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64話 安らぎのひととき

 「うへへ〜やっぱり家でミルクティを飲みながら奏翔と一緒にアニメを見るのが最高だわー」


 柚羽は風呂からあがると、タンブラーに注いだミルクティを片手にソファへと腰掛け、アニメを見ていた。

 最近は、鹿島田に夕方まで付き合わされるため、最近はアニメが日に日に溜まってしまってるようだ。

 

 「……おまえ、最近おっさんみたいになってるぞ」

 「ほら、外ではしっかりしてる系の女性が家ではオッサンくさくなるのってグッとくるでしょ? ギャップ萌えな感じがして」

 「……俺に同意を求めるな」


 俺も風呂から上がり、冷蔵庫に入った炭酸水のペットボトルを持って柚羽の隣に座った。


 「あれ、珍しいじゃん一緒にアニメを見るなんて」

 「どうせこの後LEOやるんだろ? 部屋にいてもやることないしたまにはと思ったんだよ」

 「そんなこと言って、柚羽ちゃんと一緒に居たいんじゃないの? しょうがないにゃあ〜」


 俺を揶揄うようなことを言いながら柚羽は俺に体をぴたりと寄せてくる。


 「はっきり言ってくれればいつでもこうしてあげるのに〜」

 

 そう言いながら録画リストからアニメを選んで再生していく。


 「……柚羽」

 「どうしたの?」


 俺が声をかけると柚羽は笑顔で俺の顔を見ていた。


 「……やけに肌色が多くないか、このアニメ?」


 今見ているアニメは温泉に来ている話のようだ。

 しかも異世界ファンタジーのため、男女別々という概念はないらしく、テレビにはヒロインや妹キャラなどありとあらゆる女性キャラクターが主人公と一緒に温泉へと入っている。

 せめて湯船に浸かっていれば問題ないとは思うが、突然立ち上がったり、足を滑らせて転び、霰もない姿を見せたりと画面の中は無法地帯へ。

 もちろん、俗にいう謎の光のおかげで大事なところが見えないのは救い……でもないか。


 「深夜アニメだから、これぐらいは普通だよ?」

 「……そうなのか」

 

 深夜にアニメをやっているのは柚羽から聞かされているのでわかっていたが、まさかここまでとは……。


 「話題になってるからこのアニメ見てるけど、巨乳キャラばかりでてくるんだよね」


 たしかに、画面に映るキャラクターのほとんどがそういったキャラばかりだ。

 一部極端に小さいのもいるが。


 「男性向けだからそういったキャラが多くなるのは仕方ないけど……何ともいえない気分になるよね」

 

 そう言いながら柚羽は『すこ』と書かれたTシャツの首元を掴んでパタパタとされている。

 一瞬、Tシャツの中身が見えてしまい、急いで目を逸らす。


 「奏翔も大きい方が好きなの? そう言えば前にベッドの下にあったえっちぃ本のキャラも巨乳ばかりだったけど」

 「あれは俺のじゃなくて虎太郎のだって言っただろ……」

 「ってことは小さくても奏翔はおっけーなの?」


 柚羽はこちらに身を乗り出しつつ、徐々に顔を近づけてきた。


 「……ほどほどでいいんじゃないか? ってか、ED曲流れたぞ」

 「ほどほどってどれくらい!?」

 「何で今日はそんなに食いついてくるんだよ!?」

 「だって、奏翔がすごい揉みたそうな顔してたから、叶えてあげようかと思って」

 「……俺そんな顔してないよな?」

 「それに揉んでもらうと大きくなるって聞くし、試してほしい! いや思う存分やってくれ!」


 そう言って柚羽は自身の胸を突き上げるように俺へと向けていた。


 「くだらないこと言ってないで、次のアニメ流せ!」

 「むぅ……どうみても今の流れは揉むところだと思うんだけど」

 

 俺はテレビの方を指さすと柚羽は頬を膨らませながら、リモコンで録画リストを表示させると、すぐ下にあったアニメを再生していった。

 再生されたのは誰もが知っているロボットアニメの最新作なので、先ほどのような気まづいシーンはないだろう。


 

 「さすがそうきゃんのキャラはいつみてもかっこいいなあ〜」

 

 ロボットアニメを見終わると柚羽は腕を上に伸ばしていた。

 それに釣られるように俺も腕と足を伸ばしていく。


 「……さすがに2本ぶっ続けは疲れるな」

 「奏翔はまだまだ甘いね〜、私は5本ぐらいいけちゃうよ?」


 柚羽は自信たっぷりな表情で俺を見ていた。


 「はいはい、すごいですね……」

 「すごいと言うなら、そこは態度で示してもらいたいなあ〜」

 「……何だよ態度って」


 俺が聞くと柚羽は俺の膝の上に頭を乗せていた。


 「さあ、私を満足させるのじゃ〜!」


 俺の方へ見上げる柚羽。


 「……この時点で満足してんじゃないのか?」

 「たしかに奏翔の膝の上にいるだけで幸せだけど、それ以上のものを欲しがるのが女の子なんだよ?」

 「……まさかお前が女を語る日が来るなんて思いもしなかったな」


 俺が軽く笑いながら口に出すと柚羽は頬を膨らませていた。


 「柚羽ちゃんは見た目も生物学的にもちゃんとした女の子だよ! 色々触ってみればわかる!」


 そう言って柚羽は俺の手を取って自分の体へと寄せていこうとする。


 「ほら、色々と触ってみればわかる!」

 「できるか!」


 俺は勢いよく柚羽の手を振り払う。


 「むぅ……せったく”ないすばでー”柚羽ちゃんの体を好き放題にできるチャンスだったのに」

 

 何故か柚羽の方が残念そうな顔をしていた。


 「まったく……」


 ため息混じりに言うと俺は柚羽の頭に手を置く。


 「うん……っ!」

 

 何故か艶のある声を出す柚羽。

 それを聞いて一瞬ドキッとしてしまう。


 「……何で今、変な声出したんだ」

 「奏翔がいきなり変なところに触れたからだよ!」

 「変なところって頭だろ……?」

 「むぅ……私にとって奏翔が触れるところは全て気持ちいいところなの!」

 「何だその異常体質」


 そう言いながらも柚羽の頭を撫でていく。


 「うぅ……奏翔の撫で方すごくえっちぃよぉ」

 「おまえわざと言ってるだろ?」

 「ちがうー! こう見えても平然を保とうとしているんだから!」

 「……あえて聞く、平然を保たれなくなったらどうなる?」

 「奏翔を襲っちゃう」


 間髪入れずに答えてきやがった。


 「それじゃ俺の貞操のために頭を撫でるのはやめとくか」

 「やーだー! むしろ奏翔の貞操欲しいからもっと撫でて!」

 「おまえ、さりげなくとんでもないこと口にしただろ」

 「うへへ〜」


 柚羽の言葉に俺は再度ため息をついてしまっていた。

 今日で何回ため息をついているのだろうか。

 

 「……ってかそろそろLEOプレイするか? フウヤのユーザー待ってるだろ?」

 

 俺がそう告げるが、柚羽は首を左右にふってからスマホを見せてきた。

 画面にはLEOのツールアプリが表示されていた。

 アプリと連動させることで登録してい流フレンドとメッセージのやり取りができるものだ。


 「フウヤくん、疲れちゃったから今日は寝るって」


 画面を見ると最後に『すやぁ』というメッセージが送られていた。


 「……だから、今日はずっとこのままでいたいの」


 スマホをしまった柚羽は少し顔を赤らめながら俺の顔をじっと見ていた。

 いつもなら断っていたかと思うが、今日は柚羽のそばにいようと思っていた。

 

 「しょうがないな……」

 

 そう言って俺はもう一度柚羽の頭に手を置くと。ゆっくりと頭を撫でていった。


 「あぅ……っ」


 その度に柚羽は気持ちよさそうな声をあげていった。

 

 何だろうな、いつもならこんなことにはならないのに……

 こいつのそばに居たいという気持ちが強くなっていた。

 

 ホント、最近どうしたんだろう俺。

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