48話 虎にも愛の時間を……?
「やっと終わったよ……なんであんなに話せんだあのハゲ校長」
校長の話が始まって2時間ほど経ち、市の教育委員会との会合があるとのことで、副校長が強制的に話を止め、終業式の幕が閉じた。
教室に帰るとクラスメイトのほとんどが、席に着くと机の上に倒れ込んでいった。
クラスメイト全員が教室に入ってから少しした後、担任も中に入ってきたが、誰もが見てもわかるぐらい疲れた顔をしていた。
「みんなお疲れだったな……とりあえず今日は何も話したくないから、これで終わろう。 とりあえずこれだけは言っておくが、春休みだからって気を抜くんじゃないぞ! では終わり」
担任はそれだけを伝えると、教室を出ていった。
それに続くようにクラスメイトたちも教室から出ていった。
「和田塚さん今日も早いな」
「あれ、さっきまでいたのにもういないのか?」
「彼女のことだからこの後、稽古が待っているのかもしれないな」
「春休みも稽古づくしなのかね?」
いえ、おそらくゲームと溜まったアニメの消化の日々です。
そう言いたくなる衝動を抑えながらカバンを手に取って帰ろうとするが……。
「なぁなぁ、奏翔くん! この後、暇だよな?」
気持ち悪いぐらいの笑顔でこっちを見る虎太郎。
忙しいと伝えようとするが……
「よかったら一緒に来てくれないか?」
「どこへ?」
「待ち合わせ場所に」
「なんでだよ……相手がお前の理想の相手なら俺は邪魔になるだけだろ?」
「いやあ、なんていうかさ……こういうの初めてで、やっぱ百戦錬磨の奏翔がいると安心できるっていうか」
「いつどこで誰が百戦錬磨なんて言ったんだよ」
「頼むよ、親友! 今度プラ〜ザラーメンおごるからさ!」
虎太郎は両手を合わせながら頭を下げてお願いをしてきた。
こうなったらこいつは意地でも退こうはしないからタチが悪い。
「……わかったよ、あまり遅くはいられないぞ」
「あざーっす! さすが心の友だぜ!!」
「国民的アニメのガキ大将か……」
大喜びをする虎太郎の姿をよそに俺は盛大にため息をついていた。
一応帰りが遅くなることを柚羽に伝えておくか……
「そんじゃ俺は先に会って、ファミレス入ってるから適当に見計らって入ってきてくれ!」
地元の駅に着くと、虎太郎は段取りを説明すると急いで待ち合わせの場所に向かっていった。
改札を出たところのロータリーの中心部にある大樹をイメージしたオブジェクトに虎太郎は立っている。
どうやらそこが待ち合わせ場所のようだ。
待っているとスマホが震え出していた。
画面を見るとLIMEアプリの通知で送ってきたのは柚羽だった。
学校を出る時に送ったからそれに対する返信だろう。
Yuzuha.Wadaduka
『うん、わかった! けど寂しいから早く帰ってきて……』
テキストの後に投げキッスをする猫のスタンプを送っていたので、ため息をつく犬のスタンプを送ってからスマホをブレザーの内ポケットに押し込んだ。
「さてと、虎太郎は……」
ローターリーの方へと目を向けると、まだ合流できていないのかオブジェクトの前に立ち、周りをキョロキョロと見ていた。
「まだかかりそうだな……」
時間を潰すためにもう一度スマホを取り出そうとすると……
「あれ、奏翔さん?」
突如声をかけられて、周囲を見渡すと見覚えのある姿があった。
「依緒ちゃん?」
視線の先には虎太郎の妹である依緒ちゃんんの姿があった。声をかけると驚いた様子を見せるも、俺の顔を見ると表情が明るくなっていった。
「奏翔さんにあえるなんてらっきー……じゃなくて珍しいですね、どうしたんですか?」
俺は無言でオブジェクトの方を指す。
「あれ、なんでコタ兄……?」
「まあ、色々あってね、それよりも依緒ちゃんは学校帰り?」
「そうなんですけど、私も色々あって……」
依緒ちゃんは歯切れ悪く話していた。
俺も答えられないので、これ以上聞くことはなかった。
「でも、まさかこんなところで奏翔さんに会えるなんて思いませんでしたよ」
俺の顔を見て笑顔で話す依緒ちゃんだが、仕切りにオブジェクトの方を何度も見ていた。
「……ってかコタ兄あんなところで何してんのかな? いつもなら家に引きこもってゲームばかりなのに」
虎太郎の姿をみた彼女は悪態をついていた。
「その点奏翔さんはアクティブにいろんなところへお出かけしてそうな感じがしますね」
「……そうでもないけどね」
基本的に平日は学校から帰ってきて、夕飯の準備をしているし、休日は朝から掃除と洗濯を済ませてから柚羽の相手でほとんど家にいることが多い。
「俺も基本的には家にいるよ」
「そうなんですか? でも奏翔さんと兄じゃ家にいる意味が違いますよ」
うん、どう違うんだろうな……。
依緒ちゃんと他愛のない話をしていると、虎太郎のところに近づく姿があった。
近づいてきたのは、ショートボブの髪型の女性……っていうよりも女の子と言った方が的確か。
緑のパーカーに薄い青のジーパン姿の子は虎太郎の前に立つと、元気よく頭を下げていた。
それに対して、虎太郎は照れくさいのか、頭をかきながらその子と話をしていた。
虎太郎はその子に連れられながらファミレスの中へと入っていく。
少ししたら、俺も店の中に入るとするか……。
「それじゃ俺はそろそろって……依緒ちゃんどうしたの?!」
一言いってから去ろうと思い、依緒ちゃんの方を向くと、青ざめた顔をしていた。
「ど、どうしたの、大丈夫……!?」
声をかけると依緒ちゃんは壊れたロボットの様にゆっくりと俺の方を向いていた。
「ど、どういうことですか、奏翔さん!」
俺の手を掴んだ彼女はワナワナと震えていた。
「ど、どういうこと……??」
「今、コタ兄と一緒にファミレスへ入っていった子なんですけど!」
「もしかして、依緒ちゃんの知り合い?」
俺が聞くと俺が依緒ちゃんはゆっくりと深呼吸をしてから大きく口を開けてこう告げた。
——私の友達です! と。
お読みいただきありがとうございました!
2章に突入です!
まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!
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