46話 2人でこれからのことを……(SIDE YUZUHA)
「……やっと落ち着いた」
「大丈夫か? 何があったか知らないが……」
私が喋り出すと奏翔は心配そうな顔をしながら私をみていた。
「うん、大丈夫だよ」
顔をあげてさっきと同じ様に奏翔の肩に顔を乗せてからそう伝えた。
「ならいいけど……」
そう答えつつも奏翔の顔は納得してるようには見えなかった。
「心配した?」
「まあ、それなりに……」
いつも通りにそっけない感じに答えた奏翔は読んでいた本を開いていた。
先ほどのミステリー小説ではなく、ずっと読んでいる少年誌の長編漫画だった。
「……ホントは奏翔に鎮めてもらいたかったなぁ」
奏翔に聞こえる様に呟くが、漫画に夢中になっているのか反応が全くなかった。
何が起きたのかと言うと、欲求不満が爆発しかけていた。
奏翔と一緒にいて、ずっと彼の体に密着だけなら気持ちいいだけで済むけど、奏翔が読んでいた小説の内容が生々しく表現され、私が読んでいたところが主人公とヒロインが欲望の赴くままに互いの体を求め合っていたシーンだった。
そこの部分を私と奏翔であてはめてしまったのが決定打になり、抑えられなくなってしまっていた。
下手をすれば奏翔を押し倒してそのまま小説のヒロインみたいに、欲望のままに彼の体を求めていたかも。
そんなことをすれば奏翔は絶対に怒る。いや怒るどころか私のことを軽蔑するかもしれない。
……そうなる前になんとか自分で鎮めることには成功したのだが。
「ちょっと下に行ってくるね、何か持ってくるものある?」
「あー……小腹空いたから適当につまめるものが欲しいな」
部屋の時計を見ると、おやつの時間となっていた。
知った途端、私も空腹を感じ始めていた。
「うん、わかった。 適当にお菓子持ってくるね!」
それだけ告げると私は部屋を出て、洗面所へと向かったのだった。
「もどったよー、お菓子持ってきたからテーブルの上に置いとくねー」
「ありがとう……って着替えたのか?」
戻ってきた私をみて奏翔が驚いていた。
「うん、なんか寒くなってきたから、洗面所に置いてあった奏翔のパーカー借りたよ」
私が袖をブラブラとさせていると、奏翔は呆れたと言わんばかりにため息をついていた。
さっきと同じ様に奏翔の背中に寄りかかり、頭を彼の背中に乗せてみている漫画に目を向ける。
漫画では主人公の男の子が敵の顔面にパンチをしているシーンだった。
「あれ、このシーンこの前テレビでやってなかった?」
「結構前の巻だしなこれ」
「そうなんだ〜」
それからは持ってきたお菓子を食べながら奏翔の読んでいる本をみていた。
その時にふと、奏翔のほっぺたが視線に入った。
さっき指でつっついたり、伸ばしていた時からずっと……
「奏翔、ほっぺにちゅーしていい?」
「俺がいいって言うと思うか……?」
「むぅ……そこは1回ぐらい言ってもいいと思うんだけどなあ」
今度奏翔が寝た時にこっそりやることにしよう。
しばらくの間奏翔の読んでいる漫画を一緒になってみていたが、段々眠くなってきた。
ずっとあくびが止まらなかった。
「眠いなら寝たらどうだ?」
何度もあくびをする私をみて、奏翔が声をかけてきた。
ちなみに、私のが移ったのか奏翔も何度かしていた。
「……もしかして一緒に寝ようって遠回しに誘ってたりする?」
「全くもって言ってない」
「そこは嘘でもそうだよって言って欲しかったなあ」
そう言いながら私は立ち上がる。
「……重い」
私は奏翔の膝の上に頭を乗せて仰向けになっていった。
俗にいう膝枕である。
「奏翔が一緒に寝てくれないのが悪い!」
「どういう理屈なんだよ……」
奏翔は悪態をつくものの、私を退かせようとはしなかった。
文句は言っても、私のわがままに合わせてくれるところがホント大好き。
「ねぇ、奏翔」
「どうした?」
私が呼ぶとちょうど読み終わったのか、漫画を閉じていた。
「春休みが終わったら3年生だね」
「そうだな」
「たしか3年生ってクラス替えはないんだよね?」
「たしか前に担任がそんなこと言ってたな」
「ってことは3年生も奏翔と一緒のクラスだね!」
「……と言っても学校じゃほとんど話さないから意味はないけどな」
「奏翔と一緒にいるってことが大事なんだよ?」
「……よくわかんないな」
奏翔は腕を伸ばしてから、そのまま後ろのベッドに体を落としていった。
「……そう言えば大学はどうするんだ?」
「受験勉強とかしたくないから、そのまま付属大にいくよ」
「やっぱりそうか」
私や奏翔が通う学校は大学附属高校のため、ある程度成績を取っていればエスカレーター式で大学へ入学できるようになっている。
残念なのが場所が2駅ほど遠くなってしまうことだけど……。
「奏翔は? 大学には行くんでしょ?」
「まあな、父さんから『高卒だと給料が低くなるから絶対に大卒が』いいと散々言われてきたし」
「さすがユウさんだね、お父さんと同じこと言ってる〜」
「学部はどうするんだ?」
「デジタルコンテンツ学部だよ」
「……そこまで一緒かよ」
奏翔はそう言いながらため息をついていた。
附属大学ではIT技術を学べるとホームページに掲載されていた。
特に私がやりたいのはデジタルイラスト。
そのためにこの前、液タブを買ったってのもある。
「奏翔は何をやりたいの?」
「デジタル系の画像とか映像処理の方をやろうと思ってる」
「デジカメに関係しそうなこと?」
「まあな……」
「それじゃ、大学に行っても一緒にいられそうだね♪」
「……まさか小学校から大学まで一緒になるとは」
奏翔はそう話すが、顔を見る限り嫌そうには見えなかった。
「かわいい柚羽ちゃんの傍にいることができて嬉しいでしょ?」
「……自分でそこまで言えるおまえが時たますごいと思えるな」
そう言って奏翔は笑っていた。
ずっと奏翔と一緒にいることができた。高校を卒業した後、大学も一緒。
それ以降も彼の傍にいることができるかな。
——ううん、できるかなじゃない。絶対にいようって思う気持ちが大事なんだ。
「でも大学に入ったら合コンとかあるって聞くけど、奏翔は言っちゃ(行っちゃ)ダメだよ?」
「そもそもそういうのに興味はない」
「でも、虎太郎くんとかに誘われたら行っちゃうんじゃない?」
「……なんかそんな気がするな。ってか附属大に行くってことは虎太郎もいる可能性もあるのかよ」
奏翔の返答に思わず笑ってしまう。
「もし私に黙ってそんなのに言ったら、一生一緒に寝てあげないからね!」
「……別に俺は構わないけど? お前が我慢できるなら」
「むぅ〜! 奏翔のいじわる〜!!」
私が奏翔の体を叩くと、いじわるな少年みたいな含みのある笑いをしていた。
「……ってかもうこんな時間か、飯の用意したいけどダルくなってきたな」
窓から外を見ると、日が沈みかけていた。
ずっと2人でいたことに満足していたのが1日がものすごく早く感じてしまう。
「もうちょっとこうしていようよ〜」
「夕飯どうするんだよ?」
「たまにはデリバリーしちゃおうよ、たしかアプリで割引クーポンがあったし。 いつも作っているんだから、たまに休んでもバチはあたらないと思うよ」
「……できればどっかの誰かが作ってくれると嬉しいんだけどな」
奏翔は呆れたと言わんばかりの表情で私を見ていた。
「むぅ……料理はできなくても奏翔に料理される準備はいつでもできてるよ?」
「……で、何を頼むんだ?」
言い返すのもダルいと思われたのか、すぐに話を戻していった。
「アプリ見て一緒にきめようよ〜」
私は体を起こして、デリバリー専用のアプリを起動させると2人で一緒に見ていった。
奏翔と一緒にいると心が落ち着くと再認識できるそんな1日だった。
とりあえず、明日は気合いで乗り切ろう。
お読みいただきありがとうございました!
2章に突入です!
まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!
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