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17話 限界を超えたその先に……

 「奏翔、ピンチだよ!」

 「……わかったから階段は静かに降りろ」


 突然上からドタドタと音がしたから、どこかが崩れたのかと心配していた。


 「で、何がピンチなんだ?」

 「私の体重!」


 柚羽はそう告げた直後、『ぴえん』と丸文字で書かれたTシャツを捲り上げ、お腹を露出させる。

 もう片方の手で、露出させた部分を摘んでいた。今にもぷにゅと音がしそうな感じだ。

 

 「……最近思うんだが、恥ずかしさというものはないのか?」

 「奏翔には何回も見られてるから……あ、でも一番大切なところは見せてはないか……でも小さい時、一緒にお風呂入ってたし、って言う意味では私の生まれたままの姿は奏翔にはみられてるから問題なし!」

 

 突如一人でぶつぶつとしゃべりだす柚羽。

 これ以上耳に入るだけでも疲れが出てきそうなので右手の中指をはじく動作を見せて黙らせる。


 「どうしよこれ……」


 柚羽は何度もお腹の弛んだ肉を摘んでいた。

 

 「前は全然摘めなかったのに! 何でこのお肉が上にあれば、奏翔が大喜びするのに!」


 どう言う理由で俺が喜ぶんだ……。

 と、言いたくなるのをグッと堪える。


 「……柚羽」

 「どうしたの? もしかして傷心中の私を慰めてくれるの? わかった、今すぐ奏翔の部屋にいこ?」

 

 俺は頭を抱え込んでいた。

 

 「おまえ、冬休み入ってからどんな風に過ごしてたか思い出せ」

 「冬休み入ってから……」


 そう呟いた柚羽は腕を組んで首を傾げていた。


 俺の記憶の限り……冬休みに入り、新年を迎えてから数日経った今日まで柚羽はほとんど家に引きこもっていた。

 引きこもるだけならまだいい、クリスマスの買い物の時に買い込んだお菓子類は8割以上柚羽が食べている。


 また、朝昼晩の食事もかなりの量を食べている。

 こちらも食事バランスを考えて調理をしているのだが、1番の問題はというと……。


 「運動不足だな」

 

 はっきり言えばそれに尽きる。

 

 「明日から当分、お菓子は禁止な」

 「えー!?」


 ここ最近の柚羽の声で一番大きな声が出ていた。


 「そ、そんな! 糖分は脳を動かすのに大事なものなんだよ!」

 「……おまえ、ここ最近ほぼまともに脳みそ使ってないだろ」

 

 ほぼ毎日LEOにどっぷり浸かり、しかも最近は戦い方に慣れてきたのか、無駄な動きがなくなってきていた。

 ほぼ、機械のように決まった動作をするだけになっている。


 「奏翔には黙ってたけど、1日3食お菓子を食べないといけないってお父さんに言われているんだよ!」

 「……ちなみにヨウさんからは柚羽のお菓子管理任せたと言われてるぞ」

 「お父さんのバカー! 管理させる相手を間違えてるよー!」

 「他に頼める相手いないだろ……」


 こうなった柚羽は駄々をこね続けるだけなので、止めるしかない。

 一度両手をパチンと叩き、柚羽のマシンガントークをとめさせる。さながら猫騙しをされた猫のようだ。


 「もうすぐ新学期も始まるし、生活習慣を元に戻すために、柚羽には運動をしてもらう!」

 「はい先生! 運動って何をすればいんんですか!」

 「そこまで考えてないな……」

 「それならまだ新年入ってやってないことがあるから、私と一緒にそれを一緒にするのはどう?」

 「……新年入ってやってないことって何かあったか?」


 初日の出も拝んだ、初詣も行ったし……。

 スーパーで買ったものだが、おせち料理も食べ尽くした。

 他には何もないと思うが……。


 「まだ2人だけのアレをしてないよ?」

 「アレってなんだ?」

 「奏翔の大好きなひめは——」

 「はいはい、この話はこれまでだ! 俺は部屋に行く」

 

 コイツの話を真面目に聞こうと思った俺が愚かだった。


 

 「柚羽、お前にちょうどいいゲームがあったぞ」


 次の日の朝、リビングでアニメ鑑賞をしている柚羽に持ってきたものを見せる。


 「あれこのゲームって……」

 「『ウイッチボクササイズ』だ」


 前に柚羽が面白そうと言って買ってきたものだが、あまりのキツさに3日もしないうちにプレイしなくなったゲームだ。


 「どうせお前のことだから、外で運動しろと言ってもやらないだろ」

 「うぐ……否定できないのが悔しい」

 「それに今ならお前にとっても嬉しい要素が追加されているぞ」


 そう言ってスマホの画面を柚羽に見せる。

 画面には『ウイッチボクササイズ』のサイトにあるダウンロードコンテンツの内容が表示されている。


 「うそ……! 中園壮一ボイスのトレーナーが追加されたってマ!?」


 柚羽は食い入るように画面を見ていた。

 ちなみに中園壮一というのは柚羽が長年推している男性声優で、代表作の1つに『究極勇者ライガ』のライガがある。

 それもあってか、柚羽の中で推しの声優となっていた。


 「推しの声を聞きながら運動できるなら、私にとっては一石二鳥! やる気がでてきた!」


 勢いよく自分のウイッチ本体に『ウイッチボクササイズ』のソフトを入れて起動をさせた。

 暫く続けていくと……


 『よーっし! エクササイズを開始していくぞ』

 「は、はぁ〜い!!」


 トレーナーを推しの声のキャラに変更してエクササイズを開始していく。


 『ストレート!』

 「はいっ!」

 『ジャブ! ストレート!』

 「とぉ! はぁ!」

 『まだまだこんなものじゃ終われないぜ、わかってるよな?!』

 「は、はひ! まだまだがんばりまひゅー!」


 楽しそうにゲームを続けている柚羽ではあるが……


 『がんばったな、一旦エクササイズはこれで終了だ! ちゃんと水分摂るんだぞ』

 「は〜い! ふへへ……推しの声たまんねぇぜ、ふへへへへ」


 激しいエクササイズが終了すると柚羽はフラフラになりながらもソファに腰掛けると、首を落とし体も前のめりになっていた。例えるなら、真っ白に燃え尽きたボクサーのようだった。


 「……大丈夫か?」


 水分補給用の麦茶を受け取った柚羽は勢いよく飲み干していく。


 「奏翔、これやばいよ〜! 推しの声で頑張れとかおまえならできるなんて言われたら、気持ちよくなっちゃうよ〜!」


 柚羽は手で顔をパタパタと仰ぐ。

 

 「わかったから、汗ふこうな……」

 

 タオルを持ってきて、渡そうとすると柚羽はニヤニヤとした顔で俺を見る。

 

 「今動けないから奏翔がふいてー」

 「……しょうがないな」

 

 そう答えてからタオルで柚羽の顔を乱暴に拭いていく。

 

 「うわーん! 奏翔が乱暴してきたぁぁぁぁぁ!」

 「誤解を招くような言い方するな」

 

 ちなみにこの後も柚羽は推しの声に応援されながら体力の限界ギリギリまでエクササイズを続けて行ったのだった。

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