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19話 湯けむり、その中で2人はひっそりと……

 「悪い、疲れてたのかな? よく聞こえなかったからもう一度言ってくれないか?」

 

 夕飯の献立を考えながら聞いてたから、聞き間違えたのかもしれない。

 なので、もう一度何を言ったのか聞いてみた。


 「奏翔に私の体を洗う権利をあげようと言ったんだよ」

 「あ、結構です」


 言葉を変えてはいるが、内容は全く変わっていなかった。


 「腕上がらないし! 指に力が入らないからうまく洗えないの!」

 「……日頃から運動しないからそうなるんだ!」

 

 そういえば柚羽は普段から運動をしていなかった。

 学校でも今のキャラをいいことに体育の授業を休んでいるし、家では怠惰な生活を送っている。


 「薬局行って湿布薬買ってくるから、今日は気合いで体洗ってくれ。 明日になれば多少は楽になると思うし」

 「やだやだやだー! 奏翔に洗ってもらいたいー!」


 ソファの上で両手両足をバタつかせていた。

 それだけ動かせれば大丈夫だろ……。


 「奏翔が洗ってくれなきゃお風呂入らない……!」

 「別に柚羽がいいなら、俺は構わないけどな」

 「あ、そういうこと言うんだ〜」


 柚羽はムッとした顔で俺を見ていた。


 「それじゃ今日、奏翔が寝た後にこっそり布団にもぐり込んじゃうからね、汗ビッショリかいてるからせっかくお風呂で洗った体に汗臭い匂いとかついちゃうけど文句言わないでよね!」

 「……なんで俺が被害を受けなきゃなんないんだ」


 冗談かと思ったりもしたがコイツの場合、俺に対しては100%に近い確率でやるに決まっている。

 俺と柚羽の部屋には鍵がかかるようになっているが、何かあった時ようにお互いの部屋の鍵を特定の場所にしまっている。

 

 ——つまりは、部屋の鍵をかけたとしても無意味である。

 

 柚羽の顔を見る限り、相当な汗をかいているのは顔のテカリ具合を見て限りでは確かだ。

 と、言うことは体も同じぐらいかなりの汗をかいているだろう。

 そんな状態で布団に入られたとなったら……考えただけで体が震えてくる。

 

 明日が休みなら起きたらすぐ風呂に入れば済む話なのに……。

 

 「さぁ、どうする奏翔くん〜? 私はどちらでも大丈夫なんだけどねえ〜! むしろ汗まみれの美少女が布団の中にいるってシチュエーションってえちえちじゃない? っていうか考えただけで体が疼いてきそう……」

 

 最後に柚羽は「ひゃひゃっひゃ!」と、ファンクラブの連中が聞いたら卒倒しそうな声で笑っていた。

 どうやらこの場に清楚系美少女はいないようだ。


 「……わかったよ、その代わり洗うのは髪の毛だけだ!」


 しばらく考えた結果、コイツの提案を受け入れることにした。

 まるで悪魔と契約してしまった人間になってしまった気分だ。


 「えー! 体も洗っていいんだよ!? いやむしろ洗ってくれ!」

 「無理に決まってるだろ! ってか髪の毛は指を使うから仕方ないとして、体の方はボディータオルで擦るだけでいいからそれぐらいはできるだろ!」

 

 俺の言葉に柚羽は口を尖らせていたが、正論だったためかそれ以降は何も言わなかった。


 「あーあ……奏翔、せっかくのチャンスを無駄にしちゃったねえ〜」


 そう呟きながらゆっくりと立ち上がると、ダイニングを出ていく柚羽。


 「あ、ちなみに今なら私の脱衣シーンが無料で見れちゃうよ? もちろん——」

 「いいから早く行け」


 そう言うと柚羽は俺に向けて舌を出すと、そのまま洗面所に向かっていった。


 「……いったいどこで選択肢間違えてこうなったんだ」


 柚羽の姿が見えなくなると俺は両手で頭を抱え込んでいった。

 


 「かなとー! いつでもいいよー!」


 ダイニングの外から柚羽の叫ぶ声が聞こえてきた。

 大きく深呼吸をしてから覚悟を決め、洗面所へと向かっていく。


 風呂場のガラス戸には柚羽の姿が映し出されていた。

 ちなみにすりガラスなのでぼやけているため中は見えない。

 

 「それじゃ入るぞ、バスタオルはちゃんとつけてるよな?」

 「つけたくないけどつけてるよ!」

 

 再度深呼吸をしてドアを開けると、柚羽がバスチェアに座っていた。

 約束通り、体にはバスタオルが巻かれている。

 ちなみに俺は濡れてもいいようにTシャツと夏用のハーフパンツ姿になっている。


 「別に奏翔とは一緒にお風呂入ったことあるんだし、今更だと思うんだけどなあ……」

 「一体いつの話をしているんだよ、それとこちらを向くなよ」

 「むぅ〜」

 「それじゃシャワーかけていくぞ」

 「うん、優しくしてね……?」


 なんでそこで変な声を出すんだコイツは……。


 シャワーの水が温かくなったのを確認して彼女の髪の毛全体にかけていく。


 「熱くないか?」

 「だいじょーぶー!」


 髪の毛全体を濡らしてからシャワーを止めて、シャンプーを髪の毛にかけていくとシャンプーブラシを使って洗っていく。


 「奏翔、考え直すなら今のうちだよ?」

 「……何がだ?」

 「私の体を洗うこと」

 「そこまでして洗ってほしいのか……?」

 「私は奏翔のためを思って言っているんだよ? もしかしたら、柚羽ちゃんの”ないすばでー”を拝める且つ触れる機会が最後になるかもしれないじゃん?」

 

 髪の毛を洗うことに集中しているため、柚羽の話をため息で返す。


 「それに、手が滑って変なところに触れたとしても、こちらがお願いしてるわけだから、文句を言うつもりはないよ? いやむしろ喜んで受け入れちゃう! っというかむしろやってくれ!」


 1人で熱弁する柚羽。ってか最後に願望が混ざっていたのは気のせいだろうか。


 ツッコミをしていくのも疲れてきたので、無言のままシャワーのお湯を髪の毛にかけていく。

 

 「わぷっ! もうかけるなら一言いってからにしてよー!」

 「すみませんね、こちら不慣れでして」

 「慣れてるのもいいけど、不慣れでぎこちないのも良いって聞くよ?」

 「……悪い、言ってる意味がわからないんだが」


 そう言いながら次にコンディショナーを髪の毛全体につけていく。


 「そうだ、筋肉痛が治ったら今度は私が奏翔の体を洗ってあげるよ!」

 「結構だ」


 返事と同時にシャワーを髪の毛にかけていった。


 「わぷぷ! 無言でかけるなー!」


 柚羽は両手をジタバタとしていた。

 コンディショナーがなくなったのを確認するとシャワーを止める。


 「とりあえず、髪の毛は洗ったからあとは自分でやってくれ」

 「えー! 少しだけ! 少しだけでいいから!」


 柚羽の戯言を耳を傾けないようにして俺は風呂場から出ていった。


 「まったく……」


 バスタオルで濡れた箇所を拭きながらため息が漏れていく。


 「俺だって一応男なんだぞ……少しは警戒心もってくれよ」


 そして最後にもう一度ため息が漏れていった。

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