42話 ブーストアイテム発見
「お願いがあるんだ奏翔!」
突然、朝早くに俺のところへ電話をかけてきたのは補習期間が終わり、短いテスト休みに入った虎太郎だった。
電話の際にも慌てていたので、よほど困ったことがあるのだろうと思い、学校の近くのファミレスに来た。
ちなみに柚羽は液タブのセットアップが終わり、起きてからずっと絵を描いている。
「……それで何が起きたんだ?」
ドリンクバーコーナーで注いで来た店オリジナルドリンクを口にしながら話を聞いていく。
「何も言わずに当分の間、これを預かってて欲しいんだ……」
虎太郎の手には大きな紙袋が握られており、もう片方の手でそこを抑えているので重い物のようだ。
受け取って中身を見ていったのはいいが。
「……虎太郎、これって…………」
「あぁ、俺の秘蔵のコレクションだ」
「大層なこと言ってるが、早い話これって……」
ストレートに言えばエロ本だ。
周りに見られない様に紙袋の口に顔を近づけて中身を見ていくと、表紙から人に見せられない本がいくつかあった。
18歳未満は買うことができないとか、そんな話はこの際置いておこう。
「……そもそも何で俺がこれを預からないといけないんだ?」
「あぁ、これには海底よりも深い理由があってだな……」
どうやらどうしようもない理由のようだ。
過去にこいつが前置きでこれを言う時は大概くだらないことがほとんどだった。
「妹がこれを読んでたんだ」
虎太郎には歳の離れた妹がいる。たしか中学2年ぐらいだったはず。
前に家へ遊びにいった際、顔を合わせたが、兄とは違い可愛らしい顔をしていたのを覚えている。
「最近俺が集めている漫画を勝手に読み始めたんだよ、なんかクラスの連中と話を合わせるとか言ってたんだけど」
「……まあ、変な話じゃないな」
「で、たまたま俺がこれらの整理をしてた時、腹痛でトイレに立てこもってた隙に妹が部屋へ入ってきて読んでやがったんだ」
「……単なるおまえの不注意に聞こえるのは俺だけか?」
それの意見を無視をして虎太郎は話を続けていった。
「俺の両親、妹にはものすごい過保護なんだよ! そんな妹がエロ本読んでたことを知って、昨日の夜は家族会議が起きちまったんだよ」
会議の結果、教育上よろしくないとかで、捨てろと言われたようだが本人にとっては大切なコレクションであるため捨てれずに困り果てて夜しか寝れなくなったと話していた。
「頼むぜ心の友よ! 頼めるのはおまえしかいないんだよ!」
虎太郎はテーブルの上にドンと両手を起き、頭を下げていった。
ただでさえ虎太郎の通常の声が大きいため周りに聞こえたのかこちらを見ていた。
正直気まずすぎる。
「わかったから頭をあげろ! とにかく預かっておくから!」
この場を終息させるにはそれしかなかった。
俺が伝えると虎太郎はさっきまでの沈んだ顔が嘘だったかの様にニコニコとしていた。
「いざとなったら奏翔も使ってもいいぜ! ちなみにオススメは——」
「——見る気もなければ使う気もないから結構だ!」
預かることに関しては別に構わなかった。
こいつの家では妹さんが問題になるのと同じく我が家にもこれがみつかったら色々な意味で問題になるのがいるのである。
「……とりあえずベッドの下に隠しておくか」
思わず自分に中学生かとツッこんでしまっていた。
帰りは不審者よろしく、紙袋を抱えながら誰にも見つかることなく無事に家へと辿り着いた。
ダイニングから音が聞こえていないので、どうやら柚羽は絵を描くことに夢中になっているようだ。
みつからないようにゆっくりと階段を上がり、自分の部屋へと入っていく。
「とりあえず、こいつはここに……」
虎太郎から渡された紙袋を滑り込ませる様にベッドの下へと忍ばせる。
「ひとまずは何とかなった——」
「あれ、奏翔帰ってたのー?」
一安心していると柚羽が部屋のドアを開けていた。
急なことで俺は体をビクッとさせてしまう。
「なんかすごい驚いてたけど、どうしたの?」
「き、気のせいだ……」
「ならいいけど……それよりお昼どうする?」
柚羽に言われ、部屋の時計を見ると正午を夕に過ぎていた。
「そういえば昨日残ったトンカツがあるからカツサンドでも作るか」
「いいかも〜!」
俺は柚羽と一緒にダイニングへと向かった。
「ふわ〜……眠くなってきたな」
昼食の片付けをしているが、欠伸が止まらなかった。
朝早くから出かけたこともあり、昼食もボリュームのあるものを食べたせいもあるかもしれない。
「夕飯の準備までまだあるし、柚羽も絵を描いてるから少し休ませてもらうか……」
そのままリビングのソファで横になるとすぐに夢の中へと旅立っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「かなとー、入るよー!」
ドアを開けて奏翔の部屋に入るが、部屋の主の姿はなかった。
「あれいない……もしかして夕飯の買い出しにでもいっちゃったのかな? まあいいや、あとで断っておけばいいか」
そう言って私は奏翔の本棚を物色していく。
買った液タブで絵を描いていたけど、ネタに詰まってしまったので参考になりそうな漫画を探しにきていた。
「さすがに奏翔の持ってる漫画じゃえっちぃのはないかー」
彼が基本的に読んでいるのは少年誌のため、そういうシーンがあっても謎の光や細部が省かれたものがほとんど。
「仕方ない……画像検索を……ってうわわ!?」
手に取った本をしまおうとした際に漫画がいつもの癖で耳にかけていたペンにあたり、コロコロと転がっていってしまった。そしてペンは奏翔のベッドの下へと……。
「うわぁ……面倒くさいところに入っちゃったよ」
仕方なく、身を屈めてベッドの下を見ていくとすぐにペンは見つかったが、ペンの横に紙袋が無造作に置かれていた。
綺麗好きな奏翔がこんなところにしまうなんて珍しい。
「何が入っているんだろ? もしかして大事なものかも!」
ペンを取ったあと、紙袋を引っ張り出して、中身を確認していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「やば……寝過ぎた!?」
起きてすぐに時計を見ると、日がすっかり沈んでいた。
「そうだ、食材の買い出しに行かないと……」
本来なら少し寝てからいくつもりだった。
柚羽はここにいないと言うことはまだ描いているのだろう。
念の為声をかけておくか。
そう思い、急いで階段を上がっていくと、自分の部屋のドアが開いていた。
「さっき閉めたよな……?」
もう一度閉めようとドアノブに手をかけようとした瞬間、部屋の中の光景を見て俺は驚愕してしまう。
「ゆ、ゆずは……!?」
俺の部屋の中で柚羽が紙袋の中身をじっくりと見ていた。
俺の姿に気づいた柚羽は本をパタンと閉じ、ゆっくりと俺の元へとやってきた。
「かなと……」
「ち、違う! それは俺のじゃなくて虎太郎にたのまれ——」
「こんなのに頼らなくても私に言ってくれればいくらでもしてあげたのに!」
「……へ?」
「そっかぁ、全く興味ないと思ってたけど、やっぱ奏翔も男の子だったんだね」
なんか思春期の男の子を持つ母親みたいなこと言い出したぞ。
「それにしてもやっぱり奏翔はきょぬー好きだったか……そこは叶えてあげれないけど、それ以外なら何でもしてあげれるから!」
「だからそれは俺のじゃなくて虎太郎の——」
俺の話の途中で柚羽は俺の腕を力強く握る。
「私も限界近いから今日の夜は2人で解消しよう! いや今夜とかじゃなくて今すぐ! ってか今じゃないともう我慢できない!」
俺は掴んでいた柚羽の手を振り払うと一目散に買い物へと出掛けていくのだった。
ちなみに紙袋は適当に理由をつけて次の日に虎太郎の家へと持っていくと電話で告げた。
お読みいただきありがとうございました!
2章に突入です!
まだまだ2人のドタバタ劇は続いていきますので是非お楽しみに!
そして、この作品が「面白かった」「ドキドキした」「応援してあげてもいいかな」と思った方は、
その際にこのページの下(広告の下)にある、
「☆☆☆☆☆」を押して評価をしてくださると作者はモチベーション爆上がりします!
ぜひページを閉じる前に評価いただけたら嬉しいです!
感想もぜひよろしくお願いします!