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102話 高校生活最後の日

 「桜のつぼみが膨らみ始め、春を感じられる本日、私たちはこの学校を卒業いたします」


 3月の中旬の朝。

 大勢の生徒がひしめき合った体育館にて俺は壇上の方を見ていた。

 壇上のすぐ傍には赤と白の花飾りで埋め尽くされた第53回卒業式と書かれたプレートが掲げられている。

 そして壇上の上には緊張しているのか、震えた声で用意した答辞を読み上げる柚羽の姿。


 ——そう、今日は俺たちの卒業式だ。


 「はぁ……和田塚さんの姿を拝めることができるのも今日が最後か」


 隣で虎太郎がため息混じりにつぶやいていた。

 卒業式にもかかわらず、見事に寝坊をして駅から猛ダッシュで来たとかで、大事な日であるにもかかわらず髪がボサボサになっていた。


 「大学も同じなんだからこれまでと変わらないだろ……」

 「そりゃ同じ学部ならそういえるけどよぉ」


 俺と柚羽は前々から決めていた学科に進学を決めた。

 赤点続出してた虎太郎に関しては付属の大学も危ういかと思っていたが、出席日数もよく補修に関しても文句を言いながらも出席したいたことが評価されてこいつの希望する学科に進学することができたようだ。俺や柚羽とは違う学科だが。


 「そりゃおまえはいいよなあ、同じ学科でもあるし……」

 「何だよ?」

 「大切な彼女さんだしなぁ」

 「……そーですね」


 俺と柚羽のことは虎太郎もそうだが、学校のほとんどが知っている。

 

 「まさかさ、文化祭のイベントで和田塚さんが言い出すなんて思いもしなかったぜ。 ってか俺に感謝しろよ? 下手したらここにいないで病院内で卒業式を迎えてた可能性もあるからな」

 「それに関しては充分なぐらいラーメン奢っただろ……」


 夏休みに俺と柚羽は俗にいう『恋人同士』となった。

 ただ、柚羽の学校での立場もあるので、学校ではいつも通り接しようと話していたのだが、文化祭に行われたイベントの『在学生の主張』にて柚羽が俺たちのことを話したのだった。『学校一の美少女清楚系美少女』の主張ということもあって、結構な数の生徒が聴きにきていた。もちろん、そこには虎太郎をはじめ、柚羽のファンクラブの連中の姿も……。


 「文化祭が一気にバトルロワイヤルと化したからな、思い出すだけで笑えてくるな」

 「バトルロワイヤルというか、ゾンビに襲われるモブの気分だったけどな」


 アリアと虎太郎の協力のおかげで、無傷で済むことはできたが、生きた心地はしなかったな。

 その後もファンクラブの連中と目を合わすたびに睨みと舌打ちの精神攻撃の嵐だったけど。


 「安心しろ、ファンクラブの連中はわからんが、俺はいつだってお前と和田塚さんを応援してるからな!」


 そう言って笑顔でサムズアップする虎太郎。


 「……お前も同じ感じだからそう言ってられるだけだろ?」

 

 羨ましいと口にしているが、こいつもちゃっかり咲奈ちゃんと正式に付き合い始めていた。

 一時期、こいつの妹の依緒ちゃんから嘆きのメッセージが頻繁にきていたことは伏せておくが……。


 「おいおい、人をひがみ魔人みたいな言い方するなよー」

 「歪みまくった顔で言われても説得力ないな……」


 虎太郎と話しているうちに、柚羽の答辞は終わりを迎えようとしていた。

 ……昨日の夜に、文章の作成と練習と称して、何度も聞かされていたので頭の中に残っていた。


 「卒業生代表、三年A組、和田塚柚羽」


 壇上の奥にいる校長に向けて頭を下げると当時に聞いていた生徒たちの拍手が鳴り響いていく。


 「さすが、和田塚さん……終わりまで華やかに締めていくねぇ!」


 ……だってさ、人の布団に潜り込んで練習していた甲斐があったな。俺は絶賛寝不足だけど。


 「そうだ、今日の昼にサナっちと飯行くんだけどよかったらくるか? 和田塚さんも一緒に」

 「……今日は用事があるから無理」

 「お、もしかして卒業式したからお二人でデートか?」


 虎太郎へため息で返しながら俺は後ろの保護者の列へと目を向けると、ストライプのスーツにワインレッドのシャツに身を包んだ人物が真っ先に映った。

 その隣には真反対とも思えるぐらい、紺のスーツに白のシャツ姿の人物も。


 「……ある意味、相手の親への挨拶になるかもな」


 あちらもどうやら俺に気づいたらしく、こちらへ向けて豪快に手を振っていた。


 

 「奏翔と柚羽の卒業祝いってことで今日は飲むぞ裕二!」

 「もちろんそのつもりだが、明日の昼には飛行機乗るんだから飲みすぎるなよ……」


 卒業式をが終わり、柚羽と2人で帰宅すると、俺の父親と柚羽の父親である洋介さんが既に宴会を始めていた。

 以前と変わらず、海外部署の出張中ではあるものの、卒業式に参加するため朝一番の飛行機で帰国していた。

 ただ、明日の飛行機で帰らないといけないようで、忙しいのは相変わらずのようだ。


 「お、奏翔と柚羽も戻ってきたか! 今日の主役はお前たちだ、盛大に飲め飲め!」


 もう着ることのない制服からいつもの私服に着替えてからダイニングに向かうと、洋介さんは既に出来上がっていた。

 キッチンでは俺の母親と柚羽の母親のみちるさんが2人のつまみを用意しているみたいだ。


 「まだ未成年なんだから遠慮しておきます……」


 差し出された缶ビールの受け取りを拒否し、冷蔵庫で冷やしていた炭酸水のペットボトルをとってから父親の隣の椅子に座った。


 「なんだよ、久々に会ったのにつれないなあ」


 若干座った目でこちらを見る洋介さん。

 俺の隣では呆れているのか、父親が小さくため息をついていた。


 「お父さん……!」

 

 ダイニングの入り口で『脱ニート』と書かれたTシャツにジーパン姿の柚羽が洋介さんをじっと見ていた。


 「どうした? もしかしてお父さんの相手をして——」

 「そうやって奏翔にウザ絡みしないの!」


 そう言って柚羽はガッチリと俺の腕を組むと、猫のように唸り声を上げながら洋介さんを睨んでいた。


 「おいおい何だよ、ここには俺の味方はいないのかよ……ってか柚羽、お父さんのここも空いてるんだぞ?」

 

 洋介さんは自分の腕を柚羽に見せるが、柚羽は即座に「やだ!」と拒否反応を示していた。

 それを見ていた俺の両親とみちるさんは大声で笑っていた。


 「娘に嫌われたからって拗ねるなよ洋介、今日はとことん付き合うから」


 俺の父親は持っていた缶ビールを洋介さんの前に差し出す。


 「うおおおおん! 裕二、お前は最高の心の友だぜ!」


 大声を上げながら洋介さんは持っていた缶ビールを突きつけていた。

 何というか、俺らの父親は相変わらずのようで安心した。





 「かなとー、いるー?」


 ノックをするのと同時に俺の部屋のドアを開ける柚羽。


 「……今のノックする意味あったか? ってか俺が着替えとかしてたらどうするつもりだったんだ?」

 「そのまま脱がしてベッドに押し倒す」


 柚羽の返答に俺はため息をつく。


 「あ、それってユウさんからもらったカメラ?」


 柚羽は机に置かれた一眼レフのカメラを指差す。


 「そうだよ、パーツに関してネットで色々と調べてた」


 カメラのメーカーのホームページを映し出したパソコンのディスプレイを見ながら答える。

 柚羽が言った通り、このカメラは父親が使っていたもので、卒業祝いとしてもらったものだ。


 「うわ……何が書いてるのか全然わかんないんだけど!?」


 柚羽は呼びに置いていた木製の椅子を俺の隣に持ってきて座ると、俺の腕に寄りかかってディスプレイを見ていた。


 「……どうしたんだよ?」

 「なんか色々と落ち着いたら奏翔に甘えたくなってきちゃった、うへへ〜」

 「ここ最近は答辞の文章考えたり、読む練習で大変だったしな、お疲れ」


 空いている手で柚羽の頭を撫でるといつものように「ふへへ〜」と変な声をあげていた。


 「それに奏翔もそろそろ柚羽ちゃんに甘えたくなってくる頃合いかなって」


 柚羽は含みのある笑みを浮かべながら俺の顔をじっと見ていた。


 「……だとしても、今日はやめとく」

 「えー、なんでよー!」

 「……両親がいるから」

 「さっき冷蔵庫に飲み物とってきた時に確認したけど、寝てたよ? お父さんのイビキがうるさかったから聞こえないって」

 「だとしても、明日は空港まで送るんだから早めに寝ないとな」

 「むぅ……」


 柚羽は口を尖らせながら俺をじっと見ていた。


 「……明日まで我慢しろ、帰ってきたら好きにしてくれ」


 もう一度柚羽の頭を撫でながら話すと、嬉しいのか顔を俺の腕に擦り付けていた。



 

 「それじゃ、俺たちも寝るぞ」


 机の上に出した一眼レフカメラを専用ケースにしまい、ベッドに向かったのはいいが……


 「……自分の部屋で寝ろ」


 部屋に行ったと思っていた柚羽が俺のベットで横になっていた。

 あたかも自分の専有物だと言わんばかりに……。


 「やーだー! 今すぐ奏翔の温もりを感じたいの! 明日まで我慢できない!」


 今日はゆっくり体を休めたかったが、俺の願いが叶うことはなかったのだった……。

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