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39話 柚羽ちゃんの服装選び

 「今日のTシャツはどれにしようかな♪」


 3月も入って少し暖かくなってきたなと思えるようになってきた日の朝……というか朝と昼の境目と言った方がいいかもしれない時間に柚羽は今日着るTシャツを選んでいた。

 しかも何故か俺の部屋で。


 「うーん、今日のとりあえず今日の気分で3つまで絞ったけどどうしようかなぁ」


 柚羽の目の前には部屋だけで着ている白が1枚黒が2枚のTシャツが置かれている。

 1つ目は枕のイラストと一緒に描かれた『YES』の文字『スパダリ』の文字の後にハートが描かれたもの

 そして最後は『しゅきぴ』と書かれている。


 「奏翔はどれを着て欲しい?」

 「……何で俺に聞く?」

 「選んでくれた奏翔にはお礼に柚羽ちゃんのお着替えの手伝いをする権利を——」

 「——謹んでお断りいたします」


 俺が間髪入れずに話すと不機嫌を表現したかのように頬を膨らませていた。


 「このTシャツを着るってことは外に出る気ないんだろ? だったらどれを着ても別にいいわけだろ……?」

 「奏翔は女心をわかってないなあ〜」


 何か自信ありげに言い始める柚羽。

 そもそもこんなTシャツを着る時点で女心なんか無いだろうと言いたくなる。


 「このテキストは私の意思表示を表しているんだよ!」

 「……それじゃ参考程度に聞かせてもらおうか?」


 柚羽はメガネをかけていないのに何故か、眉間に指を当ててクイっとあげていた。

 どうやら講師をイメージしているようだ。


 「まずはこの『YES』のTシャツ。 これは『私はいつでもいいよ』っていう意味になります!」

 「……その『いつでも』は何を意味するんだ?」

 「えー、女の子にそこまで言わせるの〜? そりゃもう……2人だけの営み♪ 朝でもいいしお昼ご飯食べた後でもいいし、夕飯前とデザートがわりに夕飯後でも、つまりはいつでも準備はできてるってこと、むしろ今この瞬間——」

 「——もういいわかった、とりあえずこのTシャツは却下だ」


 これ以上言わせるととんでもないことまで言いかねないので早々に止めることにした。


 「むぅ……それじゃ次はこの『スパダリ』ハート。スパダリというのはスーパーダーリンの略で、家事や料理など何でもこなせる完璧な男性のことを指します。 私の中で奏翔のことで、最後のハートは押し倒したいぐらい好きという——」

 「——そもそも好きで家事と料理をしているわけじゃないから、却下」


 何で最終的にそっち方面に持っていこうとするんだ、この同居人は……。


 「最後! 『しゅきぴ』は好きな人や友達にも使える言葉をちょっと可愛く言ってる感じ! これを着るってことは私は奏翔にすっごく甘えたくて今すぐベッドに押し倒したい——」

 「却下だ!」


 結局は似たような理由で、思わずため息が漏れ出す。


 「全部ダメじゃん!」

 「普通のTシャツ着ればいいだろ!」

 「だってこうやって意思表示しないと奏翔がその気になってくれないでしょ!」

 「……そもそもそんな意思表示いらねーよ!」

 

 それからお互いの意見が飛び交ったが、柚羽は食い下がろうとしなかった。


 「わかった! 奏翔がそこまでこの3枚がダメっていうなら……!」

 

 壮絶な口論の末、柚羽がやっと妥協してくれ——


 「Tシャツは着ない!」


 それどころか、斜め上の結論に至ってしまった。


 「……インナーは着ろ、風邪ひくぞ」

 

 3月になって少し暖かくなったとはいえ、まだ気温は低い。

 くだらない理由で、風邪でもひかれたら、ただでさえ家のことで忙しいのに手が回らなくなってしまう。


 「あー、そっか!」


 何かに気付いたのか、柚羽は両手を合わせていた。

 こういう動作をする時のコイツはろくなことを考えていない。

 何故か、俺の衣類が入っているクローゼットを開けて、タンスの中を物色する。


 「お、あったあった!」


 彼女の手には出かける時に着る白いYシャツが握られていた。

 そして、すぐにパジャマを脱ぎ始めていた。


 「ば、バカ!着替えるなら自分の部屋で!」


 俺は反対側を向く。

 柚羽は恥じる様子もなく鼻歌混じりで何かをしていた。


 「じゃじゃーん! 奏翔の希望叶えたよ!」


 顔を隠しながらゆっくりと彼女の方へと向くと……。

 上は俺のYシャツを着て、下は黒の下着のみになっていた。

 Yシャツのボタンはきちんと閉められている。


 「遠回しに言わないではっきり言えばいいのに、奏翔のむっつりすけべー!」


 柚羽は俺の目の前で届いていないシャツの手首の部分をヒラヒラと揺らしていた。


 「おっ、よく見たらブラも透けて見えてるじゃん!」


 柚羽はYシャツを体にベッタリと密着させると、下と同じ色の下着がくっきりと見えてしまっていた。


 「……見てみて、これすっごいえっちぃよ!?」

 

 そう言いながら俺の方の方へと近づいてくるが、目のやり場に困ってしまい、俺は目を逸らしていた。


 「……わかったから着替えろ」

 「あれ〜? もしかして恥ずかしくてみれなかったりする〜?」


 ニヤニヤと俺を揶揄うような顔を浮かべながら、じっとこちらを見ていた。


 「かわいい柚羽ちゃんの”ないすばでー”でこんな格好されたらそりゃ興奮しちゃうよね! よし、そのまま欲望のままに私を押し倒すんだ! できれば服を脱がさないほうが燃え上がるかも——」


 俺よりもむしろ興奮しているのは柚羽だと言いたくなったが、聞く耳を持ちそうにもなかったので、黙ったままクローゼットから適当にジャージを取り出して、柚羽に手渡した。


 「俺は昼飯の準備があるから行くぞ! 下降りてくる時はそれ来てから降りてくるように!」


 俺は言いたいことを伝えると、部屋の外へと出ていった。


 「むぅ……これならいけると思ったのになぁ」


 部屋から柚羽の声が聞こえたような気もするが、確かめることなく俺は階段を降りていった。

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