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9話 付き合いの長い2人だからこそ

 「奏翔、悩み事でもあるの?」


 夕飯の生姜焼きを食べ終わり、いつも通り俺が食器を洗っていると、柚羽が俺の顔を横から覗き込むように見ていた。


 「……別に何もないけど」

 「えー……顔がいつもと違うよ?」

 「あぁ、さっきパン工場を通った時に新しい顔へと変えてもらった」

 「いつから奏翔は国民的アニメの主人公になったの……? それにこの辺パン工場とかないじゃん!」


 話を終わらせようと思って適当に言ったことに対して、真面目に返されてしまう。

 今日に限って言えばできる限り、流して欲しかった。


 「って、真面目に答えて!」

 「俺は至って真面目だ」


 柚羽は俗に言うジト目で俺の顔をじっくりと見る。

 

 「ホントかな……食事中のツッコミがいつもより少なかったし」

 「……どんな基準なんだよ」

 「それにいつも食べ終わったらすぐにお風呂入れっていうのに今日は言ってないよね?」

 

 彼女の一言に俺は驚きを隠せなかった。


 「そ、それはおまえが早くゲームやりたいって言うから……」

 「そもそも奏翔が私にさっさとお風呂入れって言うのは、私のお風呂の時間が長いからその間に食器を片付けるためで——」


 柚羽の口からは次々と俺の行動を指摘していた。まるで取り調べを受けている容疑者のようだ。

 にしても、なんでここまで出てくるんだか……。


 「……わかったよ、話してやるから座ってくれ」


 俺がそう告げると、柚羽は嬉しそうな表情になっていた。


 「いっとくが楽しい話じゃないからな」

 

 ため息混じりに俺も椅子に座る。



 「……おまえ、飯食ったばかりだよな?」

 

 話を円滑にすすめるために部屋へ封筒を取りにいったのだが、戻ってみるとテーブルの上には柚羽が愛飲するアイスミルクティと土曜の買い出しの時に買ったチョコクッキーが置かれていた。ちなみにまだ夕飯を食べてから30分も経っていない。


 「話をするにはお菓子も必要じゃん! 女子会だと必要不可欠なんだよ?」


 得意げに女子会と口にするが、俺の知っている限り柚羽が女子会をしているところを一度も見たことがない。

 色々言いたい衝動をグッと抑えながら、もう一度椅子に座る。


 「……事の始まりはこれだよ」


 俺は部屋から取ってきた件の白い封筒を柚羽に手渡す。


 「これ、どう見てもラブレターだよね? いいの見ちゃって?」

 「いいよ、虎太郎にも見られてるし」


 柚羽はゆっくりと封を開けて中の便箋をとると、黙ったまま書かれている内容を見ていた。


 「……奏翔」

 「どうした?」


 柚羽の顔をみると、先ほどはがらりと変わり、真剣な表情を見せていた。


 「もちろんこの子のところには行ったんだよね?」

 「……行きたくなかったけどな」


 自分の思っていることを伝えただけなのに、相手には泣かれ、付き添いからは睨まれるという散々な結果になったが。

 俺がどのような返事をしたのか、付き合いの長い柚羽はわかっていたようだ。


 「結果はどうあれ、ちゃんと応じたことはえらいことだと思うよ、昔の奏翔なら十中八九無視してたと思うし」

 「……昔は昔、今は今だろ」

 「褒めているんだよ? あ、もしかしてわかるように頭撫でてほしかった?」


 柚羽はニヤニヤと笑いながら身を乗り出して、俺の頭へと手を伸ばしていた。

 いつもなら弾くところだが、今日に限っては抵抗する気が起きなかった。

 彼女の手が頭に触れると、髪の毛をワシャワシャとかき乱し始める。


 「あれ〜? 今日はすごい素直じゃん、もしかして私から溢れ出る母性に癒されたくなっちゃった?」

 「……やるなら黙ってやってくれ」

 「もう、素直じゃないんだから!」


 柚羽は不満そうな顔をしながらも俺の髪の毛を何度もかき乱していた。

 

 「……何で俺に告白なんてしてきたんだろうな」


 自分でも気づかないうちに声に出していた。


 「それはその子にしかわからないよ」


 柚羽の髪の毛をかき乱す速度が遅くなっていた。

 

 「中学の時の話になるけど、奏翔って見た目がいいのもあるけど、目立つって話を聞いたことがあるよ」


 目立つって……そう言えば虎太郎からも言われたな。

 そんなに目立った行動は一切していないんだけどな……。


 「仕方ないよ、その人を知ろうと思ったら最初は誰もが視覚から入っちゃうでしょ? 話すにしても相手を見て話すわけだし」

 「たしかにな……」

 「もしかしたら告白してきた子は奏翔の見た目だけで良いと思っちゃったのかもね、もちろん否定はしないけど」


 そう言って、柚羽は立ち上がると俺の方へと歩いてきた。

 俺の後ろに冷蔵庫があるからミルクティを取りにきたのかもしれない……。


 その直後、俺の肩から首筋へ柚羽の手が伸びてきた。

 後ろを振り向くと柚羽が俺の背中に身を寄せているのが見えた。


 「……どうしたんだよ?」

 「……私はその人たちと違って奏翔の良いところは全部知ってるからね」

 

 囁くような声で柚羽が何かを呟いていたが、全くと言っていいほど聞き取ることができなかった。

 

 「……何を言ったんだよ?」

 

 聞き返すと柚羽はふへへと気味の悪い笑い方をしていた。

 

 「ナイショ」


 そう告げる、離れ際に俺の耳に息を吹きかけてきた。

 突然のことでゾクゾクと体が震え出してきた。


 「柚羽!!!!」


 怒鳴る俺を見て柚羽は微笑んでいた。


 「それじゃ、私はお風呂に入らせてもらおうかな〜」


 軽快な足取りでダイニングから出て行こうとする柚羽だったが、ドアの前で立ち止まるとこちらへ振り返っていた。


 「あ、今から30分後ぐらいに洗面所に行くと、私のお風呂上がりバッタリイベントが発生するよ? もちろんリアルなので変な光も入らないから、私の産まれたままの姿が独り占め! このチャンスを見逃すな!」

 「くだらないこと言ってないでさっさと入ってこい」

 「せっかく教えてあげたのに……奏翔のばーか!」


 そう言って柚羽はドアの外へと出て行った。

 彼女の姿が見えなくなってから盛大なため息をついてしまう。


 「……ありがとな」

 

 すぐに俺は出て行った相手に小さく礼の言葉を呟いていた。

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