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10話 和田塚柚羽の表と裏

 「かーなとーくん! 弁当食べようぜー」

 

 午前の授業が終わり、みんなが大好きな昼休みがやってきた。

 クラスメイト達は教室を出ていく。ずっと教室にいるから昼ぐらいは他のところに行きたいのだろう。

 俺はというと、途中で買ってきたコンビニのパンを食べながら、スマホで情報収集をしていたら、虎太郎がいつも通りのデカい弁当箱を持って俺の前の席に腰を落としていた。

 

 「静かな空間が一気に崩れていったな……」

 「せっかくの昼休みなんだし、楽しく明るくいこうぜ!」

 「先ほどまで寝てたやつに言われたくないな」

 

 俺の返しに臆することなく、虎太郎は弁当箱をあけていく。


 「今日も昨日の晩飯の残りじゃねーか!」

 

 中身を見て、大声を上げる虎太郎。

 どうやら、恩田家の昨日の夕飯はミートソーススパゲティだったようだ。


 「ってかさ……」

 「どうした?」

 「和田塚さんってどんな本読むんだろうな?」

 「……何でそんなことを今聞いてきたんだ?」

 「だって今、和田塚さんの方をチラ見したら分厚い本を読んでいるからさぁ」


 俺も思わず柚羽の方に視線を向けると、虎太郎の言うとおり分厚い本を読んでいた。


 「さすが、学年順位TOPを独走し続けるだけのことはあるよな、俺だったらあんな分厚い本見たら3分で爆睡できる自信あるぜ」

 

 虎太郎が自信たっぷりに話すが、威張って言えることではない気がする。


 「……知ってるか、虎太郎?」

 「何をだ?」

 「最近発売したラノベは辞書並に分厚いんだぞ、ちょうど和田塚さんが持っているサイズぐらいのな」


 俺の言葉に虎太郎は柚羽の方を見るが、すぐにこちらに戻す。


 「まさか、和田塚さんがラノベなんてオタクが好みそうなものを見るわけないだろ!」

 「じゃあ、彼女はいったい何を読んでいると思っているんだ?」

 「『吾輩は猫である』とか?」

 「……何でそれがでてきたんだ?」

 「教科書に載ってたから?」


 虎太郎の返答に俺はため息も出てこなかった。

 ちなみに柚羽が読んでいるのは先ほど俺が言った辞書とも揶揄されるライトノベルだ。

 誰にもわからないように黒いブックカバーをかけている。


 あれを買ったのは今月の頭、俺が集めている漫画を買いに地元の本屋へ行った時のこと……。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「奏翔このラノベ知ってる? この前深夜枠で始まったアニメの原作なんだけど」

 

 少年誌の漫画コーナーで目当ての商品を探していると、柚羽が話しかけてきた。

 彼女が手に持っている本を見て、最初は参考書や辞書かと思ったが、表紙に描かれたイラストを見てラノベであることに気づく。

 表紙に描かれたタイトルを見て、既視感を覚える。

 

 「録画リストの中にあったような気がするな、そんな感じのタイトル」

 

 どうやら録画したのは柚羽だったらしい。

 目当ての漫画を手に取り、レジに向かおうとすると服の袖を引っ張られ無言で手渡された。


 「……自分で行ってこい」

 「財布忘れちゃった」

 

 ウインクと一緒にあざといポーズをとる柚羽。

 漫画を持ってなかったら、デコピンを喰らわせてるところだ。


 「……後で返せよ」

 「ありがとー! お礼にハグしてあげようか?」

 「結構だ……」


 ため息混じりに答えると、そのままレジへと向かっていったのだった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 まあ、このことは柚羽の名誉のために口が裂けても絶対に言えない。

 

 「うーんそれともあれか? 三国志とか?」

 「さっきとジャンルが違うだろ……」


 三国志はゲームの影響で一時期ハマっていたな。

 ちなみにゲームのプレイ中は学校では聞かせられないような叫び声と暴言が飛び出てくるのだが……。

 

 「和田塚さんがギャルゲーなんてやりそうもないし、共通の話題がでてこないんだよなあ」


 いつの間にか弁当を食べ終わった虎太郎はいつものように小型ゲーム機を取り出してプレイしていた。


 「……それもやってたけどな」


 俺は心の中で呟いていた。


 

 授業が終わり、帰りの準備をしているうちに柚羽の姿がなくなっていた。

 そういや寝落ちして見れなかったアニメがあるとか朝言ってたから急いで帰ったのだろう。

 

 「腹減ったから、何か食っていかね?」


 カバンを持って帰ろうかと思っていると、大きなあくびをしながら虎太郎がやってきた。


 「おまえは食うか寝るしかないのか……?」

 「寝る子は育つって言うだろ?」

 「それ以上、成長するところないだろ……で、どこにいくんだ?」

 「プラ〜ザラーメン行きたいけど、定休日だしグフグフバーガーでも行くか」

 「わかったよ……」


 そろそろ家に帰った柚羽がアニメを見ているだろうし、邪魔になるだけだからゆっくり時間を潰すとしよう。



 「……食い過ぎた、夕飯いらないかもな」


 虎太郎と別れ、最寄駅から家に向かって歩いているが、新商品のナギナタバーガーが思っていた以上にボリュームがあり、食べ切ることはできたものの、なかなか消化してくれない。


 「とりあえず、あいつの夕飯は作らないとな……」


 そう考えているうちに自分の家へと到着した。


 「ただいまぁ」


 玄関を開けて中に入ると、ダイニングから音が漏れていた。

 どうやらまだアニメ鑑賞中のようだ。

 

 終わるまで部屋でゆっくりしてようと思い、飲み物を取りにダイニングへと続く扉を開けて中に入ろうとすると……


 「うわっ!?」


 バッタリと柚羽と顔が合ってしまう。

 彼女の手にはライガのシールが貼られたタンブラーとアイスミルクティ。

 そして服装は『ただしイケメンに限る』と書かれた黒いTシャツにジーパン姿。

 

 どうやら飲み物を取ってきたところらしい、タイミングが悪いな……。


 「いつの間に帰ってきたの?」

 「今さっきだ、アニメ鑑賞の邪魔をしちゃ悪いかと思って、飲み物とったら部屋に行こうとしたんだけどな」

 「気を使いすぎだよ、よかったら奏翔も一緒にみない? 今いいところなんだよ!」


 俺はテレビがあるリビングの方に目を向ける……。


 「……いいところってアレがか?」

 

 テレビ画面には女性キャラが着ているブラウスのボタンを外そうとしていた。

 どうみても『いいところ』というか『気まずい』シーン真っ只中だ。


 「そうだよ、超がつくほど鈍感すぎる主人公にヒロインが服を脱ぎながら迫ろうとしているところなんだよ」


 柚羽は嬉々として語っていた。


 「……俺は部屋に戻る、終わったら呼んでくれ」


 冷蔵庫から飲み物を取ってダイニングを出ようとするが、柚羽に袖を掴まれてしまう。

 

 「安心して、全年齢だからえちちなシーンには行かないから!」


 柚羽はとんでもないことを真顔で話していた。

 

 「そう言う問題じゃねーよ……」


 柚羽が掴んでいた手を振り払ってダイニングから出ていった。


 「えっちぃシーンを一緒に見て、その気にさせようと思ったけど失敗かぁ……難しいなあ」


 何か聞こえた気がするが、その声は階段をのぼる音でかき消されていった。

 

 「……このことを誰かに相談できればいいけど、無理だよなあ」


 俺の悩みが尽きることはなさそうだ……。

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