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8話 目立たないようにしたいのに……

 「それじゃ、先に行くからね!」


 月曜日の朝、朝食のパンと一緒にだした牛乳を飲み干した柚羽はカバン片手に家を出ていった。

 ちなみにいつも柚羽は緑茶を飲んでいたが、牛乳が飲みたくなったと言って、昨日の昼間に買いものに付き合わされた。


 残った俺は使った食器を片付け、火元を確認してから家を出るのが習慣となっている。

 ドアを閉めると玄関の鍵をかけ、最後にドアを引いて施錠されているかの最終チェックをしてから駅へと向かって歩き出す。

 

 この流れが習慣とかしているが、時折、何故目的地が同じなのに別々に行動しているのか考えることがある。

 家での柚羽はさておき、学校ではナンバーワン美少女として扱われており、入学してから2年ちょっと男子は疎か、女子でさえそう簡単に彼女には近づけてはいけないと暗黙のルールがあると言われている。

 決して本人が望んだ形ではないのだが……。


 そんな中、わけのわからない男である俺が近くにいたら、暴動どころか俺の命の危機にもなりえる。

 

 「ファンクラブの連中にバレた時のことを考えただけでゾッとするな……」


 この状況は柚羽も理解しているのか、学校ではお互い近づかないようにしようと決めている。


 答えのでないことを考えているうちに、駅へと到着し、スマホに登録した電子定期券を改札口にかざして奥へと進んでいく。

 

 「いつも通りだな……」


 電光掲示板を見ると、もうすぐ電車がくるようだ。

 スマホでいつもみるサイトを眺めながら待つことにした。



 「おっす奏翔!」


 学校へたどり着き、昇降口に入ったところで後ろから声をかけられた。

 俺に声をかけるなんて1人しかいなかった。


 「なんだ虎太郎か」

 「何だとはなんだよ、せっかく親友である俺が声をかけてやったのに」

 「恩着せがましいやつだな」


 いつも通りのやり取りをしながら、下駄箱をあけると上履きの上に見慣れないものが目に入った。

 取り出してみると、横長長方形の白い封筒だった。


 「どうしたんだ……って、もしかしてそれ……!」

 「果たし状だな」

 「そんな真っ白で封のところにハートの形をしたシールが貼られてる果たし状があるかぁ!」


 もちろんわかっている。

 口にも出したくなくてボケたのだが、真面目に返されてしまった。

 

 「で、どうするんだよ?」

 「まだ中身もみていないのにどうするもないだろ、あと声がでかい」

 

 そう言うと虎太郎はわざとらしく両手で口元を抑えていた。


 「……にしてもめんどくさいな」


 白い封筒を見ながら俺は思っていることが声に出てしまっていた。



 「で、どうするんだ?」


 午前の授業が終わるとすぐに俺は教室を出て、誰もいない場所を探していた。

 ようやく別の棟の最上階の階段で落ち着くことができたので、ようやく下駄箱に入っていた封筒を開けようと思っていたが、目の前にやかましい男が現れていた。


 「……ついにストーカーにまで成り下がったか」

 「ついにってなんだよ!? 俺は和田塚さんの後ろを追いかけたりはするが、ストーカーまではやらないぞ」

 「虎太郎、お前は立派なストーカー予備軍だ、俺以外が苦しまないように今のうちに厚生(更生)させてやろう」

 「いろんな経験はしたいけど、ちょっと警察のお世話になるのはなあ……下手したら親父に殺されてしまう」


 ちなみに虎太郎の家は剣道場を経営しているようだ。

 話によると、クラスで怖いと思われているコイツがビビるほど見た目が怖いらしい。


 「……で、何でおまえがここにいるんだ?」

 「やっぱさ、恋路を応援してやるのが真の親友だとおもうんだ、べ、別に羨ましいとかおもってねーし」


 どうやら本音を隠すつもりは毛頭ないらしい。

 ため息をつきながら、封を切って中身を取り出す。


 「ずいぶん可愛らしい便箋だな」


 取り出した便箋は淡い緑色のラインが入り、下の方には四葉のクローバーの絵が描かれている。

 内容を読んでいくと、予想通りの内容が書かれていた。


 「相手はどこの誰ちゃんよ?」

 「……他のクラスの子だ。にしてもどこで俺のことを知ったんだ、目立ったことをしてないのに……」


 便箋にはご丁寧にクラスと名前が書かれている。

 会ったことも話したこともない人だった。


 「そういう人間って意外と目立つんだよな、ってか奏翔って女子から人気あるのしらないのか?」

 「……知らないし、別にそんな人気いらない」

 「うっわ! モテない俺からすれば嫌味にも聞こえてくるな」

 「あっそ……」


 そう言うのは正直こりごりなんだが……


 「それで、その子の思いはどうするんだ?」

 「もちろん断る」

 「……だろうな、顔見てわかったよ」


 そうこうしているうちに予鈴が鳴り出した。

 

 「やっば、昼飯くってねーじゃん! 午後の授業バックれるしかないか?」

 「ご自由に……」


 腹の虫と相談する虎太郎を置いて俺はその場を後にした。



 「……何度経験しても気分が悪いな」


 放課後、俺はクラスメイトが昇降口へと向かっていくのを尻目に便箋に書いてあった空き教室へと向かっていった。

 そこには手紙の主と、付き添いだろうと思える女子の2人がいた。


 沈黙の時間があったものの、意を決した相手の告白に対して、俺は断りを入れた。

 覚悟していたのは定かではないが、告白してきた女子は静かに泣き出し、付き添いの女子からは睨まれていた。

 そんな空間に耐えられるわけがなく、逃げるようにその場から抜け出していった。


 「……さっさと帰ってゆっくりしたい」


 最寄駅で電車を待っている間、そんなことを口にしてしまっていた。


 誰かに告白をされるのはこれが初めてではない。

 中学の時から嫌になるぐらい告白を受けて、断ってきた。

 理由は特定の誰かと付き合うことに興味がなかったからだ。

 その考えは今でも変わることはない……。


 そして、電車が来てすぐに乗り込んだ。


 「そういや、今日の夕飯どうするか……」


 土曜のうちに食材は買い込んでいるからあるもので適当に作ればいいか。


 気分の悪いことから夕飯のことを考えているうちに電車は自宅がある最寄駅へと到着した。

 改札でたすぐそばにあるショッピングモールではもうすぐやってくるクリスマスムードへと切り替わろうとしていた。

 そんなことに目もくれず、真っ先に家へと向かって歩く。

 

 「ただいま……」


 玄関を開けて家の中に入ると、ダイニングへと続くドアが勢いよく開いた。


 「おかえりー!」


 ダイニングからは『尊い』と書かれたTシャツ姿の柚羽が立っていた。

 いつもなら呆れるところだが、今日に限ってはそれすらも安堵感につつまれるような感覚がしていた。

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