54話 勝利の女神が微笑むのはもちろん(SIDE YUZUHA)
「ふっふっふ! 可愛い柚羽ちゃんからの勝負受けるよね!」
「……別にいいけど、どんな内容で勝負するんだ?」
「『チキチキ先に寝た方が夜這い確定だYO! 睡眠耐久チキンレース』」
あれからずっと、奏翔に勝てる方法を考え続けてた結果。これしかなかった。
もちろん男である奏翔に力で叶うわけもない。
(本音を言えばむしろ力づくで無理矢理……)
ゲームに関しては言えば、格闘ゲーム、パズルゲーム、アクションなどなど一緒にやってきたが一度も勝てたことがない。
その末に考えついたのが、これだった。
「……いいけど、おまえそう言って真っ先に寝てる気がするけど?」
「言っとくけど、今日の柚羽ちゃんはいつもとは違うんだよね!」
最後にどやぁと付け加えながら答える。
奏翔の言う通り、気がつけば朝になっていたと言うのは多々あったが、今日だけは違う。
この挑戦内容を考えた後、すぐにソファの上でぐっすり眠っていたのだ。
私が昼近くまで寝ていたのに対して、奏翔は朝早くから起きて掃除洗濯、更には昼と夜の食事の用意と理想のスパダリムーブをやっていたことによりほとんど寝ていない。
しかもこの後、お風呂に入るはずだから、あがった後に蓄積された疲れがやってくるはず。
みたか、可愛くてジーニアスな柚羽ちゃんの戦略を!
「ちなみに先に寝ちゃった人は罰として勝った人の言うことを聞くこと!」
「……何でもか?」
「うん、何でも!」
そう告げると奏翔は腕を組み、考えこんでいた。
「場所は私の部屋で奏翔がお風呂からあがって私の部屋にはいったら勝負開始だから!」
「……わかったよ、食器洗うから先に風呂入ってろ」
「あ、ちなみにいっそのこと一緒にお風呂に入って同時スタートでも——」
「——いいから先入れ」
ドスのある声で言われてしまったので、先にお風呂を済ませて自分の部屋に入っていった。
「ふへへ、勝負に勝ったら奏翔に何をお願いしようかなぁ」
一緒にお風呂入ってくれとか……でもこれは前にやったしなあ。
むしろ私のことを好きにしてほしい……下手をすれば掃除や洗濯をやらされそう。
「いや、そんな面倒なことをしないで、私の好きにさせてくれがいいかな」
手とか足とか縛りつけて動けない奏翔を……
あぁ、ヤバいヤバすぎる……! 考えただけで体が火照ってきそうになる。
「いやもう勝負なんてどうでもいいから、部屋に入ってきた奏翔をそのまま——」
「——そのまま何だよ?」
「ふぁ!?」
突如奏翔の声が聞こえてきて、変な声が出てしまう。
ドアに目を向けると、お風呂から上がった直後の奏翔の姿があった。
手にはマンガだったり、スマホ、ウイッチが握られていた。
「柚羽の部屋に来たけど、もう勝負開始でいいのか?」
「も、もちろん! あ、でもその前にお風呂上がりの奏翔の体をクンカクンカしていい?」
「……俺が許可すると思うか?」
「むしろ許可してほしい、代わりに私のもクンカクンカしていいから、あ、ペロペロも許可——」
返ってきたのは奏翔のため息だけだった。
とりあえず、奏翔がこの部屋に入ってきたので勝負開始!
しばらくの間、私はライトノベル、奏翔は持ってきた漫画を読んでいた。
「……やばい、睡魔が襲ってきてる」
部屋の中が静かすぎたためか、徐々に目がショボショボとしてしまっていた。
このままでは私の方が寝てしまう……こうなったら行動に移すしかない!
「ねぇねぇ奏翔?」
「どうした? 眠たくなったか?」
「全然、むしろ元気すぎるぐらいだよ? むしろ奏翔が疲れてると思うんだけど」
「そうでもないけど」
「ちなみに今なら柚羽ちゃんのお膝空いてるけど?」
柚羽ちゃんの華麗なる作戦
『膝枕ですやぁさせよう』
相手を膝枕に誘ってそのまま寝かせようというものだ。
効果がない時は追加攻撃として、耳元での囁きを追加する。
これで落ちない男はいないはず!
もちろん奏翔にしかやらないけど。
「……柚羽」
「うん? あ、もしかして膝枕されたい? それなら喜ん——」
「——俺の膝も空いてるけど?」
本を閉じた奏翔は私の顔を見ながら自身の膝の上にクッションを乗せてポンポンと叩いていた。
気持ちよさそうなクッションもそうだけど、それ以上に奏翔の膝の上で寝れるなんて……
いや、これは罠だ! 頑張れ私、そんな簡単な罠にひっかか——
「うん、いくー!!!!」
脳の反対勢力の意見を押し除けて私は奏翔の膝へと飛び込んで行った。
抑止力とか理性、そんなもの私の辞書にはない。
奏翔の膝枕で寝れるならど地雷原すら突っ込んでみせる!
「うへへ、奏翔のひざまきゅら……きもちいいのらぁ〜」
既に私の理性はどこかに吹き飛んでしまっていた。
「まったくお前はほんと可愛いな……」
奏翔はそう耳元で囁きながら、私の頭を撫でてくれた。
え、何!? 今日の奏翔どうしたの? そんなエロい声で囁かれたら私ダメになっちゃうよぉぉぉぉぉ
あまりの気持ちよさに私の意識は徐々に遠のいて……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おーい、柚羽」
「ふぇ……?」
突如聞こえてきたいつもの奏翔の声。
そして私を見下ろすように見る奏翔の顔が私の目の前にあった
「あ……あれ?」
体が何かに覆われていた。
「……もしかして私寝てた?」
自分の体の周辺を見ると、ベッドの上にいて布団をかけられていたことに気づく。
「あぁ、わりかし早い段階で」
「……え、全然覚えてないんだけど」
「あの分厚いラノベ読みながら頭が前後に揺れてたぞ」
ってことはさっきまでの出来事はもしかして夢だったのか……
思い出すだけで色々とマズいことになりそうだ。
「ってことで、勝負は俺の勝ちだな。 で、負けた人は勝った方の言うことを何でも聞くんだよな?」
勝ち誇った顔で奏翔はそう告げていた。
「……うぅ、いいよぉ。奏翔になら何をされてもいいから何でも言ってよ」
内心、奏翔にされるならむしろウェルカムだと思っている。
むしろさっきの夢を正夢にしてほしいんだけど!
「そうだなぁ……」
そして数時間後、私は奏翔に連れられてある場所に来ていた。
家から歩いて行ける大きな公園の桜並木だった。
昨日テレビでやっていた場所ほどではないが、それなりの人が往来していた。
「……柚羽」
「どうしたの?」
奏翔は私の方へと手を差し出していた。
「もしかして、手、繋ぎたいの?」
「……嫌ならいいけど」
「もちろんする!」
私は奏翔の手を掴むと指の間に自分の指を入れていき、しっかりと手首まで合わせた。
「別にゲームに勝たなくてもいつでも言ってくれれば来たのに〜」
「……他に思いつくものがなかったんだよ」
「えー……他にも色々あると思うんだけどなあ」
「ちなみにおまえが勝ったら何をさせるつもりだったんだ?」
「そうだなあ、まずは奏翔の服を脱がせてから、もちろん私も脱いでそのままベッドの中で」
「……せっかくいい雰囲気の場所にきたのにぶち壊そうとするな」
呆れる奏翔に対して私は笑って返した。
「まさかとは思うけど、お願いごとはまだまだあるんだよね?」
「いや、これだけだぞ?」
「なんでよー! 私だって色々覚悟したんだからもっと過激なもやってよ! これじゃ蛇の生殺しだよ!」
「……そんなこと俺が知ったことか!」
桜並木の中、私と奏翔は普段と変わらないやり取りをしながら歩いていった。
あんなことを言いつつも私は奏翔と一緒にいることができて嬉しかったのは内緒だ。
お読みいただきありがとうございました!
2章に突入です!
まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!
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