77話 お互いが傍にいない夜(SIDE YUZUHA)
「……あれ?」
自分の視線の先には見知らぬ茶色の天井と何かしら薄い壁のようなものが……
「ユズっちやっと起きた?」
聞き覚えのある声がすると同時に天井を遮るようにアリアさんが私の方へと顔を下ろしていた。
ゆっくりと体を起こして、周囲を見渡していく。
ここは宿泊するホテルの部屋。
和室ということもあってか、床には一面畳が敷かれ、すぐ横でアリアさんが正座していた。
「……アリアさん足痺れない?」
「そうなんだけどさ、さっきまでユズっちが寝てたから足伸ばせなくて」
「え……?」
そういえば、ふかふかした感触が頭から感じるような……
「……もしかして、私」
「うん、私の膝の上でぐっすり寝てた」
アリアさんは笑顔で私の顔を見ていた。
「ご、ごめんなさい!!!!」
起き上がった私はすぐに額を床につけるように彼女へ向けて深々と頭を下げていた。
「こ、これがジャパニーズ・土下座! 初めて見た……って別に平気だから頭をあげて!」
アリアさんはずっと叫ぶ中、私は畳に埋め込んでいくかの如く頭を突きつけていた。
「ユズっち相当疲れてたんだね、夕飯食べてる時から寝そうだったよ」
「うぅ……ごめんなさい」
基本的に家で過ごすことがほとんどで外に出るのは学校行く時と奏翔と一緒に買い物へと行くぐらい。
そんな生活を送っている人間が、ほぼ丸一日歩いていたのだから無理もない。
伏見稲荷大社の後は八坂神社へ。そのあとは四条通りを歩き始めた時点で限界を迎えていた。
そのため、ホテルに戻った時はフラフラになっており、いつ倒れてもおかしくなかった。
「夕飯食べ終わったところまでは覚えてるけど、そのまま寝てたの、私?」
「だね、最初は私の肩に寄りかかってたけどそのまま落ちるように私の膝って感じだね」
アリアさんの言葉を聞いて頭を抱える。
「……そういえば他の人たちは?」
夕飯時まではクラスメイトが数人いたが、今、この部屋には私とアリアさんだけしかいなかった。
「さっきまでテレビ見てたけど、何かこの近くで人気俳優がいたとかでみんな出て行ったよ」
アリアさんはその俳優の名前が思い出せなくて「うーん」と唸っていた。
仮に出たところで、私が知っているかわからないけど。
「……みんな帰ってこないなぁ」
私が起きてから1時間近く経ったが、他のクラスメイトたちが帰ってくる気配はなかった。
部屋にある時計を見ると、もうすぐ消灯時間になろうとしていた。
「ってかユズっち、どうしたの? なんかそわそわしてるけど」
「そ、そうかな……?」
アリアさんの言うことに対してすぐに否定したが、彼女の言った通りだった。
いつもならこの時間は、奏翔にべったりと甘えに甘えまくっている。
何をすればいいのかわからず、さっきからスマホをいじったり部屋の窓から外を眺めていたが全くもって落ち着かなかった。
「もしかしてカナトっちに会いたくなったとか?」
アリアさんはニヤリとした顔で私を見ていた。
「そ、そそそそそそ、そんなことな——」
彼女の言ったことに対して必死に否定をしようとするが……
「ユズっち、顔真っ赤だよ?」
うん、知ってる……顔に燃えてるのかっていうぐらい熱いから。
「ってかずっと聞こうと思ってたんだけど、ユズっちってカナトっちのこと好きでしょ?」
気がつけばアリアさんは私の目の前に立っていた。
他の人に言われたら誤魔化すところだけど、奏翔と私のことを知っているので首を縦に下ろした。
「……う、うん」
「そうだよねえ、ユズっちってずっとカナトっちのこと見てたしね、ってか荷物預けたあとカナトっちに頭撫でられて喜んでたでしょ?」
絶対にバレてないと思ってたのに!?
「……うん、私が奏翔に頼んだの」
恥ずかしさのあまり、私はずっと下を向いていた。
その姿を見ていたアリアさんは「ワーオ!」と驚きの声をあげながら私に抱きついていた。
彼女との身長差のためか、私の顔はアリアさんの大きな胸へ押しつけられる形に。
「いつもだけど、今、めちゃくちゃ可愛いじゃん! 勢いに任せてキスしていい?」
嫌だと言いたかったが、彼女の抱きしめる力が強すぎて声を上げることも首を左右に振ることができなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それを待ってたんだよ!」
「ちょっとそのコンボ待った! ぎゃーふっとんだー!」
「あそこからコンボいれるか、えげつないな相変わらず」
「よっしゃ次は俺の番だぜ!」
宿泊先のホテルで夕飯を済ませた後、部屋のテレビの前ではクラスメイト達が集まっていた。
テレビにはウイッチ用のゲーム『大暴走クラッシュボンバーズ』の画面が映し出されていた。
「って修学旅行に来てまで、やることか?」
部屋の片隅でその様子を眺めていた虎太郎が声をあげていた。
「……ずっとソシャゲをやっているお前が言っても説得力がないけどな」
「しょうがないだろ、今日からレイドイベが始まったんだからよ! お、サナっちもINしてきたぜ」
そう言いながら虎太郎は自身のスマホ画面を食い入るように見ていた。
「おっ、サナっちナイス回復! よっしゃチャージできたからスペシャル技いくぜぇぇぇ!!」
テレビの周りで騒ぐクラスメイト達とは別に虎太郎は一人叫び声をあげていた。
そんな雰囲気の場で気分が落ち着くはずもなく俺は立ち上がると、それに気づいた虎太郎が見上げる。
「お、どうした? トイレか?」
「……そんなところ」
淡々と答えると俺は部屋から出ていった。
廊下に出ると、周辺の部屋からも自分の部屋と同じような騒ぎ声が漏れ出していた。
そういえばこのフロアは俺たちの高校が使っているとか担任が言ってたな。
「……1階にいった方が落ち着けそうだな」
ため息をつきながらフロアの奥にあるエレベータへと歩き、下の階へのボタンを押すとすぐにやってきた。
「ラウンジはまだやってるか……」
ラウンジに行くと、夜も遅いせいか、俺以外に人はいなかった。
空いているソファに座り、ボーッと顔をあげていた。
「……落ち着かないな」
部屋があんな状態なので、静かな場所にくれば落ち着くかと思ったがまったく落ち着くことはなかった。
「……習慣って恐ろしいな」
落ち着かない原因は自分でもわかっていた。
いつも夜は、柚羽が寝るまで一緒に過ごしている。それがほぼ毎日。
一緒にいなかったのは今日ぐらいだ。明日の夜もホテルに宿泊するから明日も含まれるか。
2人で過ごすことが日常になっていたからこそ、アイツがいない状況に違和感を感じて落ち着かないのだった。
「そうだ……」
俺はスマホを取り出してからLIMEアプリを起動させると、アイツのメッセージを開く。
いつも一緒にいるため、こちらでやり取りをすることはない。最後のメッセージは始業式の時に柚羽が送ったものが表示されていた。
メッセージを送ろうかと思ったが、内容を考えるのが面倒になり、よく送るため息をつく犬のスタンプを送った。
するとすぐにスタンプの横に既読がつくと同時に驚いた顔のネコのスタンプが送られた。またその後に……
Yuzuha.Wadaduka
『どうしたの?』
メッセージが送られてきた。それに対して俺は『暇だから送った』と返す。
Yuzuha.Wadaduka
『あ、もしかして柚羽ちゃんが傍にいなくて寂しかった?w』
またもやすぐにメッセージが返ってきた。
内容だけで、こいつがどんな顔でメッセージを送っているのか手に取るようにわかった。
それに対して俺は肩をすくめたポーズをしたゲームキャラのスタンプを送る。
Yuzuha.Wadaduka
『むぅ……こういう時こそ素直になってもいいと思うんだけど?』
Kanato.Fuzino
『いつものことだろ? そういうおまえはどうなんだ?』
Yuzuha.Wadaduka
『寂しい!』
揶揄うようなメッセージを送ると間髪入れずに返ってきた。
「……まったく、我慢してるこっちの身にもなってくれよ」
そう思いながら俺はため息をつくサルのスタンプを返す。
送りながら気持ちが落ち着いていることに気づいていた。
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