69話 浮かれる悩み多き子羊たち
「ふへへ、奏翔とデートの約束しちゃった〜」
5月の大型連休にLEOの感謝祭へ行くことが決まってから柚羽は俺の隣で上機嫌に鼻歌を歌っていた。
「デートと言っても感謝祭でフウヤのプレイヤーと会うんだろ?」
「そうだけど、ずっと奏翔と一緒といられることに意味があるんだよ、うへへ〜妄想しただけでも体が疼いてきちゃいそう」
柚羽の言葉に俺はため息をついていた。
「……嬉しいのはわかるけど、まだ先だし、気が早すぎじゃないか?」
「うへへ〜しょうがないじゃん、楽しみのデートなんだし! 今から楽しみで興奮してきたから奏翔のこと押し倒していいよね? ってかしたい!」
「……返事をもらう前に実行に移そうとするな!」
柚羽はソファの上に乗って、両手で俺の体を倒そうとしていた。
「むぅ……押し倒しができないなら、ハグして! ってか浮気した罰がまだ残ってるし!」
「……そもそも浮気じゃないんだけどな」
「奏翔のそばにはこんなかわいい柚羽ちゃんがいるのに、他の女と会ってる時点で浮気確定! 異論は認めないのでぎるてぃ!」
「メチャクチャな判決だな……」
俺が呆れていると柚羽はいつも通り俺の膝の上に座る。
いつもは正面を向いているが、今日はこちらには背を向ける。
長い黒髪から微かにシャンプーの匂いが漂っていた。
「……何で今日はそっち向いているんだ?」
「今日見てたアニメで、主人公の男の子がヒロインに後ろから抱きしめるシーンがあって、見てたらやってみたくなったから!」
何て言うか、コイツらしい理由だった。
「さあ!、思う存分私を抱きしめるんだ! ついでに服の中に手を入れてもいいんじゃよ?」
そう言いながら柚羽は来ているTシャツの裾を持って小さく仰いでいた。
「やるわけないだろ……」
そう言って俺は柚羽の背中に体を密着させていった。
両手は柚羽のお腹の辺りへとまわしていき、包み込むように抱きしめていく。
「……これでいいか?」
「ふへへ……破壊力ヤバすぎだって! 私おかしくなっちゃうかも?」
「我慢しろ……」
「ぐおぉぉぉぉ……奏翔の声が耳にかかった途端、意識飛ぶかと思った」
さっきから柚羽からは変な声しか聞こえていなかった。
もしかしてこれ、離れた方がいいのか?
「ってか、奏翔も恥ずかしいの? さっきから心臓の音が聞こえてくるんだけど?」
コイツの言う通り、密着してから自分でも聞こえるぐらい心臓がドクドクと音を立てていた。
何度抱きつかれようともそんなことはなかったのに……
「……気のせいだろ?」
「別に恥ずかしがらなくてもいいのに、私なんてずっとドキドキしているし!」
「病気じゃないのか?」
「そうだね、かわいい乙女の病気かも?」
「この場所に乙女なんているか?」
俺が答えると柚羽は勢いよく俺の足を踏んできた。
スリッパ履いていたから叫ぶほどではないが、それなりに痛かったりする。
「いてーよ!」
「女の子特有の日の痛みに比べたらこんなの全然マシでしょ!」
「……会話噛み合ってないし」
ちなみにこのハグ状態は柚羽が寝落ちするまでずっと続いていったのだった。
「なぁ、奏翔……」
次の日の放課後、柚羽は毎度の如く、鹿島田に連れ去られてしまった。
そして俺もまた連れ去られてしまっていた。相手は鹿島田ではなく虎太郎に。
いつもと違い朝から元気がなかったが、特に気にすることなくいつも通り接していたところ、放課後になって『相談事』があると言ってきたのである。
「……なんだよ」
虎太郎のことだから、食欲がないとかギャルゲーで攻略失敗したとか、ソシャゲで欲しいキャラが手に入らなかったなどの悩みだろうと思っていたが、そうではなさそうだ。
話を聞くためにファミレスに入ったのはいいが、終始ため息をつくだけだった。
「聞いてるからさっさと言ってくれ、男のため息なんて聞きたくないんだけど?」
「……奏翔もよくしてるよな?!」
「俺のは違う意味だ、ちなみに虎太郎に対しては呆れが混じってる」
虎太郎は頭を抱えながら、しばらくテーブルに突っ伏していたがひょこっと顔だけを上げて俺をみていた。
「デートってどうしたらいいんだ?」
「……どうしたらって、何でそんなことを俺に聞くんだ?」
「そういうところ、奏翔って一騎当千な感じがするし」
「使い方間違ってるだろ……」
今度は俺がため息をついてしまっていた。
そもそもデートなんてしたことなど、一度もない。
——柚羽と出かけるのがデートに該当するのか全くわからないが。
「昨日さ、咲奈っちから5月の大型連休にここへ行こうと言われたんだよ」
そう言って見せてきたのはスマホ。
画面にはよくCMで見かける温泉施設のサイトだった。
「俺たちがやってるソシャゲのコラボらしいんだけどさ……」
画面を下にスライドしていくと、虎太郎と咲奈ちゃんがやっているゲームの画像が貼られていた。
「普通に行ってくればいいんじゃないか?」
「普通ってなんだよ! 服装とか気持ちの持ちようとか色々どうすればいいんだよ! そんなのこの本には載ってないんだよ!」
虎太郎は鞄から分厚い本を取り出すと、テーブルの上に置いた。
表紙には『君もこれでモテモテ! 高校生のデート必勝マニュアル!』と書かれていた。
「……本当に恋愛必勝マニュアルなんてあるんだな」
本の存在に驚きながらも、パラパラとページを捲っていく。
「初のデートで夜景を2人で見て、相手が手を握ってきたらそれはもう両思いであるサイン……」
声に出して読んでいたが、背中がムズムズとする感覚がしてすぐに本を閉じた。
「……こんなのに頼らず、自分の思った通りに行動すればいいんじゃねーの? 知らんけど」
「ってことはアレか!? 温泉は混浴でいい感じの雰囲気になったら——」
「おまえ、ギャルゲーのやりすぎだろ……それにこれだけは言っておくぞ」
「なんだよ?」
「……咲奈ちゃん、中学生だからな?」
俺がそう伝えると、虎太郎は目を大きく開けて俺を見ていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ユズっち?」
ショッピングモールの中にあるカフェでパンケーキを切っていると目の前のアリアさんが声をかけてきた。
顔を上げて彼女をみると、ニヤニヤとしていた。
「なんか今日1日、ずっと鼻歌を歌ってたけど、何かいいことあったの??」
うそ……!?
普通にしていたつもりなのに全然気づかなかった。
たしかに奏翔とデートができることでいつもより気分が舞い上がってるのは確かだけど……。
「そ、そうかな……あ、もうすぐ愛読している本が発売するからかも……」
「そうなんだ! ユズっちが愛読する本ってどんなの?」
「……え、えっとね倫理的思考力とか理論的に物事を考えられるようになる本だね、ずっと気になって発売を待っていたんだよ」
「なんかすごい頭のいい人が読む本な感じがするね」
アリアさんは目をキラキラと輝かせながら私を見ていた。
私が読むのは基本ラノベとか漫画。あとは好きなイラストレーターの画集とかだから。
嘘をついてしまったことにかなりの罪悪感を感じてしまう。
「……そういうアリアさんもずっと気分良さそうな感じがしたけど?」
「あれー、顔に出ちゃってた? 5月の連休に楽しみができたからそのせいかもね」
「お出かけとか?」
「まあ、そんなところかな! 連休明けに話すよ!」
アリアさんはこぼれるぐらいの笑顔で私を見ていた。
「早く連休がきてくれないかなー!」
アリアさんの言葉に私は心の中で賛同していた。
1日も早く奏翔とデートがしたい!
——これをはっきりと言えたらなぁ……。
そんなことを思いながら、細かく切ったホットケーキを口に運んで行った。
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