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15話 願い、悔い、2人の秘め事

 「ごちそうさまでした」


 旅館で夕飯を堪能した俺たちは揃って手を合わせて食後の挨拶を告げる。


 「魚もお肉も美味しかったけど、やっぱり一番は蕎麦かな」

 「たしかにな、もっと食べたかったな」

 「さっき、仲居さんに聞いたら、さっきのお土産コーナーで買えるって!」

 「それじゃ明日買っていくか」

 「うん!」


 食事が美味しかったのもあるが、一番は自分が何もしなくていいという事実に喜びを感じざるをえない。

 思った直後に主婦みたいなことを言っていることに気づき、ため息が出ていた。


 「そろそろ食べ終わったって連絡しちゃっていいよね?」

 「頼んだ」

 「はーい!」


 美味しい食事を堪能できたのか、柚羽は上機嫌のようだ。

 内線電話でロビーに話す声量がいつもより大きくなっている気がする。


 「少ししたら取りにくるって、それと一緒に布団を敷くみたい」

 「わかった、ありがとう」


 食事の前に風呂も済ませているため、あとは寝るだけ。

 大晦日なので新年を迎えてから寝るのが理想的だが、そこまで睡魔の誘惑に耐え切れるだろうか心配になってしまう。


 「奏翔、何か見たい番組ある?」

 「ないから好きなの見てもいいぞ」

 「それじゃこれっと!」


 柚羽はリモコンで見たい番組のボタンを押していくと、長年続いている年末の音楽番組が映り出した。

 テレビのスピーカーからまったりとしたバラード調の曲が流れてきており、満腹も重なってかまぶたが重くなってきた。


 「奏翔、眠たいの?」


 現実と夢の狭間を彷徨っていたが、突然目の前に柚羽の顔が映り驚いてしまう。


 「……おまえの顔見て目が覚めたよ」

 「そりゃあかわいい柚羽ちゃんの顔をみたらドキドキして目が覚めちゃうよね〜」


 驚きで目が覚めたのだが、相変わらずのポジティブ思考だ。


 「で、何でおまえは俺の膝元に座っているんだ?」

 「奏翔の膝下が空いてるから?」

 「俺の膝下は山ではないんだけどな?」

 「でもたまに山になるときはあるよね……?」


 何を言っているんだと思ったが、すぐに意味がわかり柚羽の額を軽く叩く。

 「いたーい!」と叫びながらも俺の方へと全体重をかけていった。

 

 「どさくさに紛れてこっちに寄っ掛かるなよ……」

 「まあまあ、せっかく俗世間から解放された素晴らしい所にいるんだから、細かいことを言うのはやめましょうや」

 「おっさんくさい言い方だな」

 

 俺の返答に柚羽はふへへと笑っていた。


 「それに今なら、奏翔もチャンスだと思うよ?」

 「チャンスって何だよ?」

 「普段着てる服だと、中に手を忍ばせるのは難しいけど浴衣だとここから簡単に侵入可能なわけで……」


 話しながら柚羽は着ている浴衣のえりつけの部分を少し捲りあげる。

 

 「……くだらないこと言ってるとこの場から移動するぞ」

 「えー! やーだー!」


 柚羽は子供のように頬を膨らませていた。

 

 

 「失礼いたします。食事の引き下げとお布団のご用意をさせていただきます」


 暫くの間テレビを見ていると、部屋の外から仲居さんの声が聞こえてきた。

 俺はすぐに立ち上がり、入り口へと向かっていった。

 

 「くつろいで頂いて大丈夫ですよ」


 仲居さんと数名の客室係の人が部屋の中に入ってくると、手際の良い動きで

 食事の片付けと布団の準備を行なっていった。


 「今のうちに飲み物買ってくる。奏翔は何か飲みたいものある?」

 「炭酸系の飲み物があれば、なければお茶系でいいや」

 「わかったー」


 柚羽は仲居さんや客室係の人たちを避けながら部屋から出ていってしまった。

 何かさっきより声のトーンが低くなってたような……気のせいだろうか?


 「お布団の準備が終わりましたので、本日は失礼いたします。 何かございましたら内線電話にてご連絡くださいませ」


 仲居さんは丁寧に告げると客室係の人たちと一緒に部屋を後にしていた。


 それから5分ぐらいしてから扉が開き、大量の缶とペットボトルを抱えた柚羽が戻ってきた。


 「ただいまー! おっ、ふかふかの布団だー!」


 柚羽は抱えていた缶やペットボトルをテーブルの上に置き、布団の上へ飛び込み、捲り上げて中へと入っていく。


 「奏翔、私のここ空いてるよ?」


 不適な笑みを浮かべながら空いている箇所をポンポンと叩いていた。


 「こっちで寝るから結構だ」

 

 柚羽は不満そうな顔をすると、何かに気付いたのか布団から出て俺が寝ようとしている布団を先ほどまで入っていた布団へと重ねていた。


 「これならいつでも私のところへ行けるね!」

 「……頼むから寝ぼけて俺の方に足を向けるなよ?」

 「奏翔って足よりお尻のほうがよかったりする?」

 「どちらも向けるな」


 盛大にため息をつきながら、俺はテーブルの方へと向かった。


 「あ、炭酸系なかったからペットボトルのお茶買っといたよ」

 「わかった」


 テーブルの上にあったペットボトルの上質の茶葉が売りのお茶を手にとり、キャップをとって口をつけていった。


 「私も飲もうっと!」


 柚羽はゴロゴロと転がりながらテーブルの下に辿り着くと、テーブルの上にあったリンゴの絵が描かれた缶をとっていた。


 「もうすぐ今年も終わりを迎えようとしています」


 柚羽が選択したチャンネルでは音楽番組が終わり、新年を告げるカウントダウンの番組が始まっていた。

 

 「柚羽、眠たいならそろそろ寝たらどうだ?」


 柚羽は買ってきた飲み物を飲みながら先ほどと同じように俺の体に全体重を乗せていた。

 だが睡魔と格闘しているのか、頭が前後に揺れていた。

 いつもなら寝落ちしている時間だからそろそろ限界がきているのだろう。


 「ん……かなとはー?」


 眠気が混じった声で俺の顔を見ていた、瞼も重くなっているのか目がトロンとなっていた。


 「0時過ぎたら寝る」

 「かなとも、もうねるのー!」


 柚羽は空になった缶を床に置き、立ち上がり、見下ろすように俺を見ていた。

 あれ、柚羽の顔がすこし赤くなっているような……。

 

 「うりゃあ!」


 柚羽は大きな声で告げると俺を突き倒す。

 急なことで俺はコテンとそのまま後ろへと倒れてしまう。


 「何だよいったい……」

 

 起きあがろうとするが、柚羽が俺の両膝へ跨るように座り出していた。


 「どこに座っているんだ……離れろ——」

 「——ねぇ、奏翔にとって私ってどんな存在?」


 退くように告げようとすると、柚羽の声でかき消されてしまう。


 「……何だよ急に?」

 「私ね、奏翔にだったら何でもできちゃうよ、こんなこととか」


 柚羽は胸元が見える位置まで浴衣をはだけさせていった。


 「何をやってんだよ……ちゃんと——!」

 

 俺は上半身を起こし、はだけた浴衣を元に戻そうとするが、柚羽に腕を掴まれてしまう。

 すると柚羽は俺の手を自身の胸元へと引っ張っていく。


 「バカ、やめろ!」

 「奏翔に私の全てを見てほしいし、触れてもほしい、奏翔のだってうけいれることもできるから……」


 柚羽は眠たそうな目をしているにもかかわらず、はっきりとそう告げる。


 「だから……奏翔の……を………」

 

 何かを言おうとしていたが糸がきれた人形のように、俺の胸にもたれかかってきた。


 「……ちょ……う……だぃ」

 

 眠気の限界を迎えたのか、柚羽は心地よさそうな寝息を立てていた。


 「柚羽……」


 俺は小さな声で寝息を立てている彼女の名前を呼ぶ。

 

 「……俺はお前にふさわしい人間じゃないんだぞ」


 言葉とは裏腹に俺は柚羽の体を強く抱きしめていた。


 それと同時にテレビのスピーカーから新年を迎えるアナウンサーの声が響きわっていた。

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