26話 同居人を釣る方法
※訂正
26話と27話が逆になっていましたので修正いたしました。
大変失礼いたしましたm(_ _)m
「——おまえ顔が丸くなってきてるぞ」
「…………ふぇ?」
俺の言葉を聞いた柚羽は口を閉じたまま目だけを大きく開けていた。
「そ、そそそそそそ、そんなことないよね!?」
「……これを見てみろ」
俺はスマホのカメラを起動し、インカメラの設定にして柚羽に見せる。
画面には柚羽の顔が映っていた。
「ほ、ほら! 顔がふっくらしてとてもかわいいと思うんだ〜! 奏翔だって私のほっぺた触りたいと思うし!」
自身の手で両頬を掴みながら前向きなことを話していた。
変なところでポジティブなんだよな……。
「ちなみに2日ぐらい前にハーフパンツがキツくなったって叫んでたの聞こえてたからな……」
「えー!? 何でよ! たしかヘッドフォンで音楽聴きながらスマホいじってたよね!? あ、もしかしてのぞいてた?」
「……ちょうどよく曲が終わった時におまえが叫んでたんだよ」
柚羽はそのままテーブルの上に崩れ落ちて行った。
「……どうしてこんな風になっちゃたんだろうね」
もの悲しそうな目をしながら天井を見上げる柚羽。
「柚羽、テスト休み入ってから何回外にでた?」
不思議な力が働いたせいで自分はこうなってしまったと言いたそうな顔をしているが、こうなる要因は十分にあった。
「な、何回か外にでたよ! 奏翔に頼まれてコンビニに買い物も行ったし!」
柚羽は自信たっぷりに答えていた。
「そうだな、卵とチーズを頼んだはずなのにお菓子をたっぷりと買い込んできたりしてたな」
「お菓子は美味しいからしかたないよね!」
柚羽はペロっと舌を出す、可愛さを十分にアピールする……あざといポーズをしていた。
「なら別の言い方をしようか、食ったお菓子の量に対してどれだけ運動した?」
この質問に対して柚羽は目が泳いでいた。
テスト休み初日、食糧の買い出しに柚羽と一緒にスーパーに行ったのだがその時にもお菓子を大量に買い込んでいた。
ちなみに、そのお菓子は3日で食べ尽くされていた。
「う、運動ならしたよ? ライガと一緒にベッドの中で!」
「妄想話乙」
答えを言うと、柚羽はテスト休みに入ってからほとんど外に出ていない。
出たとしても先ほどの買い出しと家から5分圏内にあるコンビニに行ったぐらいで、それ以外はほとんど家に引きこもっていた。
「……また、ウイッチボクシングにお世話になるしかないか」
「やーだー! もう筋肉痛になんかなりたくなーい!」
「だったら普段から動くようにしろ!」
「わかった! 動くから今日の夜から奏翔のベッドで寝るね!」
柚羽は名案だと言わんばかりに俺の目をじっと見ていた。
それに対し、俺は右手の指を弾く仕草を見せつけると、柚羽は額を抑えながら立ち上がり……
「運動しろっていうなら、奏翔のこと嫌いになるから! べーっだ!!!」
子供のように勢いよく舌をだすと、すぐにダイニングから出て行ってしまった。
「……言いすぎたか」
かといってだ……このまま何も言わなければ取り返しがつかなくなりそうだ。
「しょうがない、明日これを実行してみるか」
そう言って視線をスマホの画面に移す。
画面には『もうすぐ春到来!』と大きく見出しがついたWEBページが表示されていた。
次の日、俺はいつもよりも早く起きると、柚羽の部屋の前に立っていた。
「おーい柚羽ー起きろー!」
もちろん反応はなし。
さすがに言いすぎたようであれから俺の前に姿をみせることはなかった。
柚羽は昔から運動が嫌いだった。
小学校の時はかけっこで確実にビリになったり、みんなが軽くやっていた鉄棒の逆上がりができずによく、クラスメイトから笑われていた。
それ以来、体育の授業になると顔色が悪くなっていったのだった。
このまま運動をさせないわけにはいかない……。
だから俺は色々な衝動を抑えながらこう叫ぶことにした
「柚羽! で、デートしようぜ!」
腹の底から声を引っ張り出した最大限の声で叫んだ。
——が、それでも反応はなかった。
「……これは長丁場になるかな」
昨日のことを後悔しながら、これからの対策を考えつつ階段を降りようとするとガチャっと開く音が聞こえた。
振り向くと、ドアの前には白いケモ耳風のフードがついたパジャマ一式姿の柚羽が立っていた。
「行く! デートする! 早く行きたい!」
柚羽はキラキラと目を輝かせながら俺に抱きつく。
その姿を見て俺は罪悪感に苛まれるような気分になっていた。
「それでどこに行くの? もしかして、朝からLEOガッツリやっちゃう?」
「……それデートでも何でもないだろ」
さっきの一言で昨日の機嫌の悪さはどこかへ吹っ飛んだようだ。
俺はホッと一息をつきながらスマホの画面を柚羽に見せる。
「何これ? 『もうすぐ春到来! 2人で身も心も綺麗に! ハイキング特集』……」
最後まで読み上げた柚羽はムスッとした顔になっていた。
「って、ここって中学のマラソン大会で走ったところじゃん、絶対に行きたくないし! そもそも歩きたくなーいー!」
画面に映っているのはここから電車で30分ほど乗った場所にある大きな公園だ。
急な傾斜もなく、歩きながら四季折々の風景や花を見ながら歩いていけることもあり、初心者向けのハイキングコースともなっている。
そのためか、雑誌などでテレビで紹介されるもしばしば。
定期契約している雑誌アプリで特集が組まれていたのをたまたま見つけていた。
ちなみに、柚羽の言う通り、中学の時にここでマラソン大会が行われたていた。
柚羽は堂々の最下位でみんなに笑われた経緯もあり、一種のトラウマの場所となっていた。
「むぅ……せっかく奏翔とデートできると思ったのにー!」
こう言われるのは想定内。俺はスマホの画面をスライドしていく。
「これを見てもそんなこと言えるか?」
画面のスライドを止めると、そこに映っているのは。
『甘味処』と書かれたページ。
「お、美味しそう……!」
さらにスライドしていくと、パフェであったり、きなこ餅であったり和と洋のデザートの画像が載っていた。
どうやら公園の一区画にこの甘味処ができたことと併せて特集が組まれたようだ。
「だろ? 歩かなきゃいけないのは確かだが……頑張って歩いた先にはこれが待ってるぞ」
俺の話に柚羽はゴクリと音を立てて何かを飲み込んでいた。
「まあ、おまえが行きたくないというなら俺は別に——」
話の途中で柚羽は両手で俺の手を握っていた。
「行く!」
再び目をキラキラと輝かせながら柚羽はそう答えた。
「それじゃ行くか、着替える場所がないみたいだからジャージで行くぞ」
「はーい!」
結局デザートで釣ることになり、本末転倒な気もするがこれで柚羽が少しでも運動してくれればと願いながら俺たちは部屋へと戻り、準備をしていった。
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