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6話 お二人でお出かけ

 「……柚羽」

 「どうしたの?」

 「俺の腕にしがみつくより、こっちの荷物を持ってくれないか?」


 家を出ると柚羽は何も言わずに俺の左手にしがみついていた。

 まあ、学校以外で出かけるときはこうしており、慣れているのだが、今日に限っては右手に大量の洗濯物が入った大きなカゴ、肩にはトートタイプのバッグを持っていた。

 

 「それじゃ、トートバッグの方を持つよ」


 そう言って柚羽は俺の肩にかかっているトートバッグを取り、自分の肩にかける。

 で、また俺の左手にしがみついていた。


 「……近くなんだからわざわざしなくてもいいだろ?」

 「いいじゃん、それに当たって嬉しいでしょ?」

 「何が?」

 「ほら、奏翔の腕に触れるものがあるでしょ?」

 「あぁ、さっきから肘が当たって痛いけどな」


 直後、柚羽はムッとした顔つきで俺の足を蹴った。


 「いってー! 何で俺の足を蹴った!?」

 「蹴ってなんかないし! 奏翔の進みが遅いから足が当たっただけだよ!」


 柚羽は俺の顔を睨んでいた。


 「地元のみんなに見られたら何か言われるかな?」

 「……別に何も言わないと思うけどな。 そもそも高校に入ってから地元の連中との付き合いはほとんどないしな」

 

 俺と柚羽の高校は学区外の私立高校のため、小中学校で一緒にいた連中とはほとんど会うことがなくなった。

 連絡をすれば一緒に遊ぶことはありそうだが、時間をあわせたりするのが面倒でやっていないうちに疎遠になってしまった。

 

 「奏翔もそうなんだね、私もだよ」


 どうやら柚羽もそのようだ。

 理由を知っているため、それ以上追求することはしなかった。


 歩いているうちに目的の場所であるコインランドリーに到着した。

 中に入ると2人ほど利用者はいるものの、混雑といえるものではなかった。

 空いている大型乾燥機にカゴの中身を入れていく。


 「っと、何か落ちたな……」

 

 乾燥機の前に落ちたものを拾うとすると、横から柚羽が素早い動きで落ちたものを拾っていた。


 「うん、汚れてない!」


 拾ったものを軽く振ってから乾燥機の中に入れていった。

 何を入れたのか確認しようとするが、柚羽が乾燥機の入り口の前で立ち塞がっていた。


 「なんだよ一体……」

 「い、いいから早くお金をいれる!」


 柚羽は顔を真っ赤にして叫んでいた。

 腑に落ちないと思いながらも両替機でお金を崩してから投入口に100円玉を入れていった。


 「ふぅ……危なかった」


 その横で柚羽は安堵の息をついていた。



 「どれくらいかかりそう?」

 「1時間ぐらいかだな」


 乾燥機の液晶には60と表示されている。


 「それじゃ今から帰ってLEOだね!」

 「……その前に買い物だ」


 俺の返答に柚羽は「えー!」と嫌そうな声をあげる。


 「じゃあ、今日の夕飯抜きでいいんだな?」

 「よし!買い物行こう!」


 柚羽はすぐにコインランドリーの入り口へと向かって行った。

 手のひら返しが過ぎるだろ……。


 コインランドリーの外にでると、柚羽は先ほどと同じように俺の腕にしがみついていた。

 何を言っても離れることはなさそうなので、そのままにしていた。


 向かった先は歩いて15分のところにある、商店街のスーパー。

 

 「カートは私が持つよ」


 スーパーの入り口にあるカートを見つけると柚羽は俺から離れてカートを持ってきた。


 「今日の夕飯は何にするの?」

 「……まだ決まってない。スーパーで食材を見ながら決めようと思ってた」

 「それじゃ、私が決めていい?」

 「却下」

 「せめて聞こうと思ってよ!」

 「……どうせハンバーグだろ?」

 「うん!」


 柚羽は満面な笑みで答えていた。


 「一昨日の夕飯、煮込みハンバーグ食べただろ……」

 「ハンバーグは美味しいから何日食べても飽きないんだよね〜」


 目を輝かせる柚羽を見て俺はため息をつく。

 柚羽は小学校男子かとツッコミたくなるぐらいハンバーグが好物なのである。

 2人で生活を始めた当初、柚羽に1週間分の食材を任せたら、全てハンバーグにしたことがあった。

 

 しかも本人なりにいつも同じ味だと飽きると思ったのか、とろけるチーズやデミグラスソースなどハンバーグに合うトッピングも買ってきていた。


 それ以降、コイツに食事を任せるのは死活問題になると身を持って知り、食材の買い出しは俺が買いに行くことになった。

 

 「お、大根が安くなってるから買っとくか」

 「おろしハンバーグもいいよね」

 「……そういやケチャップがなくなってたな」

 「トマトクリームハンバーグもいいかなぁ」


 手に取った商品をカゴに入れながら俺は再度ため息が出る。


 「奏翔、ため息が多いよ? 相談があるなら聞いてあげるよ?」

 「……同居者がハンバーグしか選んでこないんだが、どうしたらいい?」

 「そのかわいい同居者のためにハンバーグを選ぶといいと思うよ」


 どうやら、俺の悩み事が解消されることはなさそうだ……。

 ってかコイツ自分のことかわいいとか言いやがった。


 「……もういい、1日分だけ持ってきてくれ」

 「やったー!」


 柚羽はカートをその場に置いたままにして走り出して行った。


 「……俺って甘いのだろうか?」


 誰に問いかけるわけでもなく俺は思っていることを口にしていた。

 ちなみに戻ってきた柚羽の手に2人分のハンバーグと煮込みハンバーグの元が見えていた。

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