31話 私の友人だった人、今でも友人の貴方(SIDE YUZUHA)
「安心しろ……俺はずっとお前の友達だ」
その言葉に反応して私は目を覚ました。
部屋の中は真っ暗だった。枕元においていたスマホで時間を確認すると、朝とは言うにはほど遠い時間。
たしか、リビングのコタツに入ってゲームをしていたはずだが、どうやらいつものように寝落ちして、奏翔が運んでくれたようだ。それなら自分のじゃなくて奏翔のベッドの中がよかった。
「にしても、何であんな夢みたんだろ……」
忘れもしない中学校の卒業式……。
私にとっては人が信じられなくなった日。
卒業式が終わり、帰ろうとした時、クラスメイト全員に囲まれ一斉に有りもしない言葉をぶつけられた。
否定をすると倍以上になって返ってくる罵詈雑言。
耳を塞いでも聞こえ、次第に私は子供のように泣き出してしまった。
幼稚園や小学校の時、私は今以上に泣き虫だった。
クラスの男子にちょっと揶揄わられてすぐに泣き出してしまうほどだ。
その度に奏翔が私を助けてくれた。
中学になってからは、すぐに泣くようなことは無くなった。
少しは強くなったのかなと思っていたが……全然変わっていなかった。
「柚羽!!!!」
教室内に奏翔の声が響くとすぐに私の元に来てくれた。
私の姿を見て、奏翔は普段では見せないように、クラスメイトたちに怒りをぶつけていた。
そして、その後すぐに私は奏翔に連れられて藤野家に帰った。
「……悪い、全て俺のせいだ」
奏翔の部屋についても泣き止まない私を見て奏翔はそう告げた。
「さっき、総一朗からLIMEが来てた、あれは富水が企んだことらしい」
総一郎というのは奏翔の親友とも呼べる男子、柿生総一郎くんのことだ。
「香凜ちゃんが……!? なんで……」
「……この前、富水に呼び出されたんだけど、無視したんだ」
香凜ちゃんが奏翔に好意を持っているのは知っていた。
彼女とは中学3年になってから仲良くしてくれた友達だから応援したい気持ちはあった……。
「俺の傍にいつも柚羽がいること気に食わなかったみたいだ、他の女子もそれに共感してあの場に集まったみたいだ」
あそこで私に罵詈雑言をぶつけていたのは香凜ちゃんをはじめとした、過去に奏翔に告白をしたことのある女の子だった。
そして最後に奏翔は私に「悪かったと」告げていた。
「奏翔は悪くないよ……!」
奏翔は女子に告白を受けても素っ気なく返していた。下手をすればそのまま無視することもあった。
「……でも、ちゃんと対応してればこんなことに!」
そう言うと奏翔は拳で床を叩きつけていた。
その様子をみてるだけで涙が溢れて出してきた。
——安心しろ……俺はずっとお前の友達だからな。
私の体を強く抱きしめながら奏翔はそう告げた。
奏翔の言葉が嬉しくて私は彼の胸でずっと泣いてしまっていた。
「……やっぱり奏翔はかっこいいよ」
その言葉を思い出しながら、私は思っていることを口に出していた。
それから私の友達は奏翔だけだと決めていた。
高校に入っても友達を作ろうとは思っていない。
——私には奏翔がいればそれだけで良かったから。
学校で清楚系美少女としての扱いは私にとっては都合のいい立ち位置だった。
奏翔もそれを知っているため、学校ではよほどの理由がなければ話しかけてこない。
あの時のようなことはもう二度とごめんだ。
「奏翔、大好き……」
奏翔の顔を思い浮かべると、少しずつ体が熱っていく。
体が彼のぬくもりを欲していた。
「……奏翔……かなとぉ……」
声を押し殺しながらこの火照りを鎮めようとするが、おさまるどころか……余計に強くなっていった。
「かなとのぬくもりがほしい……」
ベッドから降りて目の前の部屋の中へと入っていく。
「奏翔の寝顔、かわいいなぁ……」
部屋のベッドでは奏翔が気持ちよさそうな寝息を立てて寝ていた。
「入るね、奏翔……」
小声で言いながら、布団を捲り上げ、中に入ると、彼の体に密着する。
さっきまで抑えられなかったものがすぅっと抜けていくが、全てが消えるわけではない。
むしろ奏翔の顔が目の前にあることで心臓が跳ね上がるようにドクドクと音を立て始めていく。
「これは私の火照りを鎮めてくれたお、お礼だから……!」
この前と同じような言い訳を口にしながら、彼の頬に唇を当てていく。
一度だけでは満足できず、何度も何度もやっていた。
本当は彼の唇にしたいけど、それは自分の思いが叶った時にすると決めていた。
温もりを感じることができて安心したのか、気がつけば私の意識は夢の中へと進んでいったのだった。
——ちなみに朝、奏翔にめちゃくちゃ怒られた。
「ふわ〜あ……おかげで寝不足になっただろ」
昼下がり、夕飯の買い出しのため、商店街のスーパーへ向かっているが、奏翔は何度もあくびをしていた。
「とか言って、柚羽ちゃんの魅力あふれる"わがままぼでー"をこっそり堪能してたんじゃないの〜?」
「……わがままなのは性格だけだろ」
そう言って奏翔は私の頭から足元まで流すように見ていく。
奏翔が何を言いたいのか手に取るようにわかってしまい、足を蹴ろうと思ったけど、それをやったら認めてしまうことになるのでグッと抑えていた。
「柚羽ちゃんはワガママなにゃんこだから許してにゃん♪」
手首を曲げた、猫のポーズとウインクを添えたとびっきりのあざといポーズで奏翔を見る。
返ってきたのは「かわいい」とか「好きだとか」「押し倒したい」などの賞賛ではなくため息だけ。
目的地であるスーパーに到着し、奏翔がカートを動かしていく。
「今日の夕飯は何にする?」
私が聞くとまだ決まっていないのか、奏翔は「うーん」と唸り始めた。
ちなみに昨日はチーズたっぷりのマカロニグラタンだった。
「最近、脂っこいものが続いたから、さっぱり系でいくか」
そう言って奏翔は鮮魚コーナーへと向かっていった。
「あ、みてみて! お刺身盛り合わせだって」
私が指さしたのは、パックに刺身が6点ほど入ったものだった。
サーモン、タコ、赤身、甘エビなど見てるだけでお腹の虫が反応しそうなほど美味しく見えた。
「サーモン入ってるからこれにするか」
「うん! タコもぷりぷりしてて美味しそう!」
決まったとこで、パックをカートのカゴの中に入れていった。
その他にも必要な食材を入れていき、会計のため、レジへと並ぶ。
夕飯が近いのか、レジに並んでいるのは主婦だと思える女性がほとんどだった。
私もいつか主婦になれるのかな。もちろん奏翔の奥様として。
「……柚羽」
「ひゃ、ひゃい!」
もうすぐ桃色の妄想に辿り着く直前で現実に戻される。
驚きのあまり、自分でも変だと思える声が出てしまっていた。
「ワサビ忘れたからとってくる、このまま並んでてくれ」
「うん、あまり待たせると私泣いちゃうからね?」
「……他人のふりしてそのまま家に帰るわ」
そう言い残して奏翔は商品エリアへと戻っていった。
「まだまだかかるよね……」
私の前には2組の女性が並んでいた。
カゴを見ると、2組とも山ができるぐらいの商品が入っていた。
「それじゃ、さっきの続きを……」
私の脳内にスーツ姿の奏翔の姿が映し出された。
玄関にて彼を迎えるエプロン姿の私。
もちろん、夕飯を食べた後は……
「……うん、続きは夜にしよう」
こんなけしからん妄想は人がたくさんいるところではするものではない。
想像しただけで体が疼いてきそうなので、大きく深呼吸をして心と精神を鎮めていく。
「あれ……もしかして和田塚さん?」
大きく息を吸い込んでいる途中で突如、声をかけられたことでむせ返りそうになっていた。
声の方へ目を向けると、そこには明るい茶色の髪をした男の人が立っていた。
見た瞬間、チャラ男だと判断した。
「あー……そっかわかんないよな、俺だよ、中学の時のクラスメイトだった——」
男の人は自分を指を差して『柿生総一郎』だと。
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