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58話 Q.おまえも男の娘になるよね? A.なるわけないだろ!

 「……柚羽」

 「どうしたの? 人には見せられない顔してるけど」


 他人事の様に聞いてくる柚羽。

 自覚はないが俺が人に見せられない顔になってるなら十中八九、原因はコイツにある。


 「おまえ、何で俺のパーカーばかり着るんだ!」


 今日は天気が良かったので、朝から庭の掃除をしていたのだが、思っていた以上に気温が高く終わる頃には結構な汗をかいていたので、シャワーを浴びていた。

 洗面所に着替えを置いていたのだが、毎度のごとく昼近くまで寝ていた柚羽にパーカーを取られてしまっていた。

 ちなみに今、着る物がないので前に山登りに行った時の運動用のジャージを着ている。


 「抱きつきたいのに拒否する奏翔が悪い! パーカーは柚羽ちゃんのために犠牲になったのだ!」

 

 相変わらずとんでもない理由だと思いながらため息が出てしまっていた。


 「意味不明な理由をつけてないでさっさと返せ」

 「むぅ……しょうがないなぁ、脱がしてくれたら返すよ」


 柚羽は手を横に広げていく。

 こいつが今来ているパーカーはファスナーがあるタイプなので脱がすのは簡単だ。

 すぐにパーカーのファスターに手をかける。


 「……もっと乱暴に脱がしてもいいよ?」


 何故か上目遣いに俺の顔を見る柚羽。


 「乱暴にしたら服がしわくちゃになるだろ……」

 「たまには荒々しい奏翔もみたみたいかなって」


 むしろそういうのは俺よりもそっちが似合ってると思いつつ、ゆっくりとファスナーを下ろしていく。

 半分ぐらいまで下ろして俺はすぐにファスナーを勢いよく上にあげていった。


 「あれれ〜、どうしたのかなー?」

 

 顔をニヤつかせる柚羽。

 何でファスナーをあげたかというとだ……


 「何で、パーカーの下、何も着ていないんだよ!」


 パーカーの下はTシャツはどころか、下着もつけていなかった。

 途中からなんか変な感じがしたが、半分ぐらいまで下ろしたところで気づいて急いで上げたのだった。

 

 「たまにはこういうドッキリもいいかなって?」

 「ドッキリにしては体張りすぎだろ……」

 「それにこうした方が奏翔もその後に実行しやすいと思って!」

 「……何だその後に実行って、って言わなくていい疲れるから」


 ため息混じりに答えると柚羽はふっふっふと不適な笑みを浮かべていた。


 「で、どうする? このパーカー着たいなら覚悟決めて脱がせるしかないけど」

 「好きにしてくれ、けど……」

 「けど?」

 「……さすがに下に何か着ろ、暖かくなったけどさすがに風邪ひくぞ」

 「そうするー」


 柚羽はパーカーの袖を捲りながら2階へと上がっていった。


 「……あのまま気づかずに下まで下げてたらと思うとゾッとするな」


 安堵の息をつきながら俺は自分の部屋へと向かっていった。



 「かなとー、入るよー!」


 俺が答える間もなく部屋に入ってくる柚羽。その手には何故か、スカートが……。


 「普通ノックぐらいするだろ? 俺が何かしてたらどうするんだ?」

 「してることによるかな? 欲求不満を解消しようとしてるなら喜んで手伝っちゃう」

 「……ちゃんとした答えに期待した俺が愚かだったよ」


 ため息をついた後に柚羽の方へと目を向けると、どうやら忠告通りパーカーの下にTシャツを着たようだ。

 鎖骨のあたりによく見る白いTシャツが見えていた。


 「で、どうしたんだ?」

 「毎回奏翔のパーカー借りてるからたまには私に服も貸してあげようかと思って〜」


 そう言って柚羽は紺色と白のチェック柄のスカートを見せる様に広げた。


 「……別にスカート履きたいだなんて言ったことないよな?」

 「うん、私が履かせたいだけ」


 やや興奮気味にこちらへ近づく柚羽。

 

 「最近やってるアニメで男の娘が登場して、奏翔に着させたくなっちゃったんだよね! ほら、奏翔って中性的な顔つきだから似合うと思うの!」

 「現実とアニメの区別をつけような……」

 「だからって奏翔が素直に聞くとは思えないので、ゲームでもやってみようかと! ってことでちょっと待ってて!」

 「……人の話を聞けよ」


 俺の言うことを無視して柚羽はすぐに俺の部屋を出ていき、自分の部屋へと向かっていく。

 部屋の中からガシャーンという何か物が倒れたり、落ちてきた様な音が聞こえてきた。

 その度に柚羽の叫び声がこちらまで聞こえてくる。

 ……助けに行った方がいいのか?


 そんなことを思っていると、俺の部屋のドアが開き、柚羽が中に入ってきた。

 彼女の手には稲妻が描かれた黒い箱。


 「ってことでこれで勝負!」


 柚羽が箱から取り出したのはジョークグッズのおもちゃ。

 6つの空洞に指を入れてから、スタートを押してしばらく待つと微弱な電気が走るというシロモノだ。

 テレビで使われていたのをみて、興味本心で買ったがすぐに飽きて存在すら忘れていた。

 

 「もちろん電撃が走った方が負け! もちろん受けるよね? ちなみに逃げたら夜な夜な奏翔の布団に潜り込んでスカート履かせるからね? ついでに奏翔ので色々楽しませてもらうからね?」

 「……つまりは勝てばいいんだろ?」

 「そうだね、こればっかりは運次第だけど」


 柚羽はおもちゃを床に置き、スイッチを入れていくと恐怖を煽る様なBGMが流れ出していく。

 

 「えっと人数は2人っと、それじゃ好きなところに人差し指を入れて」

 

 こういう時は迷っても仕方ないので、目についたところに指を入れていった。


 「それじゃ私はこっちで」


 柚羽は俺の真正面を選んだ。


 「それじゃ行くよ!」


 スイッチを押すと、何か悪いことが起きそうな音が鳴り始め……


 「いったあああああ!」


 ビリビリという音と同時に俺の指がビリビリしていった。

 久々ということもあり、大声をあげてしまう。


 「はっはっはー! 運は私にありー!」


 勝利を確信した柚羽は右腕を天井に突き上げていた。


 「ってことで、お着替えしましょうねぇ〜!」


 柚羽はさっきよりも手をワキワキと動かしながら俺の方へと近づいてきた。

 もしかしたら俺の何かが終わりを告げるかもしれない……


 

 「やばいやばい! 破壊力すごすぎだって!?」


 羞恥心に耐えながら履き終えた瞬間、柚羽は興奮気味にスマホを取り出して撮影をしていった。

 しかも何故か体育座り指定。

 上はジャージのままで下はスカート姿。制服も考えたようだが、ジャージにスカートというアンバランスな感じもいいよねと1人で勝手に納得していた。


 というか……これまで下が開放的になったものは履いたことがないため、スースーと風が入ってくるため違和感しかなかった。

 

 「……もういいだろ、スースーして気持ち悪いんだけど」

 「まだダメだよ、だってこの後パンツ履いてもらうし。 あ、もちろん私のだから安心して!」

 「無理に決まってるだろ!? ってか何が安心なんだよ! 不安しかねーよ!」


 耐えきれなくなり、スカートを脱ごうとするがズボンとは勝手が違うせいかバランスを崩してそのまま後ろへと倒れてしまう。それを覆い被さる様に柚羽の姿があった。


 「うへへ〜、ちょっと怯える奏翔もそそりますなあ……ってか化粧したら女の子ぽくなるかも?」

 「絶対にしないからな……!」


 そこまでやったら色々とアウトな気がする。


 「それにしても……」


 柚羽はスカートをめくっていく。


 「……ふへへ、やられるのは嫌だけど、するのは結構興奮するね〜!」

 「くだらないこと言ってないでどいてくれ」


 体を起こそうとすると、柚羽は俺の両腕を床に押さえつけてきた。

 ってかものすごい力なんだけど気のせいじゃないよな?


 「……ねぇ、奏翔」

 「な、なんだよ?」


 柚羽は俺の手を押さえながら俺の方へと体を預け、顔を俺の胸に乗っけていた。


 「スカート履いてる奏翔見てたら色々大変になっちゃった……」


 目がトロンと半目になりながら、俺の顔をみる柚羽。なんか息も荒くなってるような?

 

 「だからいいよね……?」

 

 そう言って柚羽は目を瞑りこっちへと顔を近づけ、あと少しで俺の顔に触れると思った瞬間。


 ピンポーン!


 したから無機質な機械音が鳴っていた。

 どうやらインターホンの音の様だ。


 柚羽が音に驚いた隙を見て勢いをつけて立ち上がり、ダイニングへと向かっていった。


 「あ、奏翔……スカートのまま行っちゃった」


 数分後、ドアを開けた直後の配達員が何とも言えない微妙な顔をしていたことを忘れることはないだろう。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 「お疲れ様でした。採寸は以上になります」


 と、ある教室で長いメジャーを持った採寸係の女性が声をかけると、測られていた人物は「やっと終わったよ〜」と声にだしていた。

 赤と黒の中間の髪色からは想像できないが、声に出したのはこの学校に通う女子高校生のようだ。


 「なるべく早く作っていきますが、さすがに新学期には合わせるのは厳しいかと思いますのでご了承くださいませ」

 「え〜、そうなの?」

 「だから早く行くように言ったでしょ?」


 女子高生は隣に立つ母親らしき年配の女性に怒られ、軽くしょげる。


 「それではこちらにお名前をお願いいたします」


 用紙とボールペンを渡された銀髪の人物はスラスラと名前を書いていく。


 「それにしても綺麗な髪ですね〜」

 「えぇ、外国人の夫と私の髪質を見事に受け継いだみたいで」

 「旦那様は外国の方なんですか?」

 「えぇ、最近まで海外で暮らしていたんですが、日本に住みたいと言い出して先日こちらにきたんですよ」


 採寸係の女と年配の女性が話しているうちに女子高生が用紙をペラペラと揺らしながら採寸係の女に用紙を渡していた。


 「ありがとうございます、えっと……お名前は……」

 

 用紙の名前欄には『鹿島田有愛』と書かれ、その上のふりがなには『かしまだ ありあ』と両方、丸文字で書かれていた。

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