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43話 ミッション:虎太郎にお宝を返却せよ

 「おはようございます、藤野と申しますが、虎太郎さんはご在宅でしょうか……?」


 次の日の朝、俺はアイツの宝物を持って恩田家へとやってきた。

 洋風の家が立ち並ぶ住宅街に威厳を示すかの様な和風の家が建てられていた。

 虎太郎の話では、曽祖父の代からこの場所で剣術道場を開いているらしく、この一帯では有名な家のようだ。


 そんな作りの家とは似合わない近代的なインターホンを押して、要件を伝えとスピーカーからバタバタと音がしていた。

 しばらく待っていると、ガラガラと引き戸が開き出した。

 そして姿を現したのは……


 「か、奏翔さん……!」


 虎太郎ではなく、ふっくらした顔立ちに兄までは言わないがキリッとキツさを想像させるような目をした少女が立っていた。ふんわりと肩まで伸びた髪型はテレビに出てくる女性アイドルグループを意識しているのであろう。たしか中学2年だと言っていたから、そう言ったことに多感なお年頃なんだろう。

 ……ちなみにうちの同居人はそういうのにはまったく興味も示さず、我が道を行っている。


 「あ、お久しぶりだね……えっと」

 「依緒いおです! お、お久しぶりです!」


 最後に会ったのは去年の初めだったので、顔は覚えていても名前までは思い出せなかった。

 にもかかわらず虎太郎の妹、依緒ちゃんは嫌な顔せずにこちらを見ていた。


 「コタに……兄に用事ですか?」

 「そうなんだけど……もしかして虎太郎寝てる?」

 「はい、すごいイビキをかきながらまだ寝てますね……」


 昨日の夜、朝早くに行くと伝えたんだけどな……


 「あ、よかったら家の中で待ちますか? ちょっと汚いですけど……!」

 「そうさせてもらえると助かるね」


 今日は虎太郎の大事な宝物を返したら、デジカメでいろんな場所を撮ってみようと思っていた。

 まともな荷物ならこの子に渡して帰ることもできるが、さすがにあのような品物なため、そういうわけにもいかない。


 「それじゃどうぞおあがりください!」

 「お邪魔します……」


 依緒ちゃんに案内されたのは応接間だった。

 

 「いま、お茶を持ってきますので!」

 「あ、いいよ!おか——」


 お構いなくと言おうとするが、依緒ちゃんはすぐに部屋を出ていってしまう。

 

 「それにしてもすごいな……」


 部屋の床は部屋一面畳張りとなっており、机は掘り炬燵。部屋の奥には華道教室のポスターに飾られてそうな色鮮やかな花が活けられている。そして壁には達筆な文字で『百錬成鋼』と書かれた縦長の掛け軸がかけられていた。


 「……よく時代劇やゲームだとこういったところに隠し通路があるんだよな」


 そう呟きながら、掛け軸の方へ近づき、後ろを確認しようとする。


 「お茶お持ちしました!」


 元気な声と共に依緒ちゃんが戻ってきた。


 「あ、もしかして掛け軸の裏が気になっちゃいました?」


 微笑みながら依緒ちゃんはテーブルの上に急須と湯呑みが入ったお盆を置いていた。


 「……残念ながら後ろに隠し通路はないですよ」

 「何で何も言ってないのにわかったの……?」

 「小さい頃に、兄と一緒にみたことがあるので、そのあとお父さんに怒られましたけどね」


 依緒ちゃんは急須にお茶を入れながら答えていた。

 ってかやろうとしていたことが虎太郎と同じであることに軽くショックを受けていた。


 「粗茶ですが、どうぞ!」


 俺の目の前にお茶を置く依緒ちゃん。さっきから見ていたが、随分とお茶の入れ方が丁寧だった。

 早速湯呑みに口をつけてお茶を飲んでいく。

 暑いかと思って冷まそうと思っていたが、飲みやすい温度になっていた。


 「……ど、どうですか?」


 依緒ちゃんはじっと俺の顔を見ていた。


 「うん、美味しいよ。飲みやすい温度に調節されててビックリした……そこまでできるなんてすごいね」


 思ったことを伝えると依緒ちゃんは顔を赤くしながら喜んでいた。

 

 「そ、そんなことないですよ! 奏翔さん褒めすぎですよー!」


 謙遜しながらも依緒ちゃんはしばらくの間顔が緩んでいた。




 「起きてきませんね……」


 応接間に来てから1時間近くが経つ。スマホの時計ではもうすぐ正午になろうとしていた。

 ちなみに我が家の同居人はいまさっき目覚めた様でLIMEでスタンプが送られていた。

 

 「……いつもこんな感じ?」

 「2月は補修(補習)があるとかで8時頃には起きてましたけど、3月になってからはこんな感じですね、下手したら二度寝や三度寝でまともに起きてくるのが夕方近くになることも」

 「……マジかよ」


 さすがに夕方近くまでは待っていられない。虎太郎の家から自宅まで1時間近くかかるため、そこから夕飯の準備をしていたら夜遅くなってしまう。


 「仕方ない……依緒ちゃん、虎太郎の部屋教えてくれる?」

 「いいですよ!」


 湯呑みに残ったお茶を飲み干してから立ち上がると、応接間を出ていった。

 虎太郎の部屋は階段を上がった奥の部屋にあるそうだが……。


 「……冗談だろ、この音」

 「やっぱりそう思いますよね……」


 2階へと上がった途端、工事でもしているのかと思えるぐらいのイビキが周囲に響き渡っていた。


 「兄の部屋は一番奥ですよ!」


 案内されて虎太郎の部屋の前へと辿り着く。

 ゆっくりとドアを開けると、公害レベルの騒音が耳の中に入ってきた。

 あまりの煩さに耳を塞ぎながら、こいつのお宝物を部屋に放り込み、急いでドアを閉めた。

 ちなみにお宝は中がバレない様に紙袋を3つ使い、さらに袋の口をガムテームでこれでもかというぐらいぐるぐるに巻いておいた。

 開ける時に一苦労するかもしれないが、お宝のために頑張って開封してくれ。


 「さてと、要件は済んだし……そろそろお暇するか」


 帰ることを依緒ちゃんに伝えると、玄関まで案内をしてくれた。

 靴を履き終えて、もう一度お礼を言おうとする。


 「あ、あの奏翔さん!」

 「どうしたの?」


 先に声をかけてきたのは依緒ちゃんだった。

 落ち着かない様子で、目がキョロキョロとしていた。


 「す、すぐに家に帰るんですか?」

 「いや、こっちには滅多に来ないから、少しぶらついてみようとは思ってるよ」

 「わ、私も一緒に行っていいですか! よかったら色々ご案内しますよ!」


 依緒ちゃんは若干こちらに身を乗り出していた。


 「俺はいいけど……」


 そう答えると依緒ちゃんは今にも目がキラキラと輝きそうなぐらい微笑んでいた。


 「それじゃちょっと待っててください! すぐに用意してきますから!」


 依緒ちゃんは慌ただしい様子で家の奥へと行ってしまった。

お読みいただきありがとうございました!


2章に突入です!


まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!


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