82話 甘え甘えられたい
「奏翔、起きてる?」
「……おき……て……る」
夜中に目が覚めてから、色々と考えていたのだが気がついたら寝てしまっていたらしい。
布団の中で丸まっている柚羽が俺の顔を見ていた。
「うん、まだ寝てるね……奏翔がこんな時間まで寝てるなんて相当疲れてたんだね」
柚羽はゴロゴロと体を転がしながらベッドから降りていく。
「えっと、パジャマはあったあった!」
すぐに床に転がっているスウェットタイプのパジャマを拾っていく柚羽。
その際に自身の体を見て、大きくため息をついていた。
「むぅ……せっかく2人きりで寝たのに何もしないなんて、女の子に失礼なんだよ?」
「……おまえが女子代表みたいな言い方するな」
すかさず返すと柚羽は口を尖らせていた。
——必死に自分の欲望と戦ってきた俺の身にもなってくれ。
そう口にしたくなる気持ちをグッと抑えつつ布団をめくり、ゆっくりと体を起こすが……
「柚羽……」
「どうしたの? もしかしてお目覚めのハグとチューが必要?」
揶揄うような顔で俺を見ている柚羽。
いつもならすぐにため息で返したいところだが、今日に限ってはそれどころじゃなかった。
「……頭が痛い」
俺はそれだけ告げるとそのまま再びベッドに倒れ込んでいった。
「38.7℃……」
柚羽は着替えるついでに持ってきた銃型の非接触体温計を俺の額に向けて計測をし、表示された数値を見て声を上げていた。
ちなみに柚羽の服は『箱推し!』と書かれたTシャツにハーフパンツ姿。
修学旅行中は周りの目もあってか、それなりの服を着ていたが、今の姿を見て少し安心感を覚えていた。
「修学旅行で疲れたのかもしれないね」
「……かもな」
1日中歩き回り、夜は色々ありすぎてゆっくり寝ることもできなかった。
その前から色々とやっていたので、落ち着いたことで一気に疲れが出てしまったのかもしれない。
幸いなことに今日と明日は休みなので、ゆっくり休めば治るだろう。
「……柚羽」
「なに?」
「今日の夕飯はアプリを使って注文してくれ、俺の分は考えなくていい」
「奏翔はどうするの?」
「……うどんがあったから、食欲が出たら適当に作って食べる」
この前、買い出しに行った時にうどんが安かったので大量に買ったことを思い出した。
「とりあえず、今は薬を飲んでもう一度寝る」
「薬飲むなら、少し食べないと胃に負担かかっちゃうよ?」
「……食欲が出てこない」
頭を殴りつけたみたいに頭痛がとまらないせいか今は、まったく食欲が出てこなかった。
「そうだ、昨日新幹線の中で食べようと思ってたお菓子があるからもってくるね!」
ポンと手を叩いた柚羽はそれだけ告げると、部屋を飛び出して行った。
すぐにドタドタと音を立てて階段の登ってくる足音が聞こえていた。
「はい、全部食べちゃっていいから! あと、これも持ってきたから」
柚羽の手にはコンビニで売っている小袋に入ったビスケットと額に貼るジェルシート。
「シート貼ってあげようか?」
柚羽はニコニコとした嬉しそうな顔でシートを横に伸ばしていた。
「……それぐらい自分でできる」
柚羽からシートを受け取ってから額に貼っつけた瞬間ひんやりとした感覚が体全体に広がっていく感じがしていた。
そういえば、この前みた番組で冷静になるのにこれをつけている芸能人がいたのを思い出していた。
「むぅ……それならビスケット、あーんしてあげようか?」
柚羽は不満そうな顔で小袋を上げて中からビスケットを取り出したのはいいが、既に俺の口元まで来ていた。
「……してあげようかって言う間にもうやる気満々だろ」
「だって奏翔の場合こうでもしないとすぐ断るし!」
柚羽の言葉に仕方なく俺は口を開けるとビスケットが口の中に入っていった。
なんか餌付けされてる小動物になった気分だ。
「これだけ食べれば大丈夫だと思うから、薬もってくるね? あ、その間に着替えた方がいいかも」
「……たしかにな」
「あ、よかったら私が着替えさせてあげようか? 奏翔の裸を想像しただけで体が疼き出してきそう……!」
「……風邪が悪化しそうだからいい」
俺は手で柚羽を振り払う仕草を見せていた。
それをみた柚羽は唸り声を上げながら俺を睨みつけ、そのまま部屋から出て行った。
「……とりあえず着替えるか」
クローゼットから別のパジャマを取り出し、すぐに着替えるとそのまま布団に入った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「寝ちゃってる……」
奏翔に薬を飲ませた後、喉が乾い時にすぐ飲めるようにお水を入れたポットを持って彼の部屋に来ていた。
決してやましい気持ちとかはまったくない……うん。
ほら、風邪って万病の元っていうぐらい、いろんな病気を併発させてしまうから常に看病しないとね?
——っていうのは建前で本音を言えば奏翔と一緒にいたかっただけなんだけど。
修学旅行の2日間は一言でいうなら地獄そのものだった。
昼間はグループとして奏翔と一緒にいれたけど、他の人の目があったし、夜は別々の部屋だったので、色んなものが溜まりに溜まっていた。
しかも、帰ってきてから奏翔の様子も変だったし。もしかしたら昨日の段階で体調を崩してたからなってたのかもしれない。
ほら、風邪を引いた時って人に甘えたくなるっていうし。
「だったら、そのまま思う存分私に甘えまくってもよかったのになぁ……」
奏翔がその気にさせるために下着で一緒に寝たのにと思いながら大きくため息をついてしまう。
「うぅ……ん」
1人で勝手に欲望に塗れたことを悶々と考えているとベッドで眠る奏翔が苦しそうな声をあげていた。
すぐにベッドの方へ目を向けると、奏翔が寝返りをうって体を横にして眠っていた。
熱が高いせいか、顔にはうっすらと汗をかいている。
「……そうだ!顔拭いてあげよう」
汗をかいた時にはこまめに拭いてあげるのがいいってことを思い出した。
け、決して奏翔の顔に触れたいとかそんな邪な気持ちはまったくない……うん、たぶん。
洗面所からタオルを持ってきて、彼の顔を拭いていく。
「奏翔のほっぺたぷにぷにしてて気持ちいい〜」
気がつけば彼の頬を軽く摘んだり、指で突いたりしていた。
何でこんなことをしているのかと言えば、早い話、欲求不満が爆発しかけていた。
修学旅行の2日間が拍車をかけたといっても過言ではない。
ついでに言うと、いつも強気な奏翔が風邪の影響で少し弱々しく見えているのもあるのかもしれない。
「……い、今ならバレないよね! それに風邪ひくと甘えたくなっちゃうからしかたない!」
他人ではなく自分への言い訳を口にしながら、自分の唇を彼の頬へと近づけていくが……
「ゆず……は」
突然名前を呼ばれて、心臓が飛び上がりそうになっていた。
そして飛び上がるように彼から離れる。
「ち、ちがうよ! 奏翔のほっぺにちゅーをしようと思ってたわけじゃなくて! 直接触って熱を測ろうとしていただけだから!」
頭の中で思いついた言い訳をベラベラと述べていくが、奏翔は目を瞑ったままだった。
布団から片手をだして私の方へと伸ばしながら——。
「暑いのかな?」
私は伸ばしてきた手を両手で掴むと彼の手はかなり熱をおびていた。
拭いたところも再び汗をかいていたので、暑さのあまり本人も気づかないうちに手を出したのかもしれない。
「そういえばずっと前、奏翔が風邪を引いた時もこんな風にしてたっけ……」
その光景を見て昔のことを思い出した。
たしか小学校の時に珍しく奏翔が風邪を引いて、学校帰りに奏翔の家に向かっていた。
熱で苦しそうにしている奏翔を見て、私は彼の手をずっと握っていた。
その時の私にはそれしかできなかったからだ。
「大丈夫だよ、私がずっといるからね!」
あの時と同じよう言葉を彼に向けて呟いたのだった。
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