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28話 夢の旅人 其の物、言の葉を纏わせ世界を作る

 「おーい、柚羽、座ってないで手を動かせ!」

 

 2月の中旬、外の気温も暖かくなりつつある日に、俺たちは汚れてもいいようにジャージにマスクをつけた格好で大規模な大掃除を行っていた。

 本来であれば年末にやるところだが、突然の旅行もあったりとする機会がなかったため、テスト休みのうちにやることにした。新学期を迎えるにあたり、教科書やノートの整理など丁度良い機会でもある。


 「懐かしい! 小学校の卒業アルバム見つけたよ!」


 柚羽は押入れの前に座り込んで分厚いアルバムを手に取っていた。


 「……後にしろ、大掃除が終わったらいくらでも見れるだろ!」

 「こんな時に見つけるにはきっと何か理由があるからだと思うんだ!」

 「あるわけない」


 俺は柚羽からアルバムを取り上げ、開いた手にはたきを持たせる。

 

 「これで机とか、棚とかタンスとか叩いて埃をおとせ」

 「むぅ〜! 奏翔のいじわるー!」


 柚羽は不満そうに唇を尖らせながら、言われた通りにしていた。

 

 「ここが終われば今日は終わりにするから、頑張れ!」

 「頑張れって言葉だけじゃなくてそこは態度でもしめしてもらいたいな〜」


 毎回嫌な予感をしながらも、ついつい聞いてしまう。


 「そうだなぁ、後ろから抱きしめて、耳元で頑張れって囁いてくれるとか」

 「考えただけで鳥肌が立ってきたから却下」

 「たまには採用してくれてもいいじゃんー!」


 柚羽は叫びながら本棚をバンバンとはたきで叩いていった。

 その間に俺は部屋の押入れの中身を全て出してから中を掃除機でかけていく。


 「うわわわわっ!!!」


 柚羽の声が聞こえたと思ったら、バサバサと何かが落ちる音が聞こえてきた。


 「大丈夫か!?」


 掃除機を止めて慌てて行くと、尻餅をついた柚羽の姿とその周りにはノートやルーズリーフが散らばっていた。

 落ちているノートを見る限り、分厚いものではなかったため、怪我はなかったようだ。

 

 「う、うん大丈夫だよ〜」


 苦笑いをしながら俺の顔を見ていた。


 「それにしても何が落ちてきたんだ?」


 俺は目についたノートを手に取って開く。


 「『ユズハ、俺、魔王イナズバーンを倒したらおまえの元に戻ってくる! その時は……』」

 「うわああああああああああ!!!!」


 ノートに書かれていた文章を読み上げていると、柚羽が大声をあげながらノートを勢いよく取っていった。


 「いきなり大声あげるなよ、びっくりしただろ……」

 「うぅぅぅぅぅ!!!!」


 柚羽はノートを両手で抱えながら、威嚇する猫のように唸り声をあげながら俺を睨んでいた。

 何を言っても唸るだけなので、落ちてきたものを拾うとするが……


 「だめ! ここは私がやるから奏翔は押入れの方に戻って!」


 顔を赤くしながら柚羽は必死に叫んでいった。

 滅多に見ることのない彼女の形相に俺は驚いてしまい、素直に聞いてしまう。


 「自分でやるならいいけど……」


 腑に落ちないが、本人がやるというなら……と思いながら俺は押入れの方へと戻っていった。


 「うっわぁ……そういえばこんなの書いてたなあ」


 押入れの掃除がけが終わり、出した荷物を入れようとしていると、座り込んでいる柚羽の姿が目についた。


 「って律儀に挿絵まで描いてるし、変なところにこってたなあ私」


 先ほどのノートを開き、中の文章やそれなりの画力で描かれたイラストを見ていた。


 「……『ユズハ、俺、もうおまえなしではいられないんだ』」

 「ひっ!?」


 たまたま、目についた箇所を読み上げると、柚羽は引き攣った声をあげていた。

 そして壊れたロボットのようにゆっくりと振り返っていく。

 

 「……おまえ、ずっと読んでたろ。 それにしても鳥肌が立つようなセリフばっかだなこれ」


 俺がため息混じりに言うと、柚羽はさっきよりも顔を真っ赤にすると。


 「えっち! すけべ! 覗き魔!! しかも微妙にいい声でいうから体が疼いてきちゃったじゃん! 責任とって鎮めやがれください!!!」

 「怒ってるのか、お願いしているのかどっちなんだよ……」



 それから何とかして、柚羽の部屋の掃除を終えることができた。

 今日は俺の部屋と柚羽の部屋が終わったから良しとしよう。まだテスト休みもあるし、少しずつやっていければいいかと思っていた。


 「……で、あいつは一体何をしているんだか」


 柚羽は掃除が終わると、部屋から俺を追い出して、ずっと籠っていた。

 ノートの内容を読まれて拗ねているのかもしれないが、どうせ腹が減れば下に降りてくるだろ。

 ダイニングの時計は縦一直線になろうとしていた。いつもなら柚羽が腹を空かせて降りてくる頃だが……


 そんなことを考えていると、ダイニングの外からドタドタと音が聞こえてきた。

 噂をすればなんとやらだ。


 「久々の良作ができたぞー!」


 ダイニングのドアを開けるやいやな、柚羽は溢れんばかりの笑顔で中に入ってきた。


 「そりゃよかったな、ついでに階段は静かに降りて欲しいんだが……」

 「まあまあ、そんなこと言わずに読者第一号としてこれを見ちゃってよ」


 俺の小言を無視して、柚羽は持っていたスマホを俺に差し出した。

 画面には大量のテキストが表示されていた。


 「できたらここは声に出して読んでもらえると嬉しいなあ〜」


 よくわからないまま、柚羽が指差した箇所に目を向ける。


 「えっと……『ユズハのここ、こんなになってるよ』……っておい!?」


 何も考えずに読んでいったら、口にすることのできない文章が延々と綴られていた。

 ふと、顔を見上げると、柚羽は息が荒くなっていた。


 「はぁはぁ……や、ヤバい! 奏翔に言われると体が疼いちゃう! ここから先、激しくなるからそこもお願いします!」

 「誰が読むか!! 軽く見ただけでもエロ本に出てくるようなセリフだらけじゃねーか!」

 「それがいいんじゃん……!」

 「それにさっきのノートもそうだったが、相手の男、ライガだろ?」

 「うん、相手はもちろん私! 旦那であるライガと私の愛し合う2人の乱れた話! どう?面白いでしょ?」

 

 目を輝かせながら話す柚羽、俺はもう一度スマホの画面に目を向け、続きを読んでいくが……


 「面白い以前に、描写がものすごく生々しいんだけど? しかも相手がおまえだってわかったら余計読みづらい……俺はどんな感情でこれを読めばいいんだ……」


 話の中では柚羽(作中ではユズハと表記)とライガとの情交が綴られていた。

 たまたま名前が同じだけなら割り切って読むこともできるが、さっき本人が自分自身だと公言しているため、区別して読むことが不可能に。


 「『ユズハがこんな風によがってる姿を想像してたら何かムラムラしてきた、お、目の前にとびきりの美少女柚羽ちゃんがいるからこの子で解消しちゃおう!』って感じになるように読めばいいよ思うよ!」

 「できるか!!!」

 「できるできないかじゃなくてやるんだ奏翔! 私はいつでも押し倒される準備はできてるぞ!」


 柚羽は俺を包み込もうとするような両手を広げながら俺の顔を見ていた。


 ちなみに、この数時間後、自分とアニメのキャラとの恋愛を綴った小説のことを『夢小説』と呼ぶことを知った。


 ——マジでどうでもいい知識だった。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 藤野家でそんな仲睦まじいやりとりが行われる最中、とあるファミレスにて……。


 「相変わらず、画像ばかりみているのね……」

 「うるせーよ、俺が楽しければいいんだよ!」


 店内の4人がけの席にて、制服姿のツインテールの女が椅子に座っていた。

 その向かいの席には同じ校章のついた制服の男がスマホの画面を食い入るように見ていた。

 男は黒に近い茶色の髪を黒いカチューシャを使って額まで上げていた。


 「それで、今夜の1枚はきまったの?」


 女の言葉に男はむせ返っていた。


 「おまえ……! 危うく吹き出すところだったじゃねーか!」

 「総一郎くんの思っていることを代弁してくれたんだから感謝してほしいものね」

 「……そうですねーあざーっす」


 総一郎と呼ばれた男は躍動のない声で答えていた。


 「で、突然呼び出したしてどうしたんだ?」

 「手伝って欲しいことがあって呼んだのよ」


 女は答えながらテーブルの上に設置されたスタッフ呼び出しボタンを押す。


 「なんだよ、言っとくけど金は貸せないぞ、この前ゲーム買ってすっからかんだし」

 「そんなものあなたには期待していないわよ」


 女の言葉に総一郎はガックリと肩を落とす。


 「で、何を手伝って欲しいんだよ」

 「私の恋の成就よ」


 総一郎は大きく目を開けていた。


 「だ、誰だよ……相手は!?」


 女は総一郎を揶揄うように不敵な笑みを浮かべながら自身のスマホをテーブルに置いていた。


 「もちろん、昔から変わらないわよ」


 スマホの画面に映っている画像を総一郎はじっと見ていた。


 「……奏翔じゃねーか、まだ吹っ切れてなかったのかよ」


 スマホの画面と女の方を交互にみる総一郎。


 「それはお互い様じゃないかしら?」

 「どう言う意味だよ……」

 「総一郎だっていまだにおもっているのでしょ?」


 ——柚羽ちゃんのことを。


 そう告げた女、富水香凜は微笑みながら総一郎を見ていた。

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