49話 俺が誰かと、あいつが誰かと……
「まさかの友達か……」
虎太郎たちが入ったファミレスへ依緒ちゃんと一緒に入店した。
昼は過ぎていたからかわからないが、店内にはそこまで客の姿もなかったので、虎太郎たちから離れた席に案内してもらった。
「はい、倉見咲奈ちゃんって言うんですけど、2年になってから仲良くなった子なんです」
依緒ちゃんの話では2月ぐらいに始めたソシャゲでよく話すフレンドができたと話していたそうだ。
その時は別に気に留めることもなかったが、今日の終業式の最中に、彼女からそのフレンドと会いにいくと言い出したようだ。
「最初は止めたんですよ、ゲームのフレンドと会うって良いイメージがなかったので、でも年代近いから平気だって聞かなくて……それであの子の後をつけていたんです」
「……それで相手がまさかの自分の兄だと」
「そうなんです……」
ドリンクバーコーナーで持ってきたオレンジジュースを飲みながら頷いていた。
「でもよかったんじゃない? 誰かわからない相手よりかは知ってる人の方が……」
「たしかにそうなんですけども……」
そう言いながら、依緒ちゃんは虎太郎たちがいる席の方を見ていた。
「仮に……限りなく想像に近い仮なんですけど! 兄と咲奈ちゃんが付き合ったりなんかしたら、私にとって地獄ですよ!」
「そうなの?」
「考えてみてくださいよ、咲奈ちゃんからそう言った話がでたら兄の影がちらつきますし、その逆もしかりですよ……」
話しているうちに依緒ちゃんは頭を抱えてしまう。
俺には1人っ子だから、そう言う気持ちは理解するのは難しいのかもしれない。
「……いや、そうでもないか」
ふと頭によぎったのは同居人の柚羽のことだった。
仮に一緒に住んでいる状態で、柚羽が……仮に虎太郎や総一郎と付き合ったりなんかした場合、浮かれ話や下世話があいつの口からでるたびに知ってる男の顔がいやでも連想されてしまう。
たしかに依緒ちゃんが嘆きたくなる気持ちは痛いほどわかってきたような気がしてきた。
……にしても、柚羽が誰かと付き合うなんて考えたこともなかったな。
それにあいつが俺のそばから離れるなんて——
「……奏翔さん?」
「うわっ!?」
名前を呼ばれたので顔を上げると、依緒ちゃんの顔が近くにあったため、驚いて後ろへのけぞってしまう。
「ど、どうしたの……?」
「それはこっちのセリフですよ! 突然ブツブツと何か言ってますし、呼んでも反応がなかったので……」
どうやら思っていた以上に考え込んでいたようだ。
ふと、虎太郎の席の方へ目を向けると、楽しく話していたが2人揃って席を立ち上がっていた。
虎太郎が伝票を手にしていたので、帰るのだろう。
「……どうやら帰るみたいだし、俺らもでようか?」
「そうですね……うわあ、こんなことなら見に来るんじゃなかったぁぁぁぁ!」
依緒ちゃんは再び頭を抱えながらテーブルの上に突っ伏してしまう。
会計を済ませると、依緒ちゃんと一緒に外に出たが、虎太郎と依緒ちゃんの友達の姿はなかった。
「それじゃ俺も帰るから、そこまで深く考えない方がいいぞ」
「うぅ……そうしたいですけど、兄の顔を見るたびに連想されてきそう」
依緒ちゃんは肩をガックリと落としながら歩き始めていた。
駅で彼女と別れ、俺はきていた電車に何とか飛び乗ることができた。
空いてい座席に座り、ボーッと外を眺めながらさっきの続きが頭の中を巡り始めていた。
「……もし、あの時俺が富水と付き合ったりなんかしたら、柚羽は何て言ってきたんだろうな」
まあ、よほどの理由がない限り、そのような選択肢を選ぶことはなかったが。
それと同時に、柚羽が他の誰かと付き合ったとしたら、俺はどんな風に接することができるのだろうか。
……もちろん、今と同じように接するのは無理に決まっている。
「やめよ、答えなんか出ないことを考えても時間の無駄だ……」
そんなことを考えているうちに電車は最寄駅に到着していた。
「あ、奏翔おかえりー!」
玄関を開けると、階段から降りてきた柚羽と目があった。
『エッッッッッッッッ』と書かれた黒いTシャツに珍しくジャージのズボンを履いていた。
「ただいま」
靴を脱いで、中に上がっていくと柚羽が毎度のごとく俺の体に抱きついてきた。
「どうしたんだ?」
「奏翔に抱きつきたい気分だったから〜」
柚羽は顔をあげて俺のかおを見るとニッコリと微笑んでいた。
「そういえば、さっき、おばあちゃんが自家製のクッキーを送ってくれたから一緒にたべよ?」
柚羽の言うおばあちゃんと言うのはヨウさんの母親で、自分たちで作った小麦やフルーツを使った手作りクッキーの販売を行なっている人だ。その過程で形が崩れたものや割れてしまったものなど、俗にいう訳あり品を定期的に送ってくれる。
「……わかったよ、着替えてくるから用意しててくれ」
「うん!」
いつも通りのパーカーとジーパンのセットに着替えてリビングにいくと、既に柚羽がソファに座っていて、俺がきたことに気づくと自分の隣をパンパンを叩いていた。
隣に座れという合図だ。
冷蔵庫から炭酸水を持って言われた通りの場所に座ると、すぐに柚羽が俺の方へ寄りかかってきた。
「うへへ〜やっと奏翔にベッタリできる」
柚羽は俺の顔を見るなり、先ほどと同じように微笑んでいた。
何だろうな、この顔を見て気分が落ち着く。
だからだろうか、俺は柚羽の頭を撫でていた。
「ふへへ、要求する前に奏翔が頭を撫でるなんて珍しいじゃん」
「……嫌ならすぐにでもやめるが?」
「ううん、むしろやってほしいけど……また何かあったの?」
「何となくそうしたかっただけだ……」
俺が答えると柚羽は何かを思いついたように「あっ」と声をあげていた。
「も、もしかして……奏翔も欲求不満だったりする?」
「……おまえと一緒にするな、そんなこと吐かすならやめるぞ」
「やーだー! やめないで優しくしてー!」
「……何でそうなるんだよ」
いつも通りのくだらないやり取り……
でも、俺にとってはこのやりとりが日常であり、落ち着く時でもある。
やっぱり俺はこいつと——
お読みいただきありがとうございました!
2章に突入です!
まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!
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