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52話 奏翔の嫌な予感

 「戻りましたー」


 2つのコップを手にした咲奈ちゃんが戻ってくると、片方を俺の目の前に、残った方を自分の席の前に置いていた。


 「えっとですね、話というのはですね」

 

 話を切り出す前に彼女は持ってきた飲み物を口にしていた。


 「奏翔さんって彼女いるんですか?」


 直球すぎる質問に俺は一瞬言葉を失う。

 別に変な期待をしているわけではなく、「またか」という気分だった。

 中学の時からずっと、これを聞いてくる女はその後に面倒な呼び出しをして来ていた。


 「……いないよ」


 俺は素っ気なく答える。

 これで色々と察してくれると嬉しいのだが。


 「そっかぁ〜いないんですね」

 

 咲奈ちゃんの顔はさっきよりも明るくなっていった。

 益々、嫌な予感がして来た。


 「実はボク、奏翔さんのこと前から知っていたんですよ」

 「……どっかであったことある?」

 「いえ、実際に会うのは初めてです!」

 「……どういうこと?」

 

 この子はどこで俺を知ったんだ?

 考えるだけで少し恐怖を感じていた。


 「私の友人に依緒ちゃんってすごくかわいい子がいるんですけど、もちろんご存知ですよね?」

 「何回か会ったこともあるから知ってはいるけど」

 「……ツーショットで写真を撮ってるのに知ってるぐらいの認識ですか?」

 

 ツーショットって前に案内してくれた最後にあの子のスマホで撮ったやつのことだろう。


 「依緒ちゃん、ことあるごとにスマホの写真アプリを開いては写真見て笑っているんですよ」

 「……よほど俺の顔がおかしかったのかもな」

 

 俺の返答に咲奈ちゃんは目を細めながら俺の顔をじっと見ていた。


 「……奏翔さんって周りから捻くれてるとか言われませんか?」

 「さあ? もしかしたら陰で言われてる可能性はあるけど」


 よく柚羽からはもっと素直になれと言われるが……おそらく違う意味だろう。


 「……そんな依緒ちゃんの顔は乙女だったんですよ、そう! 恋をしている乙女のような!」


 咲奈ちゃんは自信たっぷりな表情で俺に顔を近づけていた。

 

 「……もしかしてそれで最初に彼女云々聞いて来たのか?」

 「そうですよ? あ、もしかしてボクに告白されるとか思っちゃいました?」

 

 ニヤけた表情でこちらを見ていた。

 俺は何も答えずため息だけつく。


 「安心してくださいよ、ボクは友達の恋路を邪魔するつもりはありませんから!」

 「……あっそ」

 「で、もし彼女がいないならぜひ、依緒ちゃんと——」

 「——誰であろうとも誰かと付き合う気は毛頭ない」


 俺は思っていることをはっきりと伝えるとそれまで笑顔だった咲奈ちゃんの顔が素に戻っていった。


 「ど、どうしてですか? 依緒ちゃんものすごく可愛いのに」

 「それはもちろん知ってるよ」

 「それなら何故ですかー!」

 「……俺には誰かと付き合う資格なんてないんだよ」


 咲奈ちゃんは驚いているのか目を大きく開けていた。

 

 人の思いを無碍にしていたせいで、俺はあいつからいろんなものを失くさせてしまった。

 そんな奴に……誰かと付き合う資格があるわけない。


 それに俺はあいつを——


 「奏翔さん?」

 

 咲奈ちゃんの声でハッとする。


 「どうしたんですか? なんか深く考え込んでましたけど」

 「……別に、何でもないよ」

 

 俺は彼女が持ってきたサイダーを勢いよく飲んでいく。


 「あーあ……依緒ちゃんフラれちゃったかぁ」

 「あの子なら俺なんかより良い人が来るから平気だろ」

 「……なんかあっさり言いますね」


 正直そういう感情がいまだにわからない。


 「人のことよりも自分はどうなんだ?」

 「え? ボクですか?」

 「他に誰もいないだろ?」

 「たしかに……」


 咲奈ちゃんは気づくと苦笑いをしていた。


 「うーん、ボクはそういうのには無縁なんですよね、だから人の恋バナとか大好きなんですけど」

 

 彼女の話を聞きながらふと、いまだに机に突っ伏している虎太郎に目を向ける。


 「それにボクって変な性癖しているんですよ」

 「……例えば?」

 「って聞くんですか!? さっきまでの流れから絶対に興味持たないと思ったのに」

 「そこまで聞いたら気になるだろ」

 

 正直そこまで興味はないが、話は終わりそうだったので無理に引き伸ばしただけにすぎない。


 「ボク……ワイルド系な人が好きなんですよ!」

 「……ワイルド系?」

 「何ていうか……肉食系っていうんですかね……? もう、荒々しい感じでボクに迫ったりとか、強引な感じでキスをしてきたりとか」

 

 話していくうちに咲奈ちゃんの顔が赤くなっていた。


 「も、もうそれこそ2人きりになったらボクの服を破り捨てるぐらいの勢いでせまったり——」

 「——悪い、それ以上はもういいや」


 俺は彼女の前に手を出して話すのをやめさせた。

 何ていうか、中学生の口からそれ以上口にさせるのは背徳感とうか相当マズい気がする。


 「えー、だって奏翔さんが聞いてきたんじゃないですか?」

 「まさかそこまでコアな話になるとは思わなかったんだ……」

 

 それにこれ以上、この手の話を聞いてるといつもの癖で辛辣な言葉を発してしまいそうだ。

 柚羽相手なら問題ないが、初対面の子相手には抵抗を感じる。


 「タイガーさん……あ、虎太郎さんは見た目はワイルドな感じがして結構タイプなんですけどね」


 まあ、クラスでも顔が怖いという理由で女子や一部の男子から恐怖の対象として見られているしな。


 「……何か不満でもあるのか?」

 「なかなか、そういう一面がみえてこないんですよ、一緒に歩いていても微塵もなかったですし!」


 虎太郎のことだ、「女性はそんなはしたないことを言っちゃだめだ!とか言いそうだな。

 じゃなきゃ学校での柚羽を崇拝なんかしないだろう。


 「やっぱり胸が大きくないとそんな気分になれないんですかね!」

 「……それは本人に聞いてくれ」


 大事なお宝を見る限りそうだと思うが。


 「それかいっそのこと自分から言ってみたらどうだ?」

 「何をです?」

 「自分がして欲しいことを」


 俺が答えると咲奈ちゃんの顔は再び赤く染まっていく。


 「そ、そそそそ! そんなこと言えるわけないじゃないですか! ぼ、ボクはそんな破廉恥な子じゃないですよ!」

 

 まさかの反応に俺の方も驚いてしまう。

 いつも柚羽がそれに近いことを口にするので、当たり前だと思っていたが……

 どうやらあいつが異常でこの子の反応が正常のようだ。




 「ふわ〜!!! よく寝たー!」


 正午近くになってようやく虎太郎が目を覚ました。

 

 「やっと起きたのかよ……」

 「ほら、寝る子は育つっていうだろ?」

 「おまえが育たなきゃいけないのは脳みそのほうだな」

 

 俺と虎太郎のやり取りを見ていた咲奈ちゃんは大声で笑っていた。



 「奏翔さん、今日はありがとうございました、楽しかったです!」

 「え!? なんかすごく仲良くなってね!?」


 戸惑う虎太郎を放置して、俺は手を振ってその場を後にした。

 駅に着くと電車到着の案内が流れていたので、急いでホームに向かうと電車が到着した。

 電車の中に入り、スマホを見ると柚羽に送ったメッセージに既読がついていた。

 どうやら起きているようだ。



 「ただいまー」

 

 玄関を開けて中に入ると2階から勢いよくドアが開く音が聞こえると同時にドタドタと音を立てて階段を降りる『制欲をもてあます』と書かれたTシャツに白の下着姿の柚羽。


 「かーなーとー!!」


 階段を下り切るとこちらに飛びついてきた。

 俺は驚いた際に足を滑らせてしまい、後ろへ倒れてしまう。

 最初に床へついたのが尻だったので痛いだけで済んだが目の前には俺を覆い被りそうな体勢で……。

 

 「うへへ、寂しかったよ奏翔〜! 今日のお昼は奏翔にしちゃおうかな〜」


 柚羽は獲物を目の前にした獣のように舌なめずりをしていた。

 その時悟った。俺にはワイルドになる適性はないのだと。

お読みいただきありがとうございました!


2章に突入です!


まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!


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