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18話 理想(イメージ)と現実(リアル)

 「なぁ、奏翔……新学期っていいよな」

 「突然どうした? 頭でもぶつけたのか?」

 「だってさ、学校に来れば和田塚さんの姿を拝むことができるんだぜ?」


 冬休みも終わり、今日から新学期が始まった。

 新学期といっても1月の後半にテストがあり、それが終わればすぐテスト休みになる。

 赤点がなければの話だが……。


 で、朝から目の前の席に座った虎太郎は世迷言を呟いていた。

 ちなみに本当の席主は他のクラスメイト達と話している。


 「まったくさ、いろんな意味で寂しい冬休みだったぜ! 親戚が来てもおっさんとおばちゃんばかりでむさ苦しさ満載だったしよ」

 「ファンクラブ限定のフォトグラフがあるんじゃなかったのか?」

 「もちろん、毎日最低1回は見ていたぜ、この写真にはどれだけ癒やされたか!」


 虎太郎は自分のスマホの画面を俺に見せていた。

 そこには教室で本を見ている写真が映し出されている。


 「この写真、何度見てもたまんねーよな! 本を見て微笑んでいるなんて最高だよな!」


 再度虎太郎のスマホの画面を見る。

 たしかに黒いブックカバーをかけた本を読んでいるが微笑んでいるとうよりもニヤけていると言った方が正しいかもしれない。

 撮影日を見ると、前に買ったライトノベルの購入した日の後になっていた。

 際どいシーンもしくはアニメで推しの声優が声を当てているキャラのセリフを脳内で再生していたのかもしれない。


 みてる本人が微笑んでいるというのなら、俺からはなにも言うまい。

 嘘も方便という言葉もあるぐらいだしな。


 「写真もいいけど、やっぱ生の和田塚さんがたまんねーな!」

 「やってることと言ってることが変態としか言いようがないな……」

 「あれ……よーく見てみると、なんか和田塚さん少しふっくらしてないか?」


 虎太郎の言葉に何故か俺がドキッとしてしまう。


 「しょ、正月太りでもしたんじゃないか?」


 現に冬休みの怠惰な生活を送った結果、本人の口から太ったことは聞いたが、結構遠くから見てそこまでわかってしまう虎太郎に正直驚いていた。

 

 「いやでも……ふっくらした和田塚さんも健康的でいいかもしれないな」


 虎太郎はうっとりとした目で柚羽のことを見ていた。

 

 「……よかったな、がっがりされなくて」


 遠くを見つめる虎太郎の耳に俺の呟きが入ることはなかった。


 

 虎太郎の話を聞いているうちにチャイムが鳴り、すぐに担任が教室の中に入ってきた。

 新年の挨拶と冬休みにあったことを軽く話していた。


 「この後、全校集会があるからすぐに移動するように! 校長の話が終われば今日は帰れるから辛くても我慢するんだぞ! 先生も我慢するからな!」


 たしかに校長の話は長いが、そう思っているのは生徒だけではなく教師にも思われているのかと教室にいたほぼ全員が感じていた。

 移動の際に柚羽の席の前を通ると、柚羽はフルフルと震えながら席を立ち上がっていた。

 声をかけようかと思ったが、虎太郎がやってきたので、そのまま素通りして行く。


 全校集会は体育館で行われ、俺たちが中に入った時にはかなりの数の生徒で埋め尽くされ、話している生徒が多いのか体育館の中は騒がしかった。

 クラスごとに位置が指定され、クラスごとにパイプ椅子が置かれていたため、空いている椅子に腰掛けた。

 

 「今日の校長の話、何時間かかるんだ?」

 「……さあな、下手したら教師達の会議が始まるギリギリまでやるんじゃないか?」

 「それだけは勘弁してほしいな」


 俺たちの学校の校長は長話が好きで、全校集会の時は最低でも1時間は話すことで有名だ。

 とにかく、話の切り替えや脱線が頻繁に行われる。

 ちなみに夏休み後の全校集会では会議ギリギリまで話し続け、終いには副校長にマイクを取り上げられていた。


 「それを見越してスマホ用のモバイルバッテリーを持ってきたけどな」

 「奇遇だな、俺もだぜ」


 虎太郎は自信たっぷりな顔でブレザーの内ポケットから長細いモバイルバッテリーを取り出していた。



 「和田塚さん、大丈夫?」


 後ろから柚羽を呼ぶ声が聞こえて、俺と虎太郎はそちらへと視線を向けていた。

 そこには足を震わせながら、椅子に座ろうとしている柚羽の姿があった。

 声をかけたのは横に立っている年配女性教師だった。


 「だ、大丈夫です……」


 柚羽は今にも消えそうな声で答えながらパイプ椅子に腰掛けていた。


 「和田塚さん、調子悪いのか? 教室出る時も体震えてたけど」


 心配そうに彼女を見つめる虎太郎。

 だが、その横で唯一理由を知っている俺は1人ため息をついていた。


 「……いきなり運動すればそうなるよな」


 滅多に運動しないのに急に激しい運動をしたために起こった症状。

 俗にいう筋肉痛だ。



 「もう校長の話長すぎ! せっかく早く帰れる日なのにこんな時間じゃん、髪の毛爆ぜてしまえ!」


 全校集会が終わるとすぐに下校となり、家に帰ると既に柚羽は帰宅し、着替えまで済ませていた。

 ちなみに彼女が着ているTシャツには『リア充爆発しろ!』と書かれていた。


 柚羽の言う通り、校長の話は2時間以上続き、3時間を超える直前、副校長にマイクを取られて終わりを迎えた。

 できるならもっと早めに取り上げて欲しかった。

 

 そんなこともあり家に帰ってきたのは正午を過ぎていた。

 

 「それよりも、筋肉痛平気なのか? 椅子に座るのも苦戦してたろ」

 「うん、痛いよ……あ、でも初めての時とかに比べたら全然平気かな?」

 「……くだらないこと言えるなら心配しなくても平気だな」

 

 ちなみにコイツはいまだに初めてだ。

 もちろん俺もだが……。

 

 あれからも柚羽はウイッチボクササイズを続けていた。

 本人曰く、ダイエットのためだと主張しているが、単に推しの声を聞きたいからだ。


 「お昼食べたらやるから、リビング使わせてもらうね」

 「座れないほど、足が震えてるなら無理してやらなくてもいいんじゃないか?」

 「『エクササイズは1日でも怠るべからず!』ってトレーナーが言ってたよ!」

 

 似たようなことを過去に言ったが、まったく聞く気もしなかったのに、声が違うだけでこうも態度が変わるのか。


 「そういえば、虎太郎が『ふっくらしてる和田塚さんもいい』って言ってたぞ」

 「それって遠回しに太ったって言ってるようなものなんだよ!」

 「そうか……」


 たまには褒めようと思ったが、反対に怒られてしまった。

 中途半端な気休めの言葉をかけようと思った俺が愚かだったようだ。


 昼食を食べ終わった柚羽はリビングに向かって、ウイッチの電源を入れてエクササイズを開始していった。

 邪魔になりそうだったので、俺は食器を洗い終えてから自分の部屋へと向かって行った。



 「さてと、そろそろ夕飯の準備をするけど何か食べたいものあるか?」


 あれから部屋に戻り、適当に過ごしているうちに夕方近くになっていた。

 夕飯の準備を行うために、ダイニングに行くとソファに腰掛けている柚羽に声をかけたが反応がなかった。

 

 「寝てるのか?」


 リビングに行き、柚羽をみると……


 「……大丈夫か?」


 柚羽は魂がぬけたかのようにグッタリとしていた。


 「奏翔、私頑張ったよ……褒めて〜」

 「あー……エライエライ」


 動き過ぎてボサボサになった髪を撫でていくと、柚羽は「うへへ」とニヤけていた。


 「頑張ったご褒美として、1個お願いがあるんだけど〜」

 「……なんだよ?」


 どうせ、夕飯はハンバーグにしてくれとか言うつもりなのだろうか……


 「腕上がらないから、お風呂で髪の毛と体洗って?」


 満面な笑顔で話す柚羽に対して俺は——


 「は?」


 と間抜けな返答しかできなかった。

次回は……お風呂会!?

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