表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/103

35話 内に潜める葛藤(SIDE YUZUHA)

 枕元に置いてあったスマホの音で目が覚めた。

 

 「……ふにゃ…………」

 

 スポンという間の抜けた音だったので、LIMEのはず。

 ……でも私にLIMEを送るのは両親か奏翔ぐらいだけど

 後、考えられるのはスタンプ欲しさに登録した公式サイト。

 

 眠い目を擦りながら体を起こしてからスマホの画面を見ると、予想通りLIMEの通知が来ていた。

 タップして開き、そこに書かれていたのは……

 

 Karin.Tomizu

 『お久しぶり、柚羽ちゃん。元気だったかしら?』


 送信先は予想を遥か斜めに行く相手だった。



 「今日は随分と早いな」


 リビングに行くと奏翔がソファに座ってテレビを見ていた。

 テレビに表示されている時計を見ると、いつもより早い時間だ。

 LIMEが来なければまだまだ寝ていたに違いない。

 

 「いつも早く起きてるよ? でもライガが起きちゃダメっていうからつい」

 「つまりは二度寝してるってことか」


 正論すぎて何も言えなかった。


 「朝飯でおにぎり作ってあるから食べてくれ」

 「ありがとー! 中身は?」

 「中身選ぶのが面倒だったので、ごま塩とふりかけ」


 むしろそっちがよかった、これで梅干しとか入れられたら……

 考えただけで体が震えてきそうだった。


 

 「どうしよう……」


 奏翔の作ってくれたおにぎりを食べながらスマホの画面を見ていた。

 最初にきたLIMEのメッセージを返すと、すぐに返ってくる。

 内容は今日、どこかで会えないかと言ってきている。


 彼女とは中学卒業後のあれ以降、会ってもいなければ話してもいない。

 昔はほぼ毎日LIMEで連絡をとっていたけれど。


 「何かあったのか?」


 リビングから奏翔が心配そうな顔でこちらを見ていた。

 奏翔に相談したいところだけど、話したら放置しとけと言うだろう。

 もちろん、私のことを思って言ってくれるからなんだけど……。


 「この前の夢小説の内容の続きがでてこないの!」

 「そっすか……」


 奏翔はため息をつきながらテレビの方へと視線を戻していった。


 嘘ついてごめんね、奏翔……。

 今日の夜はたっぷり甘えてあげるから!


 Yuzuha.Wadaduka

 『お久しぶり、香凜ちゃん! いつでも平気だよ〜』


 おにぎりを食べ終えると、LIMEアプリを起動させて香凜ちゃんに返信する。

 すると、すぐにメッセージが返ってきた。


 Karin.Tomizu

 『それなら昼の1時ごろに駅前のファミレスでいいかしら?』


 Yuzuha.Wadaduka

 『うん、いいよ〜』


 私が返すと、それ以降返ってくることはなかった。

 送ったメッセージの横に既読がついたので見ていることは確かだ。


 「奏翔、後でちょっと出かけてくるねー」

 「わかった、夕飯はいつもと同じぐらいだからそれまでに帰ってこないと全部食べちゃうからな」

 「もちろん夜のデザートは柚羽ちゃんだよね!」


 奏翔は私の言ったことに呆れたと言わんばかりのため息をついていた。

 

 

 「たしかここであってるよね……」

 

 あれからすぐに着替えを済ませ、約束の時間の10分前に着くように家を出た。

 それでも少し早めに着いてしまっていた。時計を見ると待ち合わせまで15分近くあった。

 先に中に入ってようかと考えたが、ファミレスに1人で入ったことがなかったので、気が引けていた。

 大体、店に入る時は奏翔と一緒だった。


 「突然どうしたんだろ……」


 あの時の香凜ちゃんは私に対して敵意をむき出しにしていたのに……。

 もしかしたら、2年近く経ってあのことを後悔してしまったのかもしれない。

 都合良すぎると思ってしまうかもしれないけど……そうなって欲しい。


 奏翔が柿生くんともう一度遊ぶことを願うのと同様に、私も香凜ちゃんとはもう一度友達としていたいから。


 「もう来てたのね……」


 考えて事をしていると、懐かしい声が聞こえてきた。


 「香凜ちゃん……!」


 彼女の姿を目にすると私はすぐに声をかける。

 黒のタートルネックセーターにロングスカート、セータの上にはちょっと大きめなサイズのコートは少し大人びた感じに見えていた。

 そしてセーターの一部分には思わず見てしまうほどの膨らみ。う、うらやましくないし!


 「寒いから中にはいりましょ?」

 

 そう言って香凜ちゃんが先導してファミレスの中に入っていった。



 「ご注文が決まりましたら、タブレットでご注文くださいませ」


 店のスタッフに案内されたのは、窓側の4人席だった。

 お昼も過ぎているためか、店内はそこまで人は多くない。


 「柚羽ちゃんはドリンクバー頼む?」

 

 香凜ちゃんはタブレットを見ながら聞いてきた。

 久々だし、前みたいに長くなりそうだからうんと答えた。


 「わかったわ……じゃ、一緒にフライドポテトでも頼んでおこうかしら」

 「うん、ありがとう!」


 香凜ちゃんはタブレットを操作していき、注文ボタンをタップするとテーブルの隅にあった充電器の上に戻した。


 「ドリンクバー取ってくるから、荷物お願いしていい? 柚羽ちゃんはカフェオレでいいの?」

 「そうだよー、お砂糖は1つで大丈夫だから」

 「わかったわ……」


 すぐに立ち上がり、ドリンクバーコーナーへと向かっていった。


 会うまでは少し怖かったけど……前と変わらない彼女を見て少し安心していた。

 前みたいにすっと……遊ぶことができればいいな。


 「おまたせ、はいカフェオレとお砂糖」

 

 少しして小さなお盆に2つマグカップを乗せて戻ると、私の目の前にカフェオレの入ったマグカップとスティックタイプのお砂糖を置いてくれた。


 香凜ちゃんも座ると、学校での出来事や、昔の話など……色々な話で盛り上がっていた。


 「……ところで柚羽ちゃん?」

 「どうしたの?」

 「……奏翔くん、元気にしてるかしら? たしか同じ高校だったよね?」


 さっきまで楽しい会話をしていたのに、奏翔のことになった途端、この場が重苦しくなってきた。


 「そ、そうだけどクラスも違うし、高校の友達と遊ぶことが多くてあまりあってないよ」


 嘘をつく必要はあったのかと思いもあったけど……今の状況を香凜ちゃんに言うのは危険だと感じていた。

 ——もし言って……またあの時みたいなことになったら。


 「そう言えば、1月の終わりに奏翔くんに会ったわ、友達と一緒だったけど」


 多分、奏翔の機嫌が悪かった時だ。

 友達というのは虎太郎くんだろう。


 「私、奏翔くんのことが忘れらないの、あれからずっと……」

 「そ、そうなんだ……」


 声は笑っているけど、顔は真剣そのもの。


 「柚羽ちゃんはどうなの?」

 「ど、どうって?」

 「好きなんでしょ?」


 香凜ちゃんの言葉に心臓が跳ね上がるような感覚がしていた。

 そんなこと言われなくても、奏翔が好きだ。


 「……もし、柚羽ちゃんがそうじゃないというなら、私が彼を頂いてもいいよね?」


 彼女の言葉に私は言葉が出なかった。

 香凜ちゃんが奏翔のことをずっと好きだってのは知っている。

 友達だから応援したい気持ちは多大にある。


 けど……

 もし、香凜ちゃんと奏翔が付き合ったら、今までみたいに一緒にいられなってしまう。


 やだ……。

 やだやだ……。

 奏翔が私の傍からいなくなるなんてやだ……。


 ずっと奏翔の傍にいたい……

 朝から夜までずっと一緒にいたい……

 一緒にごはんたべて、おでかけしてゲームして、たまに布団に忍び込んで一緒に寝たい。

 奏翔の寝顔を見てほっぺた何度もちゅーしたい。


 それが私の幸せなんだ!

 奏翔が傍にいない生活なんて嫌だ!


 「……ダメ」

 「え?」

 「奏翔は私のだから……香凜ちゃんでもそれだけはいや……」

 

 これが私の本心。ずっと思っていたことだからそう簡単には曲げれない。

 例え、それが親友であったとしても……!

 

 私の返答に香凜ちゃんは驚いていた。


 「そう……でもね、柚羽ちゃんの意見は聞いてないから」

 「え……」


 どういうこと……と聞こうとした瞬間、目の前がグラッと歪み始めた。

 それに瞼がすごい重くて……目が……

 

 「どうやら睡眠導入剤が効いてきたようね」


 香凜ちゃんはふふっと私を見て笑っていた。

 

 「……奏翔くんを手に入れるには柚羽ちゃんの存在が邪魔なの、ごめんなさい」


 香凜ちゃんの声はまるでマイクを使ってはなしているかようにエコーしていく。


 「香凜……ちゃ……ん」


 私の目の前は真っ暗になった。




 「——もしもし、総一郎くん? 準備できたから早くきなさい」

お読みいただきありがとうございました!


「面白い」「続きが読みたい」と思った方は、

その際にこのページの下(広告の下)にある、

「☆☆☆☆☆」を押して評価をしてくださると泣いて喜びますので

ぜひページを閉じる前に評価いただけたら嬉しいです!

感想もぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押していただけると作者への応援になります!

執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ