47話 冬にいきる虎にも春はやってくる?
「柚羽、起きろッ!!!」
終業式の朝、目の前の部屋から目覚ましの音が鳴り響いていた。
だが消える様子が全くなかったため中に入ると、ベッドの上に小さな山が。
「早くしないと遅刻するぞ……!」
布団を捲るとベッドの主である柚羽が背中を丸めており、すぐに俺の方へと向きを変えるが、ムスッとした顔をしていた。
「やーだー! 学校になんていきたくなーい! 私の春休みは今日から始まっているんだー!」
「……くだらないこと言ってないでさっさと起きろ、俺まで遅刻したらどうするんだよ」
「こうなったら奏翔も一緒に休んじゃおう! それなら万事解決!」
「……するわけないだろ」
俺は右手の指を弾く仕草を柚羽に見せると恐怖に怯える顔へと変わった。
そう言えば久々にこれをやったな……。
「どうせ半日にしか学校にいないんだから、頑張れ。帰ってきたら春休みだぞ」
「むぅ……それじゃ頑張れる様にハグして」
柚羽は寝たまま両手をこちらに伸ばしていた。
俺はため息をつくと、柚羽の体を抱き上げていく。
「うへへ〜」
まだ寝ぼけているのか、柚羽は俺に抱きつきながら変な声をあげていた。
「それじゃこのまま奏翔のベッドに——」
「——そのまま落とすぞ」
それから数分して柚羽は洗面所に行き、諸々済ませるとダイニングで朝食を食べていく。
「ごちそうさま〜! それじゃ着替えてきちゃうね!」
使ったタンブラーと皿をシンクに置き、そのまま部屋へと戻っていった。
その間に俺は自分と柚羽が使った食器を洗っていった。
「それじゃ、先に行ってるね!」
制服に着替え終わるった柚羽はドタドタと音を立てて階段を降り、玄関へと向かっていった。
「気をつけて行けよ」
「うん! あ、そうだ……!」
「どうした? 忘れ物か?」
「いってきますのちゅーをして?」
柚羽はゆっくりと目を瞑ってこちらへ唇を寄せていた。
「そんじゃ俺も着替えてくるから、また後でな」
そう告げると俺は制服に着替えるため、2階へと上がっていった。
「無視するなー! 奏翔のばかー!!!」
柚羽は叫びなからバタンと勢いよく玄関を閉めたのだった。
「おっす奏翔!」
教室に入るとすぐに声をかけられた。
もちろん声の主は虎太郎。
いつも遅刻寸前に登校してるやつが10分前にいたため、スマホを取り出して時間を確認してしまう。
「……変なものでも食ったのか? お前がこんな時間にいるなんて」
虎太郎はいつも通り自分のではない俺の前の席に座っていた。
ちなみに本当の席の主は別の席のクラスメイトと話している。
「何を言ってんだよ奏翔くん、ギリギリで学校くるのはよくないんだぞ」
「……どの口が言ってんだ」
カバンを机に置くと、周囲を見渡していた。
窓側にある柚羽の席に目を向けると、茶色のブックカバーをかけた本を読んでいた。
……たしか、数日前に買ったアニメ化されたライトノベルだったはず。
「和田塚さん相変わらず眩しすぎるぜ……!」
柚羽の方を見ていると、虎太郎が呟いていた。
「……そこは相変わらずだな」
「そりゃファンクラブの一員だからな! ってかすごいよな終業式でもあんな分厚い本を読んでいるんだからな、カバーしてるけど参考書か、あれは?」
「……そうかもしれないな」
今のこいつに真実を伝えたら自我が崩壊してしまうかもしれない。
時には嘘も必要だ。
……っていうか口が裂けても本当のことは言えないし、言うつもりもないが。
「……俺、もしかしたらファンクラブ辞めるかもしれない」
「……突然どうした? やっぱり道端に落ちてるクリームパンでも食ったか?」
「奏翔は俺のことなんだと思ってんだ! しょうがない親友であるお前には伝えとかないとな……!」
そう言って虎太郎はスマホを取り出そうとするが……
「そろそろ終業式が始まるから体育館に向かうように! それと毎度のごとく校長の話が長くなりそうだから覚悟しておく様にな」
チャイムが鳴ると同時に、担任が教室に入り、全員を体育館に行くように促していた。
「……ついに来ちまったか、まあ覚悟というか準備はしているけどな」
「同じく」
俺と虎太郎はブレザーの内ポケットからコード付きの小型のモバイルバッテリーを手にしていた。
「えー、明日から春休みに入り、それが終わると皆さんは学年が1つ上がります。 いいですか皆さん、高校生活というのは楽しくもあり、時には苦しいものです。 私もかつてはそうでした。あれは私がまだ高校2年の時——」
体育館に集まり、用意されたパイプ椅子に座り、暫くして終業式が始まった。
学年主任の先生が進行していき、この場にいる全員が覚悟を決める校長の小話が始まった。
最初は校長らしいことを言っていたが、次第に話は脱線していき、今は校長の孫のクリスマスプレゼントの話になっている。
周りを見渡すと、大半の生徒がスマホの画面へと向いていた。
「こりゃ当分終わりそうもないな……とりあえずソシャゲを起動っと」
隣に座る虎太郎はスマホを取り出して、アイコンをタップしていた。
「そう言えば、さっき何か言いかけてなかったか?」
「おう、ちょっと待ってろいいもの見せてやるから」
虎太郎はスマホの画面で指を縦横無尽に動かす。
「2月の補習の時、あまりにも暇だったからソシャゲ始めたんだよ」
「そのゲームか?」
「そうそう」
虎太郎のスマホには『グリーンログダイアル』と書かれた画面が映し出されていた。
そういえば柚羽の見ているアニメのCMでやっていたな。
「このゲーム、フレンドになったプレイヤーとチャットが出来んだけどさ」
そう言ってゲームのチャット画面を見せてくる虎太郎。
全体チャットなのか、大量のログが流れていた。
だが、その中に黄色の文字で書かれたテキストが表示されていた。
「……なんか黄色の文字が表示されたぞ?」
「うおっマジかよ!?」
驚いた虎太郎はすぐに画面を食い入るように見ていた。
「なるほど、あっちも終業式で今終わったか……羨ましいな」
どうやら先ほどの黄色の文字はフレンドチャットのようだ。
「おっ……マジで!?」
「どうしたんだ?」
「フレンドが昼飯一緒に食わないかって言ってきてんだよ」
「……ちなみに相手の顔知ってるのか?」
「いや? あ、でも結構近くに住んでいるとは話してたな」
ネットゲームのプレイヤーに住んでいるところまで話すというのは、ある程度気を許しているのだろう。
「ちなみに本人曰く、女で歳もそれなりに近いって話してたぞ」
「……ホントかそれ?」
「話してなんとなく察したが、こいつは年上でしかも美人アーンド巨乳とみた」
「それお前の好みを言ってるだけだろ」
「俺の千里眼がそう告げているんだ! 自分を信じてみるしかねーよな!」
「……どうぞ、ご勝手に」
虎太郎は溢れんばかりの笑顔で相手にチャットを送っていた。
何度か話していくうちに、本当に会うことになったようだ。
「とりあえず昼過ぎに、地元のファミレスで飯を食うことになったぜ!」
虎太郎はニカっと笑いながらこちらに向けて親指を立てていた。
「でもさ、これでこの子といい感じになれたら……ファンクラブやめないとな」
「さっきも言ってたけど、どうしてだ?」
「ファンクラブの規約で『会員が愛するのは和田塚柚羽さんのみ』っていうのがあって、恋人ができたら退会させられちまうんだよ」
「……変なところに本格的だな」
「まあでも、俺が幸せになるなら和田塚さんも許してくれるはず……!」
そういいながら虎太郎はガッツポーズをしていた。
適当に虎太郎をあしらっていると、俺のスマホが震え出した。
画面を見ると、送信者は柚羽と表示されている。
隣の虎太郎にみられないように画面をブレザーで隠しながら確認すると……
Yuzuha.Wadaduka
『校長の話長い! 髪の毛全部爆ぜてしまえ!』
という過激なメッセージが送られていた。
ため息をつきながら、後ろにいる柚羽の方を見ると、あちらも気づいたのか微笑んでいた。
お読みいただきありがとうございました!
2章に突入です!
まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!
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