表情は驚いた顔に変わっていた。
「その顔はしてなさそうだね、それなのに2人でお泊まりデートしてってどういうこと?!」
驚きが増したのか、アリアの声が店内に響き渡っていった。
「大きな声をだすな……!」
平日の昼過ぎということもあってか店内に人がいなかったのでよかったが……。
「だってさぁ! いくら幼馴染とはいえ2人きりでお泊まりデートでしょ? もちろん何も起きないはずが……!」
これ以上黙っていると根も葉もない妄想が繰り広げられそうなのでことの経緯を渋々話すことに……
「なーんだ、バイクで出かけてて雨が降ってきたから泊まることになったんだ! ってかカナトっちバイク運転できるんだ意外!」
説明すると納得したのか、アリアの顔は驚きの顔からいつもの明るい表情へと戻っていた。
それよりも柚羽はなんで肝心なことを言ってないんだよと、心の憶測で文句を呟く。
「だとしてもさ、カナトっちにお説教しなきゃいけないことがあるんだよね!」
アリアはラージライスとチーズインハンバーグを平らげ、ペーパータオルで口元を拭き終えるとビシッと音がしそうな勢いで人差し指をこちらに向ける。
「……なんだよ説教って」
ため息混じりに返す。
「いつになったらユズっちに言ってあげるの?」
「……何を?」
「何って告白に決まってるでしょ?」
『告白』ってことばを聞くたびに心臓が跳ね上がる感触。
「……前にも言ったけど、柚羽は単なる幼馴染だ」
「っていう割にはバイクでデートしちゃうんだー?」
アリアの答えにわざと聞かせる様に大きくため息をつきながら、頭を抱えこむ。
「別に好きになるって悪いことじゃないんだから、そこまで隠す必要なんてないのになぁ」
ぼやく様に正論を口にするアリア。
——それは十分すぎるぐらいわかっている。
「カナトっちが動く気がないなら、私が動いちゃおうかな?」
顔を上げると自信たっぷりな顔のアリアが映っていた。
「……動くって何をするんだよ?」
俺の返しにアリアはニヤリと口を曲げながらこう告げた。
——ユズっちへの告白にきまってるじゃん……と。
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