53話 柚羽ちゃんの挑戦状(SIDE YUZUHA)
「3月下旬の今日、こちらの並木通りでは人溢れかえっております」
眠い目を擦りながらダイニングに入っていくと、奏翔がテレビの音をBGM代わりにしてスマホを見ていた。
「おはよ〜」
「……何がおはようだ、もうじき昼になるぞ」
部屋の時計をみると、奏翔の言う通りだった。
「たまの休みなんだから、野暮なこというのはやめましょうや〜」
「たまどころか、テスト休みからずっとこの調子だとおもうが……ってか何だそのおっさん臭い言い方」
奏翔の呆れたと言わんばかりの言葉に、私は笑顔で返した。
「昼飯できてるから、顔洗って着替え済ませろよ」
「うん、今日はずっと家にいるから下着のままでいい?」
今日は若干、あの発作が起きそうな感じなので、万全の準備をと思っていたが睨まれてしまった。
仕方ない、奏翔のパーカーで我慢しておこう。
洗顔や着替えなどを済ませてダイニングに戻ってくると、テーブルの上には出来立てのホットサンドが皿の上に置かれていた。
また、いつも私が座る席には愛飲しているミルクティーが注がれたタンブラーも。
「……また、俺のパーカー着ているのか」
ダイニングに入ってきた私を見るなり、奏翔はため息混じりに聞いてきた。
ちなみに下はちゃんとデニム系のパンツを履いている。
「うん、だって奏翔の服をきてると、いつでも奏翔が抱いてくれるような——」
「——もういい、さっさと座れ」
奏翔は頭を抱えながら私の席を指さしていた。
「いただきまーす!」
「いただきます」
席につくと2人で両手を合わせてから奏翔の作ってくれたホットサンドにかぶりついていく。
中からとろりと溶けたチーズやハムの塩加減が絶妙すぎて、これならいくらでも入りそうな気がする。
さすが奏翔! これならいつでも私のお嫁さんになれるよ!
あまりのおいしさにあっという間に平らげてしまっていた。
もっと食べたい気がするけど、これ以上は色々と大変になるからやめておこう、うん。
「今日は天気もいいので、彼女と一緒に来てみました」
「この時期に妻とここを歩くのが楽しみでしてね」
テレビの画面には桜並木が映し出され、カップルや夫婦、友達同士で歩く姿が映し出されている。
どうやらテレビの記者たちが歩く人たちの声を聞いているようだ。
「そっか、もう桜の季節か」
テレビを見ながら奏翔がふと呟いていた。
「ってことはそろそろ春休みも終わっちゃうのか」
「……今の話で休みの終わりを連想するのはおまえぐらいだろ」
「むぅ……」
だって休みが終わったら奏翔にベッタリすることができなくなっちゃうから、私にとっては死活問題なんだよ?
そんなことを考えているうちに、テレビは画面が放送席へと移っていき、アナウンサーや最近みかけるアイドルメンバーや、年配の俳優といったコメンテーターたちが桜並木の映像を見ながら各々思っていることを口にしていた。
桜並木の風景が映っている時は興味あったのか奏翔もテレビを見ていたが、コメンテーターの話が始まるとすぐに立ち上がって、2人で使った食器を洗っていった。
「かなとー、テレビ見ていいー?」
「いいぞ、どうせ見る物かないし」
私はリビングのソファに座り、テレビの録画リストを開いていった。
昨日だけでも結構なアニメが録画されていた。
「それじゃまずは、これかな♪」
リストの一番上を選択していくと、主題歌が流れ出していった。
「ねぇ、私とゲームしない? もし勝ったら何でも聞いてあげる」
何本目かのアニメはラブコメ。さっきまで奏翔も一緒にみていたが、ラブコメはあまり好きではないらしく、始まったらすぐに自分の部屋へと言ってしまった。
「むしろこっちを一緒にみたいのになあ……」
1人で文句を言いながらも早送りで本編まで飛ばしていく。
話が始まった直後、ヒロインの女の子が主人公の男の子を揶揄うかのごとく、挑戦状を送りつけていた。
「な、なんでも……!?」
「うん、何でもだよ」
作品の主人公は驚きながら、如何わしい妄想が頭の中を巡っていってるようだ。
「それじゃ、勝敗はこのゲームで決めましょ?」
ヒロインの女の子が手にしていたのは格闘ゲーム。
主人公が得意とするゲームで、これは勝ったなと自信たっぷりに挑戦を受けるが、対戦中もよからぬ妄想が仇となり惨敗。
脳内を駆け巡っていたヒロインとの卑猥な行為に至ることはできなかったが、結局は2人でデートをして終わるといった定番の流れで締めくくられた。
最初はボーッとみていたが、突如、私の脳内に映像が流れ始めた。
「この勝負俺の勝ちだな、それじゃ俺のいうことを聞いてもらおうか」
そう告げた映像の中の奏翔は私をベッドに押し倒していく。
「か、かなとぉ……私、恥ずかしいよ」
「とか言ってるわりには、何も抵抗してこないじゃないか、お前だってこうなるのを望んでたんだろ?」
「うぅ……かなとのいじわる…………でもそんなところが好きだよ」
映像の中の2人は燃え上がるようなキスをした後、お互いの体を求め合っていく。
「……やばいやばい、考えただけで体が疼いてきちゃう!」
ただでさえ、今日は軽く疼いているというのにこれ以上なったら、そのまま勢いで奏翔を押し倒しかねない。
「……でも、この方法はアリかもしれない」
それから数時間が経ち、夕飯を食べ終わり、奏翔が食器を洗っている時に私は声をかけた。
「ねぇねぇ、奏翔」
「……どうした? 風呂なら沸いてるから先に入っちゃえよ」
「わかったー! じゃなくて!」
危うくいつものように洗面所へ行きそうになる足を必死に止め、彼に向けて勢いよく指をむけていた。
「今夜、奏翔に挑戦状を叩きつけさせてもらう!」
マンガならビシッという効果音が描かれそうなぐらいバッチリ決まった。
さあ驚いた様子を私に思う存分見せてくれたまえ!
「……どうしたんだ突然?」
奏翔はいつも通り呆れた表情で私の顔を見ていた。
お読みいただきありがとうございました!
2章に突入です!
まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!
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