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44話 うちの猫は女の匂いに敏感なんです

 「お、おまたせしました!」


 恩田家の玄関で待つこと数分して、依緒ちゃんが戻ってきた。

 先ほどは首まで包んだセーターと灰色のロングスカートだったが、セーターの上に紺のデニムジャケットを羽織っていた。


 「それじゃ行こうか」

 「はい!」


 俺が先に出ると、後に続く様に依緒ちゃんも外へと出た。


 「どんなところに行きたいですか?」

 「景色がいいところかな」


 俺が答えると、腕を組んで考え込む依緒ちゃん。


 「うん、あそこに行ってみよう、奏翔さんこっちです!」


 依緒ちゃんは俺の方へと手を振りながら歩き出していった。

 

 恩田家は最寄りの駅から高台の位置にあるのだが、彼女が向かっていくのはさらに上へ続く坂を登っていった場所だった。

 

 「ここからあっちを見ると、駅周辺が見えちゃうんですよ!」

 

 依緒ちゃんが立っていたのは小さな陸橋の中心部だった。

 彼女と同じ方を向くと、駅が見え、うっすらではあるが線路も確認できた。


 「たしかにいい景色だな」


 俺はカバンからコンデジを取り出してスイッチを押して起動させた。


 「あ、デジカメ!」


 俺のコンデジを見て依緒が驚いていた。


 「奏翔さん、写真撮るのが好きなんですか?」

 「そんなところかな……」


 たまにしか撮らないので好きと公言していいのかわからなかったので、曖昧に答えていった。


 「よかったら撮ってあげようか?」

 「い、いいんですか!? 私なんかとっても面白くもないというか……」

 「せっかくだし、それに案内もしてもらってるからせめてのお礼ってことで」


 俺は依緒ちゃんの位置をきめると、そこに立つように伝える。


 「こ、こんな感じでいいですかー! ってうわぁ……緊張する!」

 「別にプロに取られるんじゃないんだし、気楽に構えてくれればいいから」

 「ひゃ、ひゃい!」


 フォーカスを合わせて、シャッターボタンを押す。カシャっという音と共に液晶に撮影した画像が表示された。


 「うわぁ……私、すごいガチガチになってる」


 写真の中の依緒ちゃんは口を真一文字に閉じていた。

 誰もが緊張しているのがわかるといった感じだ。


 「記念の一枚だし保存するか」

 

 俺は液晶に表示された保存ボタンをタップした。


 「すみません……」


 写真を見ていた依緒ちゃんは沈んだ顔をしていた。


 「そんなに気にしなくても平気だって」


 そう言いながら俺はいつもの癖で彼女の頭を撫でてしまっていた。


 「あ……」


 驚いたのは俺だけでなく撫でられた依緒ちゃんもだった。

 だがすぐに顔を真っ赤にしながら下を向いてしまう。


 「奏翔さんにそんなことされたらニヤけがとまらないって……」

 「ご、ごめん、嫌だったよね?」

 「そ、そんなことないです! むしろじゃんじゃんバリバリやっちゃってオッケーです!」


 グイッとこちらに顔を近づけながらそう答えていた。

 それにしてもこんなところでいつもの癖がでてしまうとは……気をつけないと。


 それから依緒ちゃんに連れられていろんな場所を巡っていった。

 駅の反対側にある、元々この辺り一体を治めていた領主の城の跡地であったり、野良猫があつまる神社であったり。

 行った先々で俺はコンデジで写真を撮っていった。


 「結構廻りましたね〜!」


 最後に寄ったのは駅から一直線に歩いた場所にある大きな公園。

 彼女の顔に疲れが見えていたので、少し休むことにした。

 自販機でペットボトルのお茶を買って渡すと、大きな声でお礼を言ってくれた。


 「色々連れ回しちゃってごめんね」

 「いえいえ、むしろ楽しかったですよ!」

 「そう言ってもらえると助かるよ」


 俺は自販機で購入した缶コーヒーを開けて口をつけていった。

 飲みながらふと、公園の中心部にある時計に目を向けると、もう少しで夕方の時間になろうとしていた。


 「そう言えば、虎太郎は起きた?」

 「さっきからLIMEのスタンプ連打しているんですけど既読にならないですね……夕飯まで起きることはなさそうですね」

 「……あいつらしいな」


 俺の返答に依緒ちゃんは笑っていた。


 「さてと、そろそろ俺も帰らないと……家まで送っていくよ」

 「いえいえ! 大丈夫ですよ! それに帰りに本屋寄ろうと思ってるので」

 「そっか……」

 「そうだ、奏翔さん1つだけお願いしていいですか?」

 「……どうしたの?」


 依緒ちゃんは自分のスマホを取り出していた。


 「よ、よかったらツーショットでと、撮らせてもらえませんか!?」

 

 声を震わせながら話していく。


 「俺でよければ——」

 「——いや、むしろ奏翔さんだから撮りたいんです!」


 彼女の大声に驚いてしまう俺。


 「えっと、セルフモードはこうして……」


 スマホのカメラを起動させてセルフモードにして画面にこちらを写していく。

 気がつけば依緒ちゃんの顔がすぐそばにあることに気づいて驚いてしまう。

 また彼女の使っているジャンプーの匂いだろうか、フローラルな香りが鼻をかすめていった。


 「それじゃ、いきますよ! ハイチーズ!」


 スマホのスピーカーからカシャっと音が鳴り響くと同時に画面には満面な笑顔の依緒ちゃんとほぼ真顔の俺が写っていた。


 「ありがとうございます! そうだ! 写真送るのでLIMEアカウント教えてもらっていいですか!」

 

 俺のスマホでLIMEアプリを起動させ、登録用のQAコードを表示させていく。

 すぐにピロンと軽快な音と一緒に画面には『いお』という名前が表示されるとすぐに先ほど撮った写真が送られてきた。


 「今日はありがとね、楽しかったよ」

 「私こそ今日はすごく楽しかったです!!」


 そのあとは駅まで一緒に歩いて行き、改札で彼女と別れた。


 「ふへへ……奏翔さんとのツーショット写真」



 

 

 「ただいまー」


 家に帰る頃には日が沈みかけていた。

 家の中に入ると、ダイニングの扉が開き柚羽が姿を見せてきた。

 『やばたにえん』と書かれた白いTシャツに紺のハーフパンツ姿で。

 どうやら今日はずっと家にいたようだ。


 「おかえりー!」


 柚羽は真っ先にこちらへやってくると俺の体に抱きつく。


 「ほぼ1日奏翔に触れてなかったから危うく干からびるところだったじゃん!」

 「……どういう原理だ」

 「奏翔は柚羽ちゃんの原動力ってことだよ、あと5時間はこうしてたいかも」

 「こっちが何もできなくなるだろ……」


 張り付いてくる柚羽の体を剥がしながらダイニングに入っていく。


 「まだ夕飯まで少しだけ時間あるか……」


 冷蔵庫から炭酸水を取ってからリビングのソファに腰掛けると、隣に柚羽が座り猫のように俺の体にすりついていた。

 

 「ふにゃあ〜、奏翔の体クンカクンカするだけで気持ちよくなっちゃいそう」

 「……身の毛がよだつこと言い出すな」

 「ふへへ〜ってあれ?」


 突然、柚羽が真顔になり何度も俺の体の匂いを嗅ぎ始めた。


 「どうしたんだよ……」

 「……女の匂いがする」


 柚羽はじっと俺の顔を睨んでいた。


 「あぁ、ずっと依緒ちゃんと一緒にいたから石鹸とかシャンプーの匂いがうつったのかもな」

 「誰それー!!」

 「虎太郎の妹だよ」

 

 答えると、柚羽は目と口を大きく開けていた。


 「わ、私というものがありながら浮気したんだ! しかも友人の妹と!」

 「……どうなったらそういう発想になるんだよ」


 俺がため息をついていると、柚羽はすぐに立ち上がり、俺の目の前へと移動していた。


 「……奏翔、ハグして」

 「どうしたんだ?」

 「いいからハグするの! じゃないと私からする!」

 

 そう言って柚羽は真正面から俺に抱きついてきた。


 「奏翔には柚羽ちゃんの匂いだけでいいの……!」

 

 柚羽はそういいながら抱きしめる力を強めていく。


 「私の匂いでいっぱいになるまで奏翔は私から離れちゃだめ! お風呂もベッドでも一緒にいるの!」

 「……風呂ぐらい1人でいさせてくれ」


 ベッドに関しては何を言っても勝手に忍び込んでくるので最近は諦めることにしていた。


 「ちなみに今なら、柚羽ちゃんの体で洗ってあげるサービスも——」

 「結構だ……」


 その後、風呂はなんとか1人で入ることを死守できたが……

 朝まで柚羽は俺のそばから離れることはなかった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「ふわ〜あ……お、どうしたんだよスマホ見て何ニヤニヤしてんだよ」


 夕飯を済ませてから居間でスマホを見ていると、大欠伸をしながら兄がやってきた。


 「別にコタ兄に言う必要はないでしょ!」

 「それよか、今日奏翔の奴がきてなかったか? 三度寝までは覚えているんだけどそれ以降、記憶なくてさ」

 「……来てたけど、コタ兄が起きてこないから帰っちゃったよ」

 「そっかぁ……あとで連絡しとくか」


 そう言って兄は欠伸で大きく口を開けながら居間から出ていった。


 「何で同じ高校生なのにこうも違うんだろ……」


 そう呟きながら私はスマホに表示された写真を見てニヤけてしまっていた。

お読みいただきありがとうございました!


2章に突入です!


まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!


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