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83話 この気持ちはやっぱり……

 『おばさん……! かなとは?』

 『今はぐっすり寝てるから平気よ』


 これはいつの出来事だろう……。

 小学校の時なのは覚えているが、この時は滅多に風邪をひかない俺が珍しく高熱で倒れていた。

 それを聞いた柚羽が放課後、藤野家を訪れていた。

 しかも学校から走ってきたのか、家にきた時は息を切らしていたようで俺の母親に背中をさすられながら呼吸を整えていたようだ。


 『それじゃ一緒に奏翔の様子を見に行こうか?』

 『うん……!』


 この時の俺は高熱で半分意識が朦朧としていたので、この日のことなどほとんど覚えていなかった。

 唯一覚えていることと言えば……


 『かなとー!』


 今とほとんど変わらない声量とバン!という勢いよくドアを開ける音。

 

 『ゆず……は』

 

 ゆっくりと体を音の方へ向けると、子供用のマスクをつけた柚羽の姿が見えた。

 

 『こらこら、そんな大きな音だしたら、奏翔がびっくりしちゃうでしょ』

 

 俺の母親も柚羽を嗜めながら、部屋へと入ってきた。

 

 『奏翔の体起こすから、柚羽ちゃんはおでこのシート張り替えてくれる?』

 『うん!』

 

 母親がゆっくりと俺の体を起こすと、柚羽は言われた通りに熱を冷ますジェルシートを貼り替える。

 貼り替え終わると、ペシペシとジェルシートを押し込むように軽く額を叩いていた。

 

 『おばさん終わったよ!』

 『うん、ありがとう、それじゃ体温計とってもらえる?』


 柚羽は言われた通り、持ってきたスティックタイプの体温計を母親に渡すと、母親は俺の腋にいれていった。

 そしてしばらくして、体温計がピピピと鳴り出し、取って確認をしていた。


 『38.2℃……うん、朝に比べたらだいぶ下がったね』

 

 母親はそう言うと再び俺の体を倒すと、布団をかけていった。


 『もう少ししたら夕飯だから、それ食べたら薬のもうね。それじゃ柚羽ちゃん下に行こうか?』


 母親は立ち上がると柚羽に声をかけるが、柚羽は左右に首を振っていた。


 『かなとが寂しいと思うからここにいる!』

 

 柚羽の返事を聞いた母親は軽くため息をついていた。

 だが、予想通りの答えだったのか、困った表情ではなく少し嬉しそうな顔をしていた。


 『わかった。おばさんは下にいるから何かあったら呼んでね。 そうそう、マスクは取っちゃダメだよ? 柚羽ちゃんが風邪引いたらヨウさんとミッちゃんに怒られるのは私なんだからね』

 『うん! わかった!』


 元気のいい柚羽の声を聞いた母親は持ってきた体温計や熱を吸収して温くなった使用済みのジェルシートを持って部屋を出ていった。

 それから、柚羽は時折、学校であったことをなどを話していたが、熱で苦しんでいたため話の内容はほとんど覚えていない。

 ただ覚えているのは、布団の中が熱であまりにも暑かったということだけ。

 

 『ゆずは……』

 『どうしたの!? もしかして喉乾いた?』


 俺が声をかけると柚羽は水を取りにいくため、部屋を出ようとするが必死に呼び止めると、布団の中から手を出した。


 『ど、どうしたの?』

 

 そう言って柚羽は俺の手を両手で包み込むように握っていく。

 手を出したのは布団の中が熱で暑く、我慢できなかったので涼しさを求めてだった。

 もちろんこの時の俺にはそれを説明する気力も体力もなかったわけで……。


 『大丈夫だよ、私がずっといるからね!』


 柚羽は俺が求めているものとはまったく違う解釈をしていたのだが……。

 今になってみれば、これがすごく嬉しかった。


 ちなみに俺の手を握りながら柚羽が俺のベットに突っ伏して寝ていたのは言うまでもない。




 

 

 「……ふわぁぁぁ」


 さっきまでの光景から一瞬で真っ暗な空間へと移動していた。

 

 「……さっきのは夢か」


 呟きながら枕元においていたスマホの画面を見ると、いつもなら夕飯を食べている時間になっていた。


 「それにしても懐かしいものを見たな」


 ため息混じりに独りごちながら体を起こそうとするが、膝に重みを感じていた。

 最初はわからなかったが、少しずつ目が暗闇に慣れていき、そこにあるものに気づいた。


 「ついさっき見たような光景だな……」


 あの時と変わらず、俺のベッドで突っ伏して寝ている柚羽の姿がそこにあった。


 「まったく……こんなところで寝てたら風邪ひくだろ」


 柚羽の体に当たらないようにゆっくりと体を起こしていく。

 それなりの時間寝たせいか、先ほどの頭痛はしなくなっていた。

 

 「体もさっきに比べたら随分と楽だな……」


 腕を伸ばしていくと、肘の部分からパキパキと音が鳴り出した。

 昼過ぎからずっと寝ていたからだろう。運動不足だからはないはずだ。たぶん……。


 「こんなところで寝てると風邪ひくぞ……」


 心地良さそうな寝息を立てている柚羽に声をかけるが起きる気配は全くない。

 この光景を見て、さっきの夢のことを思い出していた。


 「……あの時といい、今回といい一緒にいてくれてありがとな」


 俺にしか聞こえないぐらいの声で呟きながら柚羽の髪を撫でていき、使っていた布団を彼女の体にかけていった。

 

 「調子も良くなったし、夕飯の準備をするか……」


 ゆっくりと立ち上がると、柚羽を起こさないようにゆっくりと部屋から出ていった。


 「……風邪は治ったけど、まだダメそうだな」


 自分の不甲斐なさにため息をつきながらゆっくりと階段を降りていった。



 「あ、奏翔いた! 寝てなくて平気なの!?」


 夕飯の準備をしていると、雪崩が起きたかのようなドタドタという音がした後、勢いよくダイニングのドアが開き、柚羽がこちらを見て大声をあげていた。


 「……さっき測ったらほぼ平熱だったから平気だ、念の為熱冷まし用のシートも貼ってある」


 そう言って俺は柚羽に見えるように前髪を上げて額の部分を見せる。


 「でも治ったならよかった」


 安堵の声を上げた柚羽は後ろから抱きついてきた。


 「……病み上がりの人間に抱きつくか?」

 「ただ抱きついているんじゃないよ? 奏翔の風邪が完治するように温めてあげているの!」

 「……あっそ」


 俺がいつものようにため息混じりに返すと、柚羽は「うへへ」と気味の悪く笑いながら横から顔を出していた。

 

 「何作ってるの?」

 「うどん」


 熱は下がったとはいえ、そこまで食欲はなかったのでセールで買った冷凍うどんと醤油出汁のスープの素で済ませることにした。

 目の前のガスコンロの上には鍋に入れたうどんがぐつぐつと音を立てていた。


 「そろそろか……柚羽、抱きついてないでそっちに座ってくれ」

 「むぅ……もっと抱きついていたい」

 「……飯食った後なら好きなだけ抱きつかせてやるから今は飯を食わせろってか、お前の分も作ってるから食べろ」


 その直後、後ろからきゅうっと腹の虫の音が聞こえると、柚羽は「うぅ……」と唸り声を上げながら抱きしめる力を強めていった。

 

 


 「ごちそうさまでした」

 「ごちそうさまでした!」


 ほぼ同時に手を合わせながら挨拶をする俺と柚羽。

 使用した鍋や食器を洗ってから、薬を飲んでからリビングのソファに腰を据える。

 その間に柚羽はお風呂に入ってくると意気揚々とダイニングを出ていった。

 

 「……あいつが戻ってくるまでに寝なきゃいいが」


 そんな俺の思いは杞憂に終わり、走っているのがわかるぐらいドタドタという音が聞こえてきた。


 「戻ってきたよ! さぁ、柚羽ちゃんをたっぷりねっとりハグするんだ!」


 そう言いながら『乙ではなくポニーテール』と書かれた緑のTシャツに白のハーフパンツ姿の柚羽が俺の目の前に立っていた。


 「……はいはい、どうぞ」


 ため息を混じりに両手を広げながら告げると柚羽は飛び込むようにガシッと俺の体に抱きついてきた。


 「ふへへ〜、やっぱ奏翔の体は最高だぜ! あ、もちろん奏翔も柚羽ちゃんの体を思う存分——ってあれ?」


 これからのことは次の日、柚羽から聞いたことだが、抱きつかれた直後に俺は夢の世界へと旅立っていたようだ。

 薬を飲んでいたこともあるし、柚羽が風呂上がりで心地よい体温で抱きついてきたことも考えられるが……。

 1番の要因は……。

 俺にとって柚羽に抱きつかれるのが一番心地よいと思っていたからだ。

 

 ——これは風邪による寂しさではなくて俺の本心。


 まあ、口が裂けても柚羽には言えないが。

★☆★★☆★読者の皆様へ★☆☆★☆


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