61話 空気の読めない転入生
「It's nice to meet you.……えっと、初めまして! 鹿島田有愛です、よろしくお願いします!」
髪色からインパクトがあったが、いきなりの英語の挨拶でさらにインパクトを与えてきた転入生の鹿島田有愛は笑顔のままこちらへ挨拶をしていた。
クラスメイトたちが気づいているのかわからないが、彼女は俺たちとは違う制服を着ていた。
「あー、急遽こっちに引っ越してきたとかで、当分違う制服を着てるからって揶揄うんじゃないぞ、男子どもは特にな」
担任の言葉にざわめく男子。
ひっそりと「どこの学校の制服?」「どっかでみたことあるんだよな」などの声も混じっていた。
「それで、席だが……お、和田塚の隣空いてるから当分そこでいいか」
そう言って担任は柚羽の席を指さすと、転入生は「はーい」と返事して席へと向かう。
クラスメイトたちが一斉に柚羽の方を直視していたためか、柚羽は窓の外を向いてしまっていた。
「マジかよ、和田塚さんの隣ってなんてうらやま……」
「実は俺、転入生だったんだけど移動できっかな?」
転入生は席に座ると、柚羽に声をかけていくが、緊張のためか引き攣った顔で対応していた。
「朝のホームルームはこれぐらいして、この後はじご……じゃなくて全校集会だ、ちゃんと準備してから行くんだぞ」
全校集会の言葉にクラスメイトたちは一斉に騒ぎ始める。
担任の言うちゃんと準備と言うのは、覚悟とも聞こえてくる。
いつも通りモバイルバッテリーは忍ばせているんだけど。
そして、全校集会を告げる校内放送が流れると、大半のクラスメイトが気だるそうに教室から出ていく。
「おーい奏翔、俺たちも行こうぜー、行きたくないけど」
「ホントそれだな……」
俺と虎太郎も他のクラスメイトと同じような感じで教室から出ていく。
「奏翔、あそこ見てみろよ?」
廊下にでてすぐに虎太郎が前を指を差す。その先には柚羽とその隣には先ほどの転入生の姿があった。
「ちくしょう、あの転入生!みんなが入り込めない領域に軽々と入りやがって!」
2人の様子を見て虎太郎が拳を前に突きつけていた。
いつもその領域とやらに入っている俺はどうなるのかと考えただけで恐ろしく感じてしまう。
虎太郎のことはさておき、俺以外の誰かと一緒にいる柚羽を見るのは新鮮味があるのと同時に……。
若干の喪失感を感じてしまっている自分がいた。
「さてと、地獄の時間がやってきたな……」
体育館に入り、毎度のごとく指定の位置に置かれたパイプ椅子に座ると虎太郎はスマホを取り出していた。
「今日は昼すぐにサナっちとこの前見つけたネカフェ言ってレイド走りまくるんだから長々とはなすんじゃねーぞハゲ校長」
どうやら咲奈ちゃんとは続いているようだ。しかもこの後2人だけで予定があるようだし連れ去られることはなさそうだ。
少しして、全校集会が始まり、ここにいる生徒や教師の誰1人として望んでもなかれば聞きたくもない校長の話が始まった。
「皆さん、今日から新学期が始まりました、1年生は2年生、2年生は3年と、それぞれ進級したと思います」
と、校長は和かな顔で話を始めていく。
「最初はいいんだけどなぁ、今日はどこから関係のない話にいくんだかな」
「この前は無理矢理な感じで遥か昔のことを語り出してたな、しかもかなり早い段階で」
「そうだったな、それにしてもそんなに話がしたいものなのか?」
「家だと誰も話を聞いてくれないんだよ、知らんけど」
スマホの画面を見ながら校長の話を聞いていると、小声で話す周りの声が聞こえていた。
「もうすぐ新入生の皆さんが入学してきますね、ちょうどよく学校の裏手にある桜も満開を迎えましたのでいいタイミングかとおもいますね、桜といえばこのテレビで並木通りを愛犬と歩いていたのですが——」
校長が話し出して1時間が経過していた。
相変わらず、関係のない話が延々と続けられていた。さっきまでは孫が家にやってきて絵本を読んであげたとか言っていたな。
「別に愛犬との話ここで話す必要ないだろ……」
「だるー、具合悪いふりして保健室逃げ込もうかな」
「なんか終わる気配もないんだよなあ」
意味のなければ何の筋道の通っていない話を聞かされ、だんだんと生徒たちはイライラを募らせていた。
俺の隣に座る虎太郎も黙々とソシャゲをしながら足を揺らしていた。
生徒はおろか、壇上付近に立つ教師たちも疲れが顔に出ている。
「その途中で私の飼っている愛犬と同じ種類の犬がいまして、飼っている人も上品な方でして——」
周りの様子など目に入らないのか、それとも気にする必要がないと思っているのか、校長はずっと話していた。
だが、そんな時……
「Excuse me for cutting in!」
聞き慣れない流暢な英語が体育館に響いていき、周囲が声を発した人間の方へと一斉に見ていく。
俺や虎太郎も同じ様に見ていった先には柚羽の隣にたつ転入生、鹿島田有愛の姿。ピンとまっすぐに右手を挙げていた。
「どうしました? 何を言ったのか、わからなかったですが……」
話を続けていた校長は話をやめて彼女へ話しかけていく。
「関係ない話ばかりでつまんないですし、そもそも時間の無駄だと思います!」
鹿島田は大声ではっきりと告げていた。
それに対して校長は面食らったかの様に何も言えずにいた。
「そういえばそろそろ職員会議の時間が近づいてますので、そろそろ終わりにしましょうか、校長先生ありがとうございました!」
静まり返った場をどうにかしようと副校長が声をかけていくと、校長は沈んだ顔でその場を後にしていた。
「すげえなあの転入生……」
隣で虎太郎が驚きの声をあげていた。
その後、教室に戻っても鹿島田はみんなの英雄として祭り上げられていたのだった。
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