78話 楽しい旅行 2日目の昼間と夜にて
「おっはよー! カナトっち!」
次の日の朝、眠い目をこすりながらフロントのロビーにいると、やかましいアリアの声が周囲に響きわたっていた。
「何で鹿島田は朝から元気なんだよ……」
俺の後ろで虎太郎が欠伸で大きな口を開けながら話す。
「2人とも眠たそうだけど、寝てないの?」
俺たちの前へと立ったアリアは不思議そうな顔をしていた。
ちなみにアリアの後ろで柚羽が今にも寝そうに目を擦っていた。
「……一部の連中がずっと話してて、ほとんど寝れなかったんだよ」
話していたのはウイッチをやっていた連中だ。
ゲームが終わり、寝るかと思ったら今度は修学旅行定番の恋バナを始めたのだった。
これもすぐに終わると思っていたが、日を跨いでも終わらなかったため文句を言おうとした矢先、俺がする前に虎太郎が激怒。虎太郎の顔つきもあってか話していた連中は恐怖のあまり、一斉に布団を被っていった。
「へぇ、コタっちやるじゃん!」
「女の恋バナは聞きたいが野郎のは聞いててもきもちわりーしな」
「うっわ、女の恋バナ聞きたいとかないわー……せっかくかっこいいと思ったのにがっかりだよ」
アリアは両手を伸ばして肩をすくめるポーズをしながらため息をついていた。
「うるせー! 何事にも興味津々なお年頃なんだよ!」
虎太郎とアリアが言い合っている中、俺はずっと欠伸をしている柚羽の方を見る。
ずっと続いているのか、目尻には涙が溜まっていた。
俺の視線に気付いたのか柚羽は俺の顔を見ると、何かを訴えたそうな真剣な目をこちらに向けている。
「アリアたちの部屋も騒がしかったのか?」
柚羽を見ながら、アリアに声をかける。
「全然、静かだったよ? 私とユズっち以外のルームメイトが夕飯後に抜け出したのが見つかってお説教部屋に行かされてたし」
「あー……クラスの野郎にも如何わしい店に行こうとしたのが教師連中にバレて説教部屋に行ったって聞いたな」
そう言えば昨日の新幹線で担任がそんなことを言ってた気がするな……。
「あ、もしかしてユズっちのこと?」
そう答えたアリアはニヤッと不適な笑みを浮かべながら俺を見ていた。
「いやあ、ふざけてユズっちに抱きついたら、もうすごい抱き心地!」
アリアの言葉に俺は柚羽の方へと視線を向けると、顔を真っ赤にしているところを見ると、どうやら本当のようだ。
「その感触が忘れられなくて抱き枕のようにしちゃったみたい」
わざとらしくペロっと下を出すアリア。
その行動に反応したのは虎太郎だった。
「我らの和田塚さんを抱き枕にしただと! 鹿島田、ちょっと表へ出ろ、叩き切ってくれる!」
虎太郎は親指でホテルの入り口の方を指していた。
「ふーん、言っとくけど私、パパの影響でプロレス好きなんだよね!」
アリアも負けじと虎太郎を挑発すると、2人揃って入り口へと向かっていった。
一瞬アリアがこっちを見ていたような……気のせいだろう。
「……2人とも元気だな」
2人の姿を見てため息をついていると、後ろから抱きつかれた。
もちろん抱きついたのは柚羽だ。
「……どうしたんだよ?」
「寝不足と奏翔成分不足」
そう答えると柚羽は抱きしめる力を強めていく。
「……明日には帰れるんだから、もう少しの辛抱だ」
俺ができることは柚羽の頭を撫でることしかできなかった。
それでも柚羽にとって満足だったのか、いつものように「ふへへ〜」と声をあげていた。
「……とりあえず、虎太郎とアリアのところに行くぞ、今日は見たいところがあるんだろ?」
「うん……」
俺と柚羽は2人が待つホテルの入り口へと向かった。
ちなみに虎太郎は敗北したようで地面に這いつくばりながら、苦悶の声をあげていた。
一番最初に向かったのは虎太郎が希望していた、清水寺。
「清水の舞台から飛び降りると願いが叶うんだろ?」
「そういう言い伝えがあるだけで実際にできないぞ……」
清水寺まで続く坂を下らないことを言いながら先へと進んでいった。
俺と虎太郎とアリアは平気だったが……。
「ユズっち大丈夫!?」
後ろを歩くアリアの声を聞いて振り返ると、柚羽が息を切らしながらゆっくりと登っていた。
「……が、がんばる」
必死に声を出して答える柚羽だが、いつ限界が来てもおかしくなさそうだった。
「なぁ、奏翔」
「……なんだよ?」
「汗だくになりながら頑張る和田塚さんの姿って素晴らしくないか?」
俺の隣で虎太郎が恍惚とした顔で柚羽を見ていたが、俺はため息のみで返した。
休みながら何とか清水寺に到着した俺たち一行。
「いやいや、こんなところから飛び降りるなんて無理だから!」
一番高いところから下を見下ろしていた虎太郎は大声をあげていた。
「過去に飛び降りても85%は生き残ったみたいだし、日頃の行いが良ければ平気だってコタっち!」
「それお前の感想だよな!? 絶対に生き残るって言われない限り無理に決まってるだろ!」
嬉々として揶揄するアリアに対して、虎太郎は真顔で叫んでいた。
「……大丈夫か?」
息を整えながら柚羽は頭を左右にぶんぶんと揺らしていた。
「帰ったらウイッチボクシング再開するしかないな」
さっきよりも頭がぶんぶんを左右に振れていた。
清水寺を後にした俺たちが向かったのは清水寺から20分ほど歩いたところにあった花見小路通。
ここは柚羽とアリアが希望していた場所だった。
アリアはテレビで京都らしい情緒ある雰囲気が良いこの場所を自分の目で見たかったと話していた。
ちなみに柚羽はというと……
「……ここのカフェが美味しいみたい」
どうやら京都を舞台にしたアニメで主人公たちが立ち寄った場所だと話していた。
この他にも俺の希望である円山公園や少し離れた龍安寺など名所を廻っているうちにホテルへ戻らなければいけない時間ギリギリとなっていた。
ホテルへ戻るとアリアと柚羽と別れ、自分たちの部屋に戻る。
先に戻っていた連中がウイッチで昨日と同じゲームをしていたが、虎太郎の姿を見るや否や黙り出したのは言うまでもない。
夕飯を食べ終わり、消灯の時間まで時間を潰していた。
虎太郎は咲奈ちゃんとの約束があるとかで、スマホを食い入るように見ている。
他の連中はウイッチの動画配信アプリで絶賛動画鑑賞中。
そして俺は昨日と同じようにやることもなかったので、今のうちにお土産でも買うためにロビーへ向かおうとしていた。
「……アリア?」
パジャマ用のパーカーのポケットに入れていたスマホが震えたので取り出すと、画面にはアリアからのLIMEメッセージが届いていた。
Aria.R.P
『カナトっちひま? ちょっと話があるんだけどってことでラウンジにいるから!』
疑問を投げかけときながら強制的に来いと言ってるようなもんだろこれ……。
ここにいるよりはマシかと思いながら、部屋を出ていった。
「あ、カナトっち! こっちこっち!」
ラウンジに行くと、アリアが大きく手を振っていた。
フウヤが描かれたパーカータイプのスウェット姿が場違いにしか思えなかった。
「……そういえば柚羽は一緒じゃないのか?」
そう言いながら彼女の真正面にあるソファへ腰掛ける。
「清水寺もそうだけどずっと歩きっぱなしだったせいか、夕飯食べたら寝ちゃったよ」
「……だろうな」
予想通りの答えに思わず乾いた笑いが出てくる。
「ってかさ、カナトっち?」
「……何だよ?」
「ユズっちに会いたいって思ってるでしょ?」
突拍子もないアリアの言葉に俺の口から出た言葉は……。
「……はい?」
自分でも思ってしまうほど、素っ頓狂なものだった。
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