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81話 奏翔に眠る感情

 「もしかして、疲れてる?」


 自身の胸に埋もれる俺を見た柚羽が心配そうな声をあげていた。


 「……疲れたかもな連日、動きっぱなしだったし」

 「疲れてるなら柚羽ちゃんのお胸を揉んでもいいんだよ?」

 「……それはいい」

 「むぅ……」


 顔を見てないのでわからないが、返しと声のトーンから不服であることは間違いなさそうだ。

 今の状態でそんなことしたら、柚羽じゃないが押し倒してしまいそうになる。

 おそらく柚羽なら嬉々として受け入れると思うが、そういうところまで踏み込みたくない。


 

 「……悪い、さすがに疲れたよな?」


 気分というか気持ちが落ち着いたのはいいが、結構な時間を過ごしていた。

 家に帰ってきたのが昼を過ぎたあたりだったが、今は若干日が沈みかけている。


 「ううん、ビックリしたけど、珍しい奏翔を見て疼きを我慢するのが大変だったよ」

 「……いつも通りで何よりだ」

 「だから今度は柚羽ちゃんの番だから!」


 そう言って柚羽は大きく両手を広げながら俺の方へと飛びついてくると、腕を俺の背中にまわし、力強くがっちりと抱きしめていた。

 

 「うぅ……奏翔の体が一番落ち着く〜」


 そう言いながら、柚羽は「ふへへ」「うひひ」などいつもよりも気味の悪い声をあげていた。


 「……人の体に抱きつきながら変な声出すなよ」

 「むぅ……これでも気持ちを抑えているんだよ?」

 「念のため聞くが、抑えないとどうなるんだ?」

 「外には出せないような声が出ちゃうよ? そうなったら勢いに任せて奏翔を襲っちゃうけどいい?」

 「……変な声のままでいいや」


 そうなった時は俺も色々と大変なことになりそうだ。

 ならないようになんとかして気持ちを押さえつけるが……。


 「むしろそこは理性を解き放たれた獣のように私の体に貪りついてほしいけどなあ」

 「……俺がやると思うか?」

 「やるかやらないかで言うと、やってほしいんだけど?」

 

 間髪入れずにとんでもないことを返してくる柚羽に対してため息で返す。


 「……そこまでやる気力も体力もないので、今日はこれで我慢しろ」


 そう言うと、俺も柚羽と同じように彼女の体を抱きしめた。


「ふわっ……!? ふへへ〜……今日の奏翔すごい積極的じゃん」


 突然のことで柚羽は一瞬、体をビクっとさせていたが先ほどと同じように気味の悪い笑いで誤魔化していた。


「……嫌ならやめるぞ?」

「やだ、やめないで……」


 柚羽は小刻みに体を震わせながら俺の体を抱きしめる力を強めていった。

 

「大丈夫だ、俺も離れたくないし……」


 ——とりあえず今だけは。

 

 

 

 『おとうさん! わたし、かなとと結婚するの!』


 俺の目の前で記憶に残っている少女——幼い頃の柚羽が、「おとうさん」と呼んだ男の人へ人差し指にかかっている赤い宝石を模した大きな指輪を見せていた。


 『ゆずは! べ、別にそんなんじゃないから!』


 少女の後ろで少年——幼い頃の俺が顔を真っ赤にしながら大声をあげていた。

 そんな少年の人差し指には赤い宝石を模した指輪がかけられている。

 

 『ほう、結婚するには誓いのチューが必要なんだぞ? それができなければ……』


 幼い柚羽の指についた指輪を見た、今とほとんど変わらない容姿の柚羽の父、洋介さんは自分の娘を揶揄うような顔でそう告げていた。

 

 『できるよ! かなとこっち向いて!』


 名前を呼ばれ、振り向くと同時に幼い柚羽は目を瞑りながら自身の唇を少年の頬へと触れていた。

 突然のことで幼い俺は大きく目を開け、少女が離れるとすぐに手の甲で、頬をゴシゴシとこすりだす。

 

 『ば、ばか! 何をしているんだよ!』

 『ちかいのキスだよ?』


 幼い柚羽はそう答えるとすぐに父親の方へと向いた。

 

 『ほら! できたよ、これでわたしはかなとのお嫁さんだよね!』


 そして自信たっぷりな顔ではっきりと告げる幼い柚羽。


 『くそー! 最近は俺にチューしてくれないのによぉ! ちくしょう、ヤケ酒だ! ユウジ、今日は飲みまくるぞ!』

 『そうやって酒ばっか飲んでるから柚羽ちゃんがチューしてくれなくなるんだぞ』


 目の前で缶ビールを持ちながらそう話す俺の父親。


 『かなと!』

 『なんだよ?』

 『えへへ〜だいすき!』

 

 幼い柚羽は満面な笑顔のまま俺に抱きついていた。


 ——これは俺の記憶に残っている、古き良き思い出だ。

 

 「……懐かしいな」


 一連の流れを俯瞰的に眺めていたため、これが夢だと気づいた途端、ゆっくりと辺りが真っ白になっていた。



 

 「何であんな夢をみたんだ……」


 視界が晴れていき、最初に映ったのは暗闇の中に映った白い天井。

 壁にかけられた時計へと目を向けると、日付が変更直後の時間になっていた。


 「……流石に早く寝過ぎたか」


 リビングで、満足いくまでお互いの体を抱きしめ合った後に夕飯用として購入した駅弁を食べた後、旅行の疲れもあったので、今日は早々に寝ることにしていた。

 幸いなことに明日は土曜日のため、いつもよりかは遅めに起きてもいいだろうと思っていたのだが……。


 「うぅ〜……」


 布団の中から、か細い呻き声が聞こえていた。

 ゆっくりと布団を捲ると、体をくの字に曲げながら心地良さそうな寝息を立てている柚羽の姿が合った。

 しかも下着姿で。


 ——奏翔がいつでも私をめちゃくちゃにできるようするための準備だよ!

 

 ベッドに入る直前にこんなことを言っていたが、眠たさが勝っていたので、そのままコイツの提案を受け入れていた。

 その姿を見た俺はため息をつきつつ眺める。


 「……ホント、俺もおまえのこと言えないよな」


 そう呟きながら柚羽の髪に触れ、自分の指に髪を絡ませていく。


 柚羽と一緒に暮らしだしてから、夜を一緒に過ごさない日はなかった。

 どちらの帰りが遅くなったとしても、夜は一緒の時間を過ごしている。


 だからこそ、修学旅行の2日間は……初めてお互いが離れた日だった。

 常に一緒にいたからこそ、普段では何とも思わなかったことを感じてしまっていた。


 ——お互いの存在を。


 いつも夜は一緒にいるのが当たり前になっていたから、それに気づくことはなかった。

 だが、離れてみて自分にも気付かされた。

 柚羽がそばにいることによる俺自身が安心していたことに。


 だから、修学旅行の夜に落ち着くことができなくなったのはそれが原因だ。

 いつもあったものがなかったから……。


 ——ユズっちに会いたいって思ってるでしょ?

 

 2日目の夜にアリアから言われた時は正直迷っていた。

 もし、あの時、柚羽に会っていたら……どうなっていたんだろうか。

 昼間の思い出したら、行かなくて正解だったことに気付かされたが。


 3日目は朝から柚羽へ触れたい欲求に駆られていた。

 虎太郎にも他のクラスメイト、ある程度事情を知っているアリアにもそのことは知られなくなかった。

 今の柚羽の立場上、俺がそんなことをしたら一番傷つくのは柚羽だとおもっているからだ。

 

 ——あの時みたいに、俺の身勝手な行動のせいで、柚羽が傷つく姿はもうみたくない。


 そして、家に……2人きりの空間に入った瞬間、抑え付けられた欲求が爆発して、あんな行動をとってしまった。

 あれだけで済むはずもなく、一緒のベッドで寝ているのもいつもの柚羽からではなく、俺からだ。


 仕方ないだろ……今日は柚羽と一緒にいたかったんだ。

 と、誰に追及されたわけでもないのに、俺は言い訳を述べていた。


 「……あの時、伝えることができたらよかったんだけどな」


 ゆっくりと柚羽の頭を撫でながら、小声で呟く。

 2日間離れてみて、俺はこの感情を改めて思い知らされていた。


 ——和田塚柚羽への恋愛感情に。

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