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34話 奏翔が柚羽を守る理由

 『返してよー!』

 『へへ、返してほしければ自分で取り返してみろよ!』


 見覚えのある光景かと思ったら相当昔の出来事だった。

 多分小学生ぐらいの時だと思う。


 家の近くにあった公園で柚羽と一緒に遊んでて、俺がトイレに行っている隙に、その場にいた3人の悪ガキ共に子供用のバトミントンの道具一式をとられたんだっけか。


 『返して! かえしてよぉ……!』


 リーダー格だと思える背の高いリーダー格がラケットを上に上げていた。

 背の低い柚羽が必死にジャンプをしても届くことはなかった。


 『そろそろ返してやれば? 泣いちゃうぞ〜』

 『女はいいよなあ泣けば何事もすむんだからなあ』


 残りの二人も泣き出す柚羽を見て笑っていた。

 トイレから出たこの時の俺はすぐにこの光景が目に映り、泣いている柚羽の姿を見るとそのままの勢いで後ろからリーダー格の悪ガキを蹴っ飛ばした。

 

 『いてえええええ!!!』


 受け身を取ることもなく倒れるリーダ格。

 こいつが持っていたラケットを取ると、泣いていた柚羽に手渡した。

 

 『かなと……!』


 俺の名前を呼んでそのまま抱きつく柚羽。

 今思えば抱き癖はこの時からだったな。


 『藤野! おまえやりやがったな!』


 起き上がったリーダー格と一緒に他2人は俺を見る。

 よく見たら学校でよく柚羽をいじめていた奴らだった。


 『柚羽を泣かすやつは許さないからな……!』

 『うっわなにそれ! 女の前だからって調子にのるなよ』

 

 悪ガキの1人が俺を指差して笑っているところ、すかさず顔面を殴る。

 それが引き金となり、3体1でのケンカが始まった。



 『奏翔……血が出てるよ!』


 悪ガキ3人がいなくなると柚羽が俺のそばにやってきた。

 夏ということもあってか、俺が着ていたのが半袖のTシャツに半ズボンだったので至る所に擦り傷などが見えていた。


 『大丈夫だよ、こんなの平気だ!』


 その後、家に帰り柚羽の手で手当てしてもらうことになった。

 様子を見ていた、俺と柚羽の母親は微笑ましくみていたようだ。


 だけど、その日の夜。


 『お宅の息子さんが一方的に暴力を振ったそうじゃないですか!』


 たしかその日は週末ということもあって、柚羽の両親も一緒に藤野家で夕飯を食べていたところ、インターホンが鳴りだした。

 父親が玄関を開けると、顔や足に絆創膏を貼られた悪ガキのリーダー格と母親がやってきて、玄関先で一方的に怒鳴り散らかしていた。


 『奏翔、ちょっときてくれ』


 父親に呼ばれ、俺は玄関先に向かうと、真っ先に相手の親から睨まれた。


 『奏翔がこの子を殴ったと言っているが、本当か?』

 

 父親は俺の顔をじっと見ながら聞いてきた。

 ふとリーダー格の悪ガキに目を向けると、母親の後ろに隠れながら俺を睨みつけている。


 『……そうだよ、でもこいつらが柚羽を——』

 

 いじめてたと言おうとするが、父親が俺の顔に手を向ける。


 『奏翔、ダイニングで付箋とペン持ってきてくれないか?』


 俺は父親の言う通りにダイニングへ戻り、付箋とペンを持ってきて渡した。

 すると、付箋に父親の名前と電話番号を書き、悪ガキの母親に差し出し、こう告げた。

 

 『本人が認めていますので、怪我の治療費はこちらで支払わせていただきます、大変申し訳ございませんでした』


 そう言って父親は相手の親に向けて頭を下げていた。


 『えぇ、そうさせてもらうわよ!!! それとちゃんと教育しときなさいよ!!!』


 悪ガキの母親は付箋をひったくるように受け取るとそのまま家を出ていった。

 その直後に父親は玄関の鍵をかける。


 『何で父さんが謝らなければいけないんだよ! あいつらは柚羽をいじめてたんだ! だから!』

 

 叫ぶ俺に対して父親は俺の頭に手を置いていた。


 『お前が理由もなしに人を殴るようなことはしないことはわかってるさ』


 父親の言葉に俺は何も言えなくなっていた。


 『すごいヒステリックなオバサンだったな』


 振り向くと、柚羽の父親の洋介さんが缶ビールを持ったままこちらへとやってきた。

 その足元には柚羽の姿も……。


 『子供の喧嘩に口を挟むなんてよほど暇か過保護なんだな』


 洋介さんの言葉に父親はため息混じりに答えていた。


 『それはそうと、愛娘から話はきかせてもらったぞ奏翔。 この子を守るために殴り合ったみたいじゃないか!』

 『けど……それで父さんが』

 『んなもん気にするなって、お前は男らしく柚羽を守った。それは誇らしいことなんだから堂々としてろ、なぁ裕二!』

 『洋介の言う通りだぞ奏翔。 まあ人を殴るのはあまりよくないけどな』

 『柚羽を守るためなら構わんやっちまえ! そのためなら俺と裕二はいくらでも頭を下げてやるさ!』

 『じゃあ次来たらそっちに行くように伝えとくな』

 『オッケー、居留守しとく』


 そう言って2人は豪快に笑っていた。

 

 『奏翔!』


 洋介さんの足元にいた柚羽は俺の元にやってくると抱きついてきた。


 『ありがと……』


 突然そんなことを言われ慌てふためく俺を見た大人2人は……。


 『おいおい、我が子ながら親の前で見せつけてくれるねぇ。 裕二、未来の夫婦を祝ってもう一本開けちまおうぜ』

 『俺もそう思ってたところだ、それじゃ秘蔵の一本を——』


 この時から俺は柚羽を守ると決めていた。

 

 だって柚羽は俺の——



 

 「あ……っ」

 

 懐かしい夢をみていたと思ったら、あの時から変わったような、いや…あまり変わらない今の柚羽の姿が見える。

 ベッドの上で俺に覆い被さるようにしている。顔の位置が相当近く、少しでも動かせば触れてしまうほどの距離だ。

 

 「……何でここにいるんだよ」

 

 部屋の中や窓から見える外は真っ暗で、起こしにくる時間ではない。

 そもそも柚羽が朝、俺を起こすなんて片手で数えるぐらいしか記憶にない。


 「昼間寝過ぎちゃったせいで、寝れなくなって……欲望の赴くまま奏翔の部屋にきちゃった」


 柚羽はあざとくペロっと舌を出しながらウインクしていた。


 「……部屋に来るのはいいとして、何でこんな状況になっているんだ?」

 「奏翔の寝顔みてたら、胸がトゥンクってなったから夜這いでもしようかと。もちろん後悔などしていない」


 自信たっぷりに答える柚羽。

 先ほど夢で見ていたあの頃の柚羽はどこへいったのやら……


 「それじゃおじゃましまーす」


 柚羽は布団を捲り上げて中に入ると、そのまま俺の胸に倒れ込む。


 「やばいやばい! 私の欲望が囁いているから、今すぐクンカクンカしたりペロペロしていい?」

 

 柚羽は息を荒くしながら俺の見るのはいいが……大きく目を開けているせいか狂気じみて見えていた。

 

 「やったら叩き出すぞ……」

 「やだー! 目の前に奏翔の体があるのに何もできないなんて蛇の生殺しもいいところだー!」

 

 手と足をジタバタとさせる柚羽。やってることが子供だな。


 「今日はこれで我慢しろ……」


 俺は暴れる柚羽の体を抱きしめていく。

 というか、こうでもしないと寝れなくなってしまう。


 「うへへ〜奏翔のハグ〜……あ、でも『今日は』ってことは明日は過激なイタズラしてもいいの……って寝ちゃってる?」


 柚羽の声が聞こえたのはこれが最後で、その後頬に柔らかい感触があったのだが、気のせいだろう。

 

 そして……俺の意識は違う夢の中へと旅立っていく。


 ——柚羽は俺の大事な人だから、俺が守るんだ。

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