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14話 相手の親からの信頼、そして旅行へ……

 「すごいな、せっかくだし2人で楽しんでくればいいじゃないか、年末年始はそっちに戻れそうもないし」

 「……そこは普通、止めるところだと思うんですけど?」


 色々と買い物を済ませて帰宅した頃には既に日は沈み切っていった。

 いまだに抽選会の結果が間違いではないかと疑いつつ連絡をしなきゃと思い、LIMEで両親に連絡をかける。

 通話に出たのは柚羽の父親である洋介さんだった。


 ちなみに俺の父親は会議中のようだ。

 

 「これがどこの誰かわからん男なら、今すぐ帰って、全力でチケットを破り捨てるところだけどな、相手が奏翔なら大丈夫だと思うし、何かあったら裕二と一緒に酒を飲む口実ができるから至って問題なしだ」


 洋介さんは最後に豪快に笑っていた。


 「笑い事じゃないと思うんですけどね……」

 「そんな重く考えるなって、ちなみに柚羽の反応はどうだったんだ?」

 「さっきまで大はしゃぎで、鎮めるのが大変でしたよ」

 「喜んでくれたならいいじゃねーか! いい機会だし楽しんでこいよ」

 「ヨウさんがそう言うなら……ちなみに親父は戻ってきそうです?」

 「まだまだ終わりそうもないな……外国人がいればさっさと終わるけど、今日の会議は日本人だけだから長丁場になるだろうな」


 どうやら洋介おじさんも親父を待っているようだ。


 「夜遅くなると思うし、俺から裕二には伝えとくわ、ってかそろそろ仕事にもどらねーと」


 最後にお願いしますと言ってLIMEの通話を終了させた。


 「……普通、親なら反対するとおもうんだけどな」


 仮に俺の親父に話したとしても同じような答えが返ってくるだろうな……。

 そう考えるだけでため息が出てきていた。


 「夕飯の準備をするか……」


 先ほど買ってきた食材を整理しながら夕飯の献立を決めていった。

 

 「みてみてー! 早速さっきのTシャツ着てみた!」

 

 ガスコンロに火をつけて、野菜を炒めているとダイニングのドアが勢いよく開いた。

 ドアの奥にはクリスマスプレゼントで購入したライガが描かれた黒いTシャツを着ていた。


 「わかったから、ドアはゆっくり開けてくれ……それとズボン履かないと——」

 

 柚羽の姿を見て、一言告げると柚羽は「ふっふっふ」と不適な笑みを浮かべていた。


 「下履いてないと思った? じゃじゃーんハーフパンツ履いてましたー!」


 自信たっぷりな表情で膝まで伸びたTシャツをハーフパンツが見える位置まで捲りあげていった。


 「……サイズ間違えたのか?」

 

 おそらく、柚羽はハーフパンツの方を見て欲しいと望んでいるかと思うが、俺が気になったのはそんなことよりも捲っているTシャツの方へと目がいっていた。


 「ちゃんとMサイズ買ったんだけど、基準がメンズだったみたい」

 「……なるほど」

 「でも、小さいよりは大きい方がいいし、普通のパンツ履けば問題なし!」

 「じゃあ何で、ハーフパンツなんか履いてんだ?」

 「奏翔の驚く顔をみたかったのと、ノーパンだと勘違いして押し倒してこないかなという希望!」

 

 聞いた俺が愚かだった。

 盛大なため息をついた後、柚羽に皿を用意するように言うと元気よく返事をして、棚の方へと向かっていった。



 「そういえばさっきの件、2人にLIMEしといた、すぐにヨウさんが通話してきたぞ」

 

 食事の挨拶をした後、先ほどあったことを柚羽に伝えた。


 「お父さんが出たってことはユウさんは相変わらず忙しいみたいだね」

 「連続して長時間の会議に参加しているみたいだな……」

 

 2人揃って「地獄だな」と呟いてしまう。


 「それでお父さん何か言ってた?」

 「……年末年始は帰れそうもないから2人で楽しんでこいってさ」

 「さっすがお父さん!」

 

 柚羽はミニハンバーグを箸で両断しながら喜びの声を上げていた。


 「……何もなければいいんだけどな」


 心の奥底から出てきた声は目の前の同居人の耳に入ることはなかった。



 そして、抽選券で当たったチケットが有効になった当日。というか大晦日の朝。

 俺と柚羽は最寄駅から特急列車に乗って、県内の温泉地がある駅へとやってきた。


 年末も近いためか、俺たちが乗っていた特急列車から大量の人が降りていた。


 「お待ちしておりました、藤野様と和田塚様」


 駅の改札を出てから事前に知らされていた指定の場所へ向かうと送迎バスが停まっていた。

 名前を告げてから送迎バスに乗っていく。


 送迎バスといっても、ワゴンタイプの車となっていた。

 俺たち以外にも乗れても3人ぐらいだろうか……?


 「窓側座っていい?」

 

 そう尋ねてきた柚羽だが、目ではそっちに座りたいと訴えかけていた。


 「……好きにしてくれ」

 「それじゃそうするー!」


 柚羽は意気揚々と窓側の椅子に座っていった。


 バスは10分ほど待った後、旅館へと向かって走り出した。

 俺たち以外に乗客がいなかったので、ほぼ貸切に近い状態となっていた。


 「お二人は恋人同士なのかしら?」

 

 そのためかはわからないが、助手席に座っていた年配の女性が何かとこちらへと話しかけてきていた。

 

 「そう見え——」

 「——幼馴染です」


 女性の質問に俺が答える。

 なんか柚羽の声が聞こえたような気もするけど……思い違いだろう。


 「仲のいい幼馴染なのね〜」


 俺の答えに女性は若干気まずそうな顔をしていた。


 「……そこは肯定してもいいじゃん」


 柚羽は唇を突き上げながら何かを呟いていた。


 バスに乗ること20分ほどで今日お世話になる旅館へと到着した。

 創業100年を超える老舗旅館ということもあってか、一昔前の映画に出てきそうな趣の建物となっていた。

 

 「お待たせいたしました、こちらで受付を行います。 お荷物は先にお部屋までお持ちいたしますね」


 案内された受付にて手続きを行うと、担当の仲居さんに部屋まで案内をしてもらった。

 

 「本日のお部屋はこちらになります」


 案内されたのは和室の部屋。

 旅館自体が高台にあるためか。入り口からでも外の景色を眺めることができた。

 仲居さん曰く、のんびりと新年の初日の出を眺めることができるコンセプトになっているとか。


 「すごーい! すごいいい眺めだよ!」


 部屋に入ると、柚羽は真っ先に部屋の奥へと向かっていた。

 その様子を見ていた仲居さんは「可愛らしい彼女さんですね」と話していた。


 ……違うと言おうしたが、仲居さんの微笑む顔を見たら無下に否定することができなかった。

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