86話 秘めたる想いを閉じ込めて
『カナトっちはユズっちのことどう思っているの?』
俺の胸の奥に何かが刺さる感覚——。
はっきり言ってしまえば、こんな思いをしないで済む……。
だけど、それは……。
「……単なる幼馴染だな」
俺は平然を装いながら答える。
——この感情は絶対に出してはいけないものだ。
あの時の……自分自身への戒めとして。
『絶対にそれだけじゃないでしょ?』
間髪入れずに返してきやがったぞこのハーフ女……。
「……何を根拠にそんな自信たっぷり否定してくるんだ」
『だって修学旅行の時、ユズっちと2人きりになった時嬉しそうに頭撫でてたし』
絶対に見えてないと思ったのに、バッチリ見られてた……。
『ゲームとアニメ三昧の日々を送ってたけど、視力はずっと2.0のままなんだよねー』
更に追い討ちをかけるように自慢げに話すアリア。
嬉々と話す感じがどうしようもない事なのにマウントを取られた気分になって若干イラついてくるな……
「……別に頭を撫でるぐらい普通だろ?」
『ふーん、そんじゃカナトっちは私の頭も撫でてくれるんだ?』
「撫でられたいのか?」
『撫でられるより撫でたい派だね』
答えは微妙に噛み合ってない気がする。
いや、このまま変な感じに話が流れてくれたらそれは好都合だ。
『じゃなくて、普通はそう簡単に撫でたりしないでしょ!?』
「もしかしたら、お前の見間違いかもな」
『カナトっち……』
「なんだよ?」
『わざと話を逸らそうとしてない?』
何でこのハーフ女はこうも察しがいいんだ……。
「……何でそこまでして聞き出そうとしてくるんだ?」
『だってさ、あれだけユズっちのカナトっちへの思いを聞いちゃったら相手の意見も聞きたくなるでしょ?』
「つまりは単なる野次馬根性か」
『ヤジウマってなんだっけ? まあいいや。 ってかカナトっちも気づいているんでしょ?』
「……何を?」
『ユズっちがカナトっちのことを好きってことをだよ!』
——あぁ、知ってるよ。
柚羽のあの接し方はここ数ヶ月前に始まった事じゃない。
もうずっと長いことだ。
と言っても、そうだと俺が気づいたのは中学の終わりの頃。
その時に俺もアイツへのこの感情に気付いたのもその頃。
だから、中学の最後に伝えようと思っていた。
けど……卒業式の後にあの事件が起きた。
原因は俺の身勝手な行動。
俺のせいで、柚羽を傷つけてしまったのに……そんな状態で自分の気持ちを伝えられるほど図々しくはなれなかった。
だからあの時、俺は……
——安心しろ……俺はずっとお前の友達だ。
こう告げるしかできなかった。
これ以上柚羽を傷つけたくないという気持ちと——。
それでもアイツの傍にいたい気持ち——。
そして、この言葉は自分への償い——。
あの時の言葉は当時の俺の中にあった様々な感情が混ざり合ったものだ。
「……知らないな」
『絶対に嘘だよね!?』
アリアは大声をあげて全力否定をしていた。
スピーカー越しに突如大きな声が聞こえてきたので、耳の奥からキーンという音が鳴り響く。
「……いきなり大声あげるな鼓膜が破れたらどうするんだよ」
『嘘をつくカナトっちが悪い!』
どんな言いがかりだよ……。
たしかに嘘をついているのは間違いないが。
「……それじゃ仮にだ、俺がアイツの気持ちを知ってたとしてどうなるっていうんだ?」
『ユズっちの気持ちに応えてあげてほしいんだけど!』
何と言うかストレートな答えだな。
「……アリア」
『どうしたの? やっと素直にユズっちに——』
「さっきも聞いたが、どうしてそこまで柚羽の肩入れをするんだ?」
なんかくだらないことを言いかけていた気がしたので、無理やり遮って理由と聞く。
『だって、友達が幸せになってくれれば嬉しいじゃん』
……予想外どころか、至極真っ当な答えが返ってきた。
『もちろん友達というのはカナトっちも含まれるからね』
「……あっそ」
『あれ、もしかして照れたりしてるー?』
「それはない」
正直言えばアリアから友達と認識されているとはな……
単なるクラスメイトや柚羽の古い付き合いぐらいしか認識されてないかと思っていた。
『まあ、カナトっちにも心の準備とかあるとは思うけど、できるだけ早くユズっちに伝えてほしいけどなあ』
これ以上、応対するとアリアのペースに飲まれそうな気がしたので、ため息で返した。
「……そういえば柚羽はまだ寝てるのか?」
『ぐっすり寝てるよ』
時間を確認すると、いつもなら夕飯を食べ終わっている時間になっていた。
「……悪いけど、今日はそのまま寝かせてやってくれないか?」
さすがに今から人の家に行くのも失礼だし、ぐっすり眠ってるならそのままでいいだろう。
『こっちは大丈夫だけど、ユズっちの両親には伝えなくて大丈夫かな?』
「俺の方から連絡しておく」
もちろん嘘だ。
仮に柚羽の父親である洋介さんや母親のみちるさんに連絡しても2人揃って「奏翔、任せた!」と言うだけだろう。
『わかったよー』
「それと、明日迎えに行くからと柚羽に伝えておいてくれ」
『カナトっちが迎えに来るの?』
「まあな、柚羽の両親、土日でも構わず仕事だし」
『そうなんだー』
アリアは疑う様子もなく素直に聞いてくれた。
「なので、後でいいから住所送ってくれ」
『わかったよ、ちなみに来るとしたら何時ぐらい?』
「昼ぐらい」
『了解ー! それじゃまた明日ね!』
通話が完了のを確認してから大きく息を吐き出す。
色々と見透かされてる感じが気が張りっぱなしだったので、やっと解放された気がしていた。
「……さてと、飯にするか、今日は簡単でいいな」
そう呟きながら部屋を出ようとすると、スマホからピコンと電子音が鳴り出した。
画面にはアリアからのメッセージの通知が表示されていた。
アプリを起動させて確認すると、先ほど頼んだアリアの家の住所と1枚の写真。
——ベッドでくの字になってぐっすり眠っている柚羽の姿。
そしてその後すぐに……
Aria.R.P
『カナトっちが寂しがってると思って送ってみたよ! ってかユズっちの寝顔可愛すぎじゃない!?』
アリアからのメッセージを見て、ため息をつくと同時に呆れた顔をしたゲームのキャラのスタンプを送りつけた。
「……悪いな、あいつの寝顔はいつでもみてんだよ」
そう呟きながら俺はダイニングへと向かっていった。
そして次の日。
ナビアプリを使い、約束通り昼頃にアリアの家へとたどり着くことができた。
「……思ってたより普通の家だな」
海外の人間が住んでいるから洋風の家を想像していたが、たどり着いたのは周辺と変わりない日本家屋だった。
そう思いながら玄関のインターホンを押すと、中からドタドタと慌ただしい音が聞こえてきたと思ったら、玄関が勢いよく開いた。
「あ、やっぱカナトっちだ! ユズっちー! カナトっちがきたよー!」
中から出てきたのはフウヤの描かれた白のTシャツ、ジーパン姿のアリア。
その後ろには少し青ざめた顔の柚羽の姿があった。
着替えは持ってなかったので、昨日と同じままの服装だった。
「……大丈夫か?」
俺が声をかけると柚羽はゆっくりと顔を左右に振っていた。
「うぅ……頭がぐわんぐわんするし、若干気持ち悪い〜」
「薬持ってきたからこれ飲んどけ」
柚羽に家から持ってきた顆粒タイプの頭痛薬と途中のコンビニで買ってきた水を渡した。
炭酸を飲んだ次の日は頭痛に悩まされている。
頭痛薬を飲めば少しは落ち着くみたいだが、薬の副作用で動けなってしまうので俺が迎えに来ていた。
「アリアさんごめんね……」
薬を飲み終わった柚羽はアリアの方を向くと頭を下げていた。
「謝らないでよ、飲み物出したのは私なんだし!」
結局はアリアと柚羽、両方が頭を下げていた。
「何だ、この状況……」
何もしていないのに、ものすごい疎外感を感じていた。
「ユズっち、気をつけてね! カナトっちはちゃんと家まで送るんだよ!」
少ししてから俺と柚羽はアリアに見送られながら歩き出した。
ちなみに別れ際にアリアが俺の顔を見てニヤけていたが、昨日の通話の流れでどうしようもないことを考えているのだろう。
駅に着くと、すぐに最寄駅へ向かう電車到着の案内放送が聞こえてきたので、柚羽の手を引っ張り電車に乗った。
休日の午後ということもあってか、乗った車両には人の姿がほとんどなかった。
空いている席に座ると、柚羽の体を自分の方へと引き寄せる。
「わっ!? どうしたの?」
「……薬の副作用で眠いんだろ、駅着いたら起こすから少し寝てろ」
「やっぱ気づいてたんだ、やっぱり奏翔は優しいね〜、帰ったら私を好きにさせ……ふ、ふへへ〜」
柚羽は毎度のように不気味な笑い声を上げるとそのまま眠っていった。
「……なんか落ち着くな」
俺に寄りかかりながら心地良さそうな寝息を立てる柚羽を見て、昨日の落ち着かない気分がなくなっていることに気づいたのだった。
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