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87話 忘れられない夏が始まろうとしている

 「相変わらず和田塚さんぶっちぎりで1位だよ」

 「3年間ずっと1位ってすごいな」


 7月初頭に行われた期末テスト。

 毎度の如くその結果が廊下の掲示板に張り出されるのだが、1位には『和田塚柚羽』と記載されていた。

 それを見ていたクラスメイト達や他のクラスの連中が騒いでいる。

 中には掲示板をスマホで撮影する姿も。たしかあれば柚羽のファンクラブのメンバーだったような気がした。


 ちなみに堂々の1位を獲得した本人はと言うと……。


 「ユズっちどうしよう!! 補修確定なんだけど!!!」

 「……うん、そればっかりは仕方ないとしか言いようがないよ」


 掲示板から離れた廊下の隅で項垂れるアリアに声をかけていた。

 群がる連中の声にかき消され、うっすらとしか聞こえないが、おおよそ予想がついていた。

 

 「奏翔ぉぉぉぉぉぉぉ!!! また補修確定しちまったぁぁぁぁぁ!!!」


 ……俺も似たような状況だからだ。


 「……おめでとう、俺は一足早く休みを満喫することにするわ」

 「うおおおおおおん!!!」


 俺の横で虎太郎が人とは思えないような雄叫びをあげていた。

 ちなみに俺は補修対象にはならなかったが、下から数えた方が早い順位だった。

 まあ、補修対象者になってないから構わないが。


 

 「明日から休みに入るわけだし、今日の夕飯はハンバーグだよね!」

 「……昨日食べたばかりだろ」

 

 夕飯の準備をするためにダイニングに入ると、リビングで絶賛アニメ鑑賞中の柚羽がこちらを目を輝かせていた。

 

 「ハンバーグにしてくれたら夜に柚羽ちゃんを好きに使っていい権利を——」

 「あ、結構です」

 「間髪入れずに断るなああああバカぁ! ってか好き勝手めちゃくちゃにしてくれよー!!!」


 提案なのか願望なのかどっちなんだ……。


 「何であれだけ食べて胃がもたれないんだよ……」

 

 別に俺はハンバーグが嫌いなわけじゃない、柚羽ほどではないが好きな食べ物に入る。

 ——だからといって1回の食事で3個とか食べたいとは思わない。


 これは確認しなかった俺が悪いんだが、以前スーパーの特売で買った3つ1パックの冷凍ハンバーグの消費期限が昨日までだった。

 捨てるのはもったいなかったので、昨日のうちに食べなければいけなかった。

 柚羽は好物が出て喜んでいたが、一方で俺にとっては肉厚と肉汁たっぷりは1個で充分。

 気合いを入れて3つ食べ終わった後、当分の間ハンバーグは食べたくないと天に誓いたくなるほど追い詰められていた。

 

 「ハンバーグは別腹だから!」


 思い出しただけで、胃が一層重くなりそうになっているのに柚羽はケロッとした表情だった。


 「これ以上脂っこいものを食べたら俺の胃が再起不能になりそうなので、今日の夕飯は胃に優しいものにするからな!」

 「えー……」

 

 不満のままに唇を尖らせている柚羽。

 

 「あ、もしかして遠回しに今日の夕飯は柚羽ちゃんって言おうとしてる?」

 

 柚羽は目を爛々と光輝かせながら俺の顔を見ていた。

 柚羽を夕飯になんかしたらもっと胃がもたれそうな気がするけどな……。

 

 そう言いたくなる気持ちを抑えると、ため息混じりに棚から取り出したものをダイニングテーブルに置いた。


 「夏にはぴったりのそうめんだ」


 柚羽は不満そうな顔でCMでよく見かける高級の部類に入るそうめんの袋が置かれていた。

 ちなみにこれもスーパーの特売で買ったものだった。



 「……さっぱりした」


 いつも通り、食べ終わったから柚羽に風呂へ入るように伝えてから、片付けを済ませてから風呂へと入った。

 

 「やっと胃も落ち着いたか……」


 そうめん&鰹だし+梅干しという胃に優しい組み合わせで食べたのがよかったのか、食事前の胃の重さは無くなっていた。

 当分の間ハンバーグはやめておきたいところだ。と、言っておきながら柚羽の押しに負けそうな気もするが……。

 

 どうしようもないことを考えながらダイニングに入ると、先ほどと同じように柚羽がリビングでアニメ鑑賞中だった。

 明日からテスト休みに入るから、今日は寝落ちするまでこのままだろう。


 「邪魔はしないほうがいいか……」


 冷蔵庫から炭酸水のペットボトルを取り、自分の部屋に行こうとするが閉まる音がした直後に柚羽がこちらを向いていた。


 「あ、お風呂から出てたんだ!」

 

 柚羽はソファの背もたれに寄りかかりながら俺の方を見ていた。


 「……まあな、これだけ取って部屋に行こうと思ってな」


 俺は右手に持っていたペットボトルをあげると軽く左右に振る。

 

 「えー、せっかくだからこっちに来ればいいじゃん!」


 そう言って柚羽はここに座れと言わんばかりにポンポンとソファを叩いていた。

 

 「それにテスト期間で奏翔を堪能してなかったじゃん? それに奏翔も柚羽ちゃんを堪能してなかったでしょ?」

 「……何で俺まで一緒の扱いを受けているんだよ」

 「むぅ……そこは恥ずかしがるところじゃないんだけどなあ」


 不満そうに唇を尖らせながら、俺の顔をじっと見る柚羽。


 「……わかったよ、行けばいいんだろ」


 俺のため息混じりの返答に不満そうな柚羽の顔が一気に明るくなっていた。

 ……つくづく俺も意思が弱いなと自分自身に呆れ、大きくため息をつく。


 

 「ふわぁ〜数日ぶりの奏翔成分たまらん」


 俺がソファに腰を落とした直後、柚羽はこちらに背を向けながら俺の膝の上へ座ると、艶のある声をあげていた。

 

 「……変な声出すなよ」

 「しょうがないじゃん、奏翔の体が気持ちいいのが悪い!」

 「俺が悪いなら自分の部屋に行くから」

 「だーめー!」


 柚羽は子供のように手足をバタつかせていた。


 「ほら、私ばっか堪能するのは悪いから奏翔を思う存分に柚羽ちゃんを堪能してもいいんだよ?」


 そう言いながら柚羽は俺の両手を掴むと自身の腹部へ。必然的に柚羽に寄りかかる形へなっていく。

 

 「あ、私はいつでも準備いいから、奏翔も準備ができたらね?」


 柚羽は首をこちらに向けながらニッコリと微笑んでいた。


 「……何の準備だよ?」

 「柚羽ちゃんをめちゃくちゃにすることかな? ほら、夏休みにはいるし一夏の経験的な感じ?」

 「黙ってテレビ見てろ」

 「うにゅ……」


 ため息をつきながら、柚羽の顔を両手で挟み、テレビの方へと無理矢理に向かせた。

 

 

 「アニメとか見てるとバイクって気持ちよさそうなんだけどね〜」


 テレビを見ながら柚羽がつぶやく。

 画面の中ではヒロインを後ろに乗せた主人公の男が颯爽とバイクを走らせていた。


 「そういえば奏翔ってバイクの免許もってたよね?」

 「そうだけど、おまえも持ってるだろ?」

 「取ってから1回も運転してないよ?」


 俺も柚羽も互いの父親の勧めで高校に入ってすぐにバイクの免許を取った。

 最初に取ったのは原動付自転車、俗にいう原チャ。

 

 「あれ、奏翔はたしか中型まで取ったんだよね?」

 「そうだな」

 「たしか、取ったらお父さんからバイク使っていいって言われてたんだっけ?」

 「……そうだな」

 

 昔から、柚羽の父親の洋介さんが運転するバイクの後ろに乗せてもらっていたこともあって、バイクには興味があった。

 俺たちの両親が海外への転勤が決まった時に、洋介さんから免許取ったら使っていいと言われ、家の駐車場にある。


 家のことが忙しくてそこまで乗っていないが、クラッチ操作が必要なマニュアル車ではなくオートマ車のビックスクーターなので少し走れば感覚を思い出せるとは思うけど……。


 「……柚羽」

 「どうしたの? あ、もしかして準備できた? うん、私はいつでもいいよ? でも最初は優しくしてくれると嬉しいな」

 「……何を言っているんだよ、いや答えるな」

 「で、どうしたの?」

 「……久々にバイクを走らせようと思ったんだけど、せっかくだし遠出するか?」

 

 俺の話を聞いた柚羽は素早く体をこちらに向けると、目を輝かせながら俺の顔を見る。


 「行きたい! いつ行くの?明日?」

 「……全然乗ってないから点検だしてからな、それに少し走って感覚思い出したいし」

 「わかったよ、それにしても奏翔から誘ってくるなんて……あ、当日は勝負下着のほうがいい? ってことは奏翔の好きな黒い下着買ってこないと!」

 「……それはご自由に、あと買いにいくなら1人で行ってくれ」


 ため息混じりにそう答えるも、興奮状態の柚羽の耳に声が届くことはなかった。


 高校生活最後の夏休みだし、こういった思い出もいいのかもしれない。

 そう思いながら俺は家の近くのバイク工場の場所をスマホで探していった。

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