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38話 男のけじめと慰め(SIDE KANATO → SOUICHIRO)

 「……もうそろそろか」


 電話で富水と会う約束をした。

 待ち合わせはライトアップされた駅のコンコース

 入り口から駅の方までライトアップされているが、どうやら今日が最後らしく、たくさんの人が訪れていた。


 スマホで時間を確認すると約束の時間10分前だった。

 待ち合わせには充分過ぎる時間配分だ。

 立っているのも疲れるので大型商業施設の入り口付近にあるベンチへと腰掛けた。


 「あ、奏翔くん……!」


 ベンチに座ってスマホでニュースサイトを眺めていると声が聞こえてきた。

 駅の方から富水がこちらに手を振りながら歩いていた。

 

 「お待たせ、待ったかしら?」


 タートル式の黒いセーターにロングスカート、セーターの上には少し大きめなコートを羽織った姿は大人な感じが醸し出していた。いつも家では変なTシャツしか着ない柚羽をみてるから余計にそう思えたのかもしれない。


 「いや……俺も今さっき着いたところだ」

 「それで、どうする?」

 「……このライトアップが今日で最後だというし、コンコースの方に行ってみるか」

 「いいわね!」


 富水は和かな表情で了承してくれた。


 コンコースは駅へ向かう道と映画館やゲームセンターなど繁華街エリアにつながる道に分かれている。

 繁華街エリアの方が人も大勢いることだし、そちらへ行くことにした。


 「すごい人ね……」

 

 歩きながら富水は驚きの声を上げる。

 しばらくライトアップされている箇所を見て廻っていった。


 「奏翔くん、少し休まない? あそこのベンチも空いているし」


 富水が指を差したのは、繁華街エリアでもライトアップの光が届いていない箇所にあるベンチだった。

 周りの人がライトアップされてる箇所へ向かっているためか、そっちに行く人はほとんどいない。

 ……このあと話すことを考えたらその方がいいだろう。


 「そうだな、そっち行くか」


 ベンチに座る俺と富水。

 先ほどまでは富水が積極的に話していたのに、座った途端黙ってしまっていた。

 

 「……富水に謝らなければいけないことがあるんだ」


 俺から話を切り出す。


 「あ、謝るって……?!」

 「あの時、富水の呼び出しを無視したことだよ……」

 

 富水は何も言わなかった。

 中学三年の時、俺は富水に呼び出されたが……無視してそのまま家に帰った。

 その日は雨も降り出そうとしていて、傘を持っていなかったから早く家に着きたかった。


 それが原因で……富水は柚羽に対してあのような行動を起こしてしまう。

 どんな理由があれ、彼女が柚羽にしたことは許せるものでは無い。


 ——そして、俺も。

 彼女の思いを無碍にしたあげく、結果的に柚羽を傷つける要因を作ってしまった。

 俺の軽はずみな行動が原因にも関わらず俺は富水や総一郎に敵意を剥き出しにしてしまった。


 今になって思えば俺が一番最低だった。

 今日、それを言ったところでなかったことにできるわけではない……

 けど……やらなければいつまで経っても平行線のまま。


 「……だから、遅くなって申し訳ないが、あの時の返事を今言ってもいいか?」

 「え、えぇ……」


 富水は自身の両手を合わせながら下を向いていた。


 「……悪い、富水の思いに応えることができない」


 ゆっくりと自分の考えを彼女に伝えていった。


 「そう……」


 富水はそのまま下を向いたまま答える。


 「……俺は柚羽の傍にいたいんだ」


 友達として、同居人として……

 ずっと一緒にいて柚羽を守ってやりたい。


 「……やっぱり柚羽ちゃんには敵わないわね」


 声を震わせながら富水は話し出していく。

 俺はそれ以上何も言うことができなかった。


 しばらく沈黙の時間が続いていった。

 コンコースのライトアップは徐々に消されていき、あたりは暗くなっていく。

 スマホで時間をみると、思っていた以上に時間が経っていた。


 「そろそろ行くか……こんな時間だし家までおく——」

 「大丈夫よ、一人で帰れるから……それに」

 

 富水は顔を見上げていた。


 「気持ちの整理をしたいから……」

 「そっか……」


 富水の言葉を聞いて俺はベンチから立ち上がる。


 「……それじゃ、先に行く……気をつけて帰れよ」

 「ふふっ……奏翔くんもね」



 コンコースを出て、いつもの商店街通りを歩いていく。

 時間も遅いせいか、通りは真っ暗となっていた。

 

 「……早く帰らないとな」


 俺はそう呟き、そのまま走り出した。


 「ただいま」


 いつも通り、玄関を開けて中に入るとすぐにダイニングのドアが開く。


 「おかえり奏翔」


 ドアの奥には『ドス恋』と書かれた黒いTシャツにハーフパンツ姿の柚羽が立っていた。


 「その顔はちゃんと言ったみたいだね」


 俺の顔を見た柚羽は笑顔でそう話していた。


 「……まあな」


 ドアの奥へ行き、そのままリビングのソファへと座る。

 珍しくテレビには何も映っていなかった。


 「ずっと待ってたのか?」

 「…………うん」


 柚羽は静かに答えると俺の隣に座ると、俺の方に身を寄せてきた。

 俺は何も言わず柚羽の頭を撫でていた。


 「……前々から思ってたんだけど」

 「なんだよ?」

 「奏翔って何かあると私の頭を撫でるよね?」

 「……嫌ならやめるぞ」

 「嫌とは言ってないじゃん、むしろ奏翔に頭撫でられるの好きだからもっとやって!」


 柚羽は頭を突き上げるように仕草をする。


 「うへへ、奏翔に撫でられると気持ちよすぎて変になりそう〜、えちちな声が出始めたらいつでもいいからね?」

 「……さーてと、飯の準備でもするか」

 「誤魔化すなー! 可愛い女の子が誘ってるのにそれでも男かー! 奏翔のばかぁ!」


 今にも泣きそうな声をあげる柚羽を見て、俺は微笑ましく思ったのはここだけの話だ。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「……やっぱここだったか」


 ライトアップが撤去された駅のコンコース。

 その外れにあるベンチに香凜は一人寂しく座っていた。


 「……随分と機嫌がよさそうね、その様子だと柚羽ちゃんとうまくいったのかしら?」


 香凜は俺を睨むような目で見ていた。


 「私があげたアレ、ちゃんと使ったの? 欲望が先行したからって男だったら女の子の体のこと考えてあげなさいよ」

 「……おまえは俺のことを何だとおもっているんだ?」

 「脳と下半身が直結したケモノ」

 「……さすがの俺も傷つくぞ?」


 そう言いながら俺は香凜の横に座った。


 「……で、柚羽ちゃんはどうだったの?」

 「……何もしてねーよ」

 「何よ、せっかく私がお膳立てまでしてあげたのに……」

 「仕方ないだろ……そんな気分になれなかったんだよ」

 「……どういうこと?」

 「気持ちよさそうに寝てる和田塚さんの顔を見ても、何とも思えなかったというか……」

 「昨日の夜、1人でしすぎたんじゃないの? 例の写真アプリのお相手と」

 「……最近はご無沙汰だ!」


 まったく、何でこの女は奏翔以外の男にはこういった態度を取るんだか。

 ……それも楽しいからいいんだが。


 「だから、あの後……奏翔を呼んだんだよ、お前のアレのせいで酷い目にあったけどな」

 「……そう」


 香凜は返事をした後、しばらく何も話さなかった。


 「……さっきまで奏翔くんがここに来てたの」

 「なるほど」


 どうやらアイツは俺の言ったことを聞いてくれていたらしい。


 「……見事にフラれちゃったわ、柚羽ちゃんと一緒にいたいって」

 「そっか……」

 

 家に来た時の奏翔の様子を見ればそんな感じはしていた。


 「2年経って……あんなことまでしたのに……覚悟もしていたのに……」


 次第に香凜は静かに泣き出していた。


 「何で……こんなに…………涙がでて……くるのよ!」


 彼女の頬には大量の涙が流れ出していた。


 「総一郎くん、ちょっと……胸……かして……!」

 「え……お、おい!?」

 

 香凜は俺の胸に顔を押し当てると、大きな声を出して泣き出していった。

 辺りを見渡すが俺たち以外の姿はなかった。良かったと思うべきだろうか……。

 

 「……いいから……黙ってこう……してなさい……!」

 

 俺の服を掴む力が強くなってきた。相当辛かったんだろう。

 

 「……わかったよ、満足するまで好きにしてくれ」


 俺は香凜の背中を抑えながら空を見上げていた。


 


 「…………総一郎くん」

 「どうした?」

 「……いい加減離してくれないかしら?」


 どうやら香凜は落ち着いたようだ。

 

 「いやあ、色々と感触がよくてついつい……」

 

 香凜はため息を着いた後、俺の頬を思いっきりつねっていた。


 「いてててて!!! 爪が食い込んでる!!!!」


 俺の叫び声を聞いた香凜はニコっとほほんでいた。

 マジで悪魔かもしれないなこの女。


 「邪な考えを持つからそうなるのよ……」

 「健全な男子なんだから仕方ないだろ!」


 ってか女子に抱きつかれて邪な考えを持たない方がおかしいだろ……。


 「……さてと、何かすっきりできたしそろそろ帰ろうかしらね」


 香凜は空を見上げながら大きく腕を伸ばす。


 「もちろん、家まで送ってくれるよね?」


 すぐにこう言いながら俺の顔を見ていた。

 断る権利というか断るつもりは毛頭ないんだけど、何か手玉にとられてるようで素直になれなかった。



 「……てっきり、総一郎くんのことだから柚羽ちゃんに襲いかかってると思ったのに残念ね、純潔にさよならできた感想を聞いてみようと思ったのに」

 「そりゃ残念だったな」


 帰り道、香凜を家まで送るため、自宅とは反対方向を歩いていた。

 ちなみに胸を貸してくれたお礼だと言って香凜は俺の腕にしがみついていた。

 もちろん、柔らかい感触は堪能している。


 「でもどうして? 柚羽ちゃんのこと好きだったんでしょ?」

 「……まあな、多分中学の頃、あの状況になったらベッドに下ろし秒でダイブしてたとおもうけどな」

 「ケモノそのものね……」


 香凜は汚いものを見るような目で俺を見てため息をつく。


 「まあ、そうならなかったってことは俺も成長したってことだ! はっはっはー!」

 「……成長じゃなくてヘタレになった……ではなくて?」

 

 段々言葉がキツくなってないか?

 そろそろ本気で泣くぞ

 ってかお前のその爆乳で泣かせてくれ今すぐ……!

 

 「……何ていうか、和田塚さん以外でいいと思う人を見つけたというべきか」

 「初めて聞くわよ……いつの間にそんな子みつけたの?」


 香凜は食いつくように俺の顔を見ていた。

 こいつにじっと見られてるだけで、心臓がドクドクと音を立て始めていった。

 

 「さ、最近なんだけどな……そ、そいつと一緒にいるのが楽しいというか……もっと一緒にいたいと言った方が正解か」

 「へぇ、面白そうじゃない。ぜひ聞きたいわね。 どこの誰なの?」


 話しているうちに気がつけば香凜の家の前に着いていた。


 「せっかく盛り上がってきたのに、残念ね……続きは今度あった時にでも聞かせてもらおうかしら」


 香凜は俺の腕から離れ、家の中へと入ろうとしていく。


 「な、なあ……香凜」


 名前を呼ぶと香凜は振り向く。


 「どうしたの?」

 「……あ、あのさ」

 「総一郎くんらしくないわね……はっきり言いなさいよ」


 俺は唾を勢いよく飲み込んでいく。


 「お、俺じゃダメか……?」

 「何が?」

 「お、お前の隣にいるのは俺じゃだめかって言ってんだよ!」

 

 香凜は「何を言っているんだこいつは?」と言った不可解な顔をしていたが、徐々に俺の言った言葉の意味を理解したらしく大きく目を開けていた。


 「ま、まさか……さっき話していたいい人って…………!?」

 「……香凜、お前だよ」


 俺は俯きながら答える。


 「じょ、冗談でしょ?」

 「冗談でこんなことが言えるほど俺は経験豊かじゃねーよ!」

 「……本気で言ってるの?」

 「じゃなかったらこんなに汗かいてねーよ」


 2月の後半だと言うのに手や顔、背中が汗でびっしょりとなっていた。

 

 「そりゃさ、奏翔に比べたら顔もよくねーし! 頭もよくないし! ゲームも勝てねーけどさ! そんな俺でも奏翔に勝てるものはあると思ってるぜ!」

 「……どんなことができるのよ?」


 俺は大きく息を吸い込んでからすぐに吐き出した。

 そして……


 「俺ならいつでもお前の隣にいてやれることだ!」


 緊張のあまり、いつもよりも大きな声がでていた。


 「香凜が寂しくなったら朝でも昼でも夜、まあ、夜中は補導されるから勘弁してほしいけど出来る限り、呼ばれたらかけつけてやるぜ! それにもうすぐ中型バイクの免許もとれるから、呼ばれたらすぐにかけつける! それこそ夜の相手——」


 話を続けていたが、突如口元に何かが触れて言葉を失う。いや、出せなくなったと言った方がいいかもしれない。

 俺の唇には香凜の唇があたっていた。

 

 「う、うわ……な、なんだよいきなり!?」

 「うるさいわよ、このバカ! 家の前で突然変なこと叫びだして耳障りだったから唇で塞いでやったのよ、言っとくけどこれしかなかったんだから変な勘違いするんじゃないわよ!」


 香凜の顔はさっきよりも赤くなっていた。

 言い返そうと思っても、先ほどのことがあまりにも衝撃的すぎて声が出せなくなっていた。


 「親も心配するから帰るわ……気をつけて帰りなさいよ!」


 香凜は家の門を開けて中に入ろうとするが、立ち止まってこちらを振り向いていた。


 「……突然すぎてちゃんと聞けてなかったから家帰ったら電話して……今日は夜遅くまで起きてるから」


 それだけ告げると門を勢いよく閉めて家の中へと入っていった。


 その場で立ち尽くす俺……。

 色々ありすぎて、脳がうまく処理できていなかった。

 

 「……と、とりあえず家に帰って……風呂にでも入って落ち着こう、うん」


 俺は家に向かって歩き出した。

 走ったわけでもないのに心臓はずっとドクドクと音を立てていたのだった。

★☆★★☆★読者の皆様へ大切なおねがい☆★☆☆★☆


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