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101話 やっと通じ合った2人の思い

 「奏翔、ずっと私の豊満なお胸に顔突っ込んでるけど苦しくない?」

 「……むしろ落ち着く」


 豊満かどうかはさておき、倒れ込む様に柚羽の胸に顔を埋めてからそれなりの時間が経った。


 「いっそのこと触ってもいいんだよ?」

 「……そういう気分じゃない」


 こんな状態で言えることではないが、今はそういうことをしたい気分ではない。

 海で連れ回されたからなのか、疲労がピークに達しようとしているのでこうなってるはず。


 「前にも同じ様なことがあったけど、もしかして色々と溜め込んじゃってる?」


 柚羽はゆっくりと俺の頭を撫でていた。

 いつもなら変なことを口にしないということは、真面目に聞いているのだろう。


 「……そうだな」

 「それじゃぎゅってしててあげるから話していいよ」


 そう言って柚羽は俺の背中に手を回して抱きしめていた。

 うっすらとだが、ドクドクと柚羽の心音が聞こえている。

 

 「ちなみにさ、奏翔?」

 「……どうした?」

 「別のも溜まってるなら言ってくれれば——」


 少しでも真面目だと思った俺が愚かだったかもしれない……。

 まあ、これもあって柚羽の可愛いらしいところでもあるが……。


 「……そういうのは後日で」

 「あれ、いつもならため息で返してくるのにどういう気持ちの変化?」

 「知ってるか? 疲れてるときの方がそういうの強くなるみたいだぞ……」

 

 前に読んでいた本で知った知識だ。

 たしか生存本能が云々……。これ以上脱線するのはやめておくか。

 わざとに思えるぐらいの咳払いをする。


 「——俺、柚羽に謝らなきゃいけないとずっと思ってた」


 俺がその言葉を告げると、柚羽の体がビクッと震える。


 「…………もしかして、中学校の卒業式のこと?」


 少し間を開けて柚羽が答える。

 若干だが声も震えているようにも思えた。

 三年近くが経っているが、柚羽にとってはトラウマといっても過言ではないはずだ。


 「……体震えてるみたいだし、やめといた方がいいか?」

 「大丈夫だよ、今のは奏翔の抱き心地が良くてついつい——」

 「誤魔化し方下手すぎだろ……」

 「いいから早く続き言ってよ!」

 「……わかったけど、嫌だったらすぐに言えよ」

 「うん……」


 そして俺はもう一度話し始めた。

 ——中学の時に、告白をされてきたことや断ったこと。

 時には呼ばれたことに対して、すっぽかしたことも。


 そのせいであの卒業式の後の出来事が起きてしまったこと。

 全て、俺の身勝手な行動のせいで……。


 「……もしかして、あの時からずっと悩んでいたの?」

 「そうだよ」


 俺が答えると、柚羽は俺の髪の毛をぐしゃぐしゃにしていた。


 「むしろそういうのを相談してほしかったんだけどなあ……」

 「自分が受けたことに関して、後々相談されるのも嫌な話だろ?」

 「……ずっと黙っていられるよりはマシだよ」


 考えてみれば一緒に住んでいて自分が知らないことで悩んでいるのはいい気分じゃない。

 逆の立場になってみれば簡単にわかることだなと実感。


 「それに……あの時に関しては俺1人で考えたいことがあったしな」

 「考えたいこと?」


 あの卒業式の日、俺は自分の思いを伝えようとしていた。

 もちろん、相手はずっと俺の頭を撫でている柚羽なのだが……。


 でも、結局はあの出来事が起きてしまい、思いを伝えるどころではなくなってしまう。

 あんなことが起きた後で、軽々しく言えるほどあの時も今に至っても神経図太く育っていない。

 

 ——安心しろ……俺はずっとお前の友達だからな。

 

 結局は柚羽を慰めるためにこう告げることしかできなかった。

 

 「……奏翔?」

 

 突如、柚羽の大きな声が聞こえて、ハッとする。

 顔を上げるとムッとした柚羽の顔が視界に入った。


 「呼んでも反応ないから、寝ちゃったのかと思ったじゃん! 危うくえちちな事しそうになっちゃったよ」

 「……どちらにしてもしようと思ってるだろ」


 ため息混じりの俺の返答に柚羽はふへへと呟いていた。


 「それで、何を考えてたの?」


 すぐに興味津々といった顔で柚羽はこちらを見る。

 いつもなら、適当にはぐらかすところだけど、そんなことはもう必要ないと自分を納得させていた。


 「……あの時、告白をしようとしてたんだよ」

 「え……!?」


 普段では出さない様な甲高い声を出す柚羽。

 それと同時に自身の体を震わせながら俺の体を力強く抱きしめていた。

 

 「……だ、だれに?」


 体どころか、声まで震えていた。

 安心させるために、俺も柚羽の体を抱きしめ、頭を撫でていく。

 

 「……あの状況で言えるのは1人しかいないだろ?」

 

 柚羽は黙ったまま抱きしめる力を強めていく。


 「柚羽……」

 「……なに?」

 「…………好きだ」


 何度も唾を飲み込んだ末に言いたかった言葉を伝える。

 しばらくの間沈黙が続いていった。

 何かを話そうとするも、緊張からなのか、唇や口の中が乾いた感覚がしてうまく言葉を発することができずにいた。


 「うぅ、いきなりそんなこと言われても…………」


 その沈黙を破ったのは咽び泣く柚羽の声だった。


 「何で泣くんだよ、嫌だったか?」


 俺の声に反応して、柚羽は俺の背中を叩く。


 「嬉しいからに決まってるでしょ! ホント、奏翔ってひねくれてる!」


 そう言いながら何度も柚羽は俺の背中を叩いていた。

 そんな柚羽が可愛く見えて俺は微笑みながら、彼女の頭を撫でていった。


 「……嬉しいなら素直に喜べばいいのに、おまえも人のこと言えないぞ」

 「奏翔の性格がうつったんだよ! 純真無垢な柚羽ちゃんは奏翔のせいで汚れちゃったんだ!」


 嗚咽を漏らしながら、言いたい放題話す柚羽。

 それからもずっと柚羽は泣き続けていた。

 


 「……落ち着いたか?」

 「…………うん、落ち着いたら奏翔のこと押し倒したくなってきた」

 

 どうやら落ち着いた様だ。


 「……もしかして、ここ最近アリアさんと会ってたのってこのことで相談乗ってもらってたの?」

 「そうだな……」


 相談というか、一方的に煽られてたけどな。

 

 「よかったぁ……」


 柚羽は安堵の息をついていた。


 「そんなに不安だったのか?」

 「不安だけじゃ済まされないよ! 奏翔が女の子と一緒にいる時なんか不安通り越して絶望的な気持ちになったりもしたんだからね!」


 堰を切ったように柚羽は大声をあげていた。


 「小学校や中学校の時なんか、女の子に呼び出さてばかりだったし! その度に奏翔が誰かに取られたらどうしようって!」

 

 普段見せない柚羽の言葉を俺は黙って聞いていた。


 「卒業式のことは確かに怖かったけど、一番怖かったのは奏翔が私以外の女の子に取られちゃうことが一番怖かったよ! しかも告白してくる子は私なんか比べものにならないぐらい綺麗な子や可愛い子が多かったし、香凜ちゃんもそうだったし!」


 言葉もそうだが、さらに抱きしめる力が強くなっていった。

 力が入りすぎて爪が軽く刺さっているんだけど……?!


 「奏翔の傍にいられるのは私だけ! 好きだよ奏翔! 奏翔以外の人なんか興味なんてない! ずっとずっと奏翔の傍にいたい! それが私の願いなんだよ!」


 俺は黙ったまま、柚羽の頭を撫でていく。


 「……安心しろ、俺も同じ気持ちだ。ずっと柚羽の傍にいたい」


 俺の言葉に柚羽は「やっと願いが叶ったんだ……!」とつぶやいていった。


 「……悪いな、ずっと待たせちゃって」

 「…………そう思ってるなら、行動で示して欲しいんだけど」

 「何をすればいいんだよ?」

 「…………ちゅーしてほしい」


 今にもかき消されそうな声で呟く柚羽。

 顔を見ると腫れ上がった様に顔が赤くなっていた。


 「……奏翔と両思いになれたらしようと思ってたんだよ! 言っとくけど、ちっちゃな時にしてたようなほっぺたにじゃないからね!」


 そう告げた後、柚羽は目を瞑り、唇をこちらに寄せる様に顔をこちらへと近づけてきた。


 「…………わかったよ」


 俺は勢いよく唾を飲み込んでから、『彼女』の思いに応えるように唇を重ねていったのだった。

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