23話 テスト勉強 IN コタツ 準備編
「奏翔! あれみて!」
平日のとある夕方、お米がないことに気づき、慌てて商店街のスーパーに行くことなった。
だが、その途中で柚羽が読んでいるマンガが今日発売日だったことを思い出し、先にショッピングモール内にある本屋へと向かった。会計を済ませて、帰ろうとすると柚羽が目の前にある店へと指を差していた。
「コタツ……?」
柚羽が指さしていたのはお値段がすごいとCMで謳っている家具・インテリアの店だった。
目立つように展示されていたのは、和室をイメージしたであろう空間に置かれたコタツ一式だった。
「そういえば、来週から気温がグッと下がるんだって、たしかうちにもコタツあるし久々にだそうよ!」
「ダメだ……」
「えー、なんでよ! いいじゃん! コタツがあれば幸せになること間違いなしだよ!」
「……去年コタツ出してどうなったか忘れたとは言わせないぞ」
「……むぅ」
去年の今頃も柚羽がどうしてもコタツを出したいと駄々をこねたので、仕方なく出してリビングに設置した。
だが、新しい家を見つけたヤドカリのようにコタツの中に入るやいなや、柚羽はそこから出てこなくなった。
我が家には大きなテレビが1つしかないので、撮り溜めたアニメの消化やウイッチを大画面に映すためのステーションがリビングにしかないので、ゲームをするのも構わない。
「……絶対に寝ないって自信あるか?」
「むり……」
柚羽は下を向いたまま、掠れそうな声で答えていた。
これが問題なのである。
コタツの中は暖かいため気がつけば眠気に負けてしまうこともある。
大体の人間はうとうとした時点で自分の布団やベッドなどの寝床に向かうだろう。
だが、コイツは睡魔の誘惑に争わずそのままコタツの中で寝てしまう。
声をかけても起きようとしないので、抱えて部屋まで運ぶこと毎日。
体力的に限界が来た日に放置していたら、次の日見事に風邪をひくという始末。
そんな流れがあり、コタツは押入れの奥深くで静かに眠ることとなった。
「そんなのたった一度じゃん! 私の辞書には同じ過ちは二度としないっていうのが——」
「ヨウさんに聞いたら、コタツを出すたびに同じこと繰り返してると言ってたぞ……」
「お父さんのばかぁぁぁぁ!」
柚羽の叫びを聞きながら俺は踵を返し、帰り道へと歩いていく。
柚羽もすぐに俺の横を歩いていくが……
「今年は絶対に寝ないから、コタツ出してよー!」
おもちゃをねだる子供のようにずっと同じことを懇願していた。
「リビングにはエアコンあるし、コタツは必要ないだろ?」
「ほら、来週からテストあるじゃん! コタツ出して一緒に勉強することだってできるよ?」
「……一緒に勉強する必要あるか?」
柚羽は終始こんな感じだが、学校では清楚系美少女であると同時にテストでは毎回1位を取り続けるほどの成績優秀者だ。
毎回、ギリギリのところで赤点を免れている俺とは雲泥の差である。
「だって、奏翔が赤点取ったらテスト休み、一緒にLEOできないじゃん!」
理由がものすごい打算的だった。
嘘でもいいからそこは別の理由を挙げて欲しかった。
「それに奏翔は家族も同然なんだし、家族のために協力するのは当たり前じゃん! 奏翔のためならじゃんじゃん胸を貸すよ! そりゃ前からでも後ろからでもガシッと!」
今のが本当に成績優秀者の発言なんだろうかと疑ってしまうほどの言葉だった。
「それに、コタツの中って特に足が2人だけの空間でしょ? 2人きりになった足が私の奏翔の熱烈な悦楽の雰囲気に飲まれて、欲望のままに足でお互いの体を弄り——」
「おーい、早くしないとスーパー閉まるから急ぐぞ」
「うわーん!! 無視しないで! おいていかないでー!!」
次の日の放課後。
「なんか、和田塚さんものすごい勢いで教室を出て行ったぞ」
クラスメイトたちが話しているのが聞こえて、席を見ると先ほどまであった柚羽の姿が無くなっていた。
朝、何も言ってなかったがもしかしたら、思い出して急いで帰ったのかもしれない。
今日は帰りが遅くなっても大丈夫そうだな。
「彼女のことだから、お稽古とかあるんじゃないか?」
「華道とか茶道とか、タンク道もありえそう」
「おまえ、最後のはアニメの話だろ、リアルであったら応援するわ」
柚羽が華道に茶道ね……。
絶対に柚羽には無理だと思うのは学校中を探しても俺だけかもしれない。
ちなみに最後の話の元ネタになったアニメには放映当時、プラモを買って俺に作らせるほどハマっていた。
「和田塚さんがタンク道ってそんな無骨で油臭いこと似合うわけないだろ、まったくニワカがよぉ!」
毎度の如く前の席に座っていた虎太郎がクラスメイトに向けて悪態をついていた。
俺からすればお前がニワカだと言いだしてしまいそうになっていた。
虎太郎と一緒にイメージキャラが怖いと揶揄されることでお馴染みのファーストフード店で過ごし、火が沈む頃に帰宅した。
玄関を開けて中に入ると、柚羽がドタドタと音を立てて、ダイニングから出てきた。
最近までやっていたダイエットの際に着ていた緑のジャージ。インナーには『ドヤァ』と書かれたTシャツ姿で。
「ジャージなんかに着替えてどうしたんだ、またダイエットでも——」
「——おかえり奏翔!ちょうどよかったよ、早くこっちにきて!」
柚羽は俺の腕を掴むと足早にダイニングへと向かっていく。
「みてみて! 私1人でもコタツの組み立てができたよ!」
自信たっぷりの表情で柚羽はリビングに置かれたコタツ一式を俺に見せていた。
「……まさか、放課後すぐにいなくなったのって」
「うん、このコタツを用意するためだよ!」
屈託のない笑顔で答える柚羽。それをみた俺は沸々と湧き出てくる怒りをため息に変えていった。
「それじゃ、ご飯食べてお風呂入ったらテスト勉強しようね!」
今年もまた、夜遅くにコイツを抱き抱えて部屋に運ぶ作業が発生するのかと思うだけでテスト勉強する気がなくなっていった。
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