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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

青色の桜

作者: 前田 光史朗

西暦約20年程の弥生時代後期、日本列島のハズレに、一つの芽が生えた。

その地域は、雨もよく降り、暖かく、その芽はみるみる成長していき、やがて立派な桜になった。ピンク色が濃く輝く。けど、その桜は、普通の桜と違うところがあった。それは、年がら年中桜の花をつけるということだ。

それを珍しがった弥生時代の人は、その桜を御神木とし、その木を中心に、村を作った。その村は、桜の力あってか、きれいな川や、農地など、自然に恵まれ、みるみる発展していった。だが、この時代、良質な土地を求め、日本の各地で、人間たちの争いが起こっていた。

そんなある日の夜、遠くに火の玉が無数に浮いていた。

すると、矢の雨が、村に注ぎ、一夜にして、村は滅びた。桜の木も、何本か、矢が刺さっていた。

悲しかった。痛かった。

そこから、村にいた人の、5倍はおるであろう人々が、そこに、前の村とは比べ物にならないくらいの、石造りの大きな家を建てた。やがて町には城のようなものもでき、人も増えていった。もうそこは、列記とした国だった。

そんなある日、この国と、他の国が対立した。時代は繰り返すものだ。またまた、争いが起こった、だが、前のような生ぬるいもんじゃない。何千何万という人々が、鉄でできた甲冑を着て、絶えず、血を吹き荒らした。やがてそこは瓦礫と血の荒れ地となり、数年かけて草原になった。

寂しかった。悲しかった。怖かった。

その三日後、その草原には鹿の群れが住み着いた。

数えるのは、大変だったけど、32頭だ。

寂しくはなかった。

でも、やがて鹿の食べ物だった人参が無くなると、鹿はこの地を去ろうとしたでも、桜は、それがどれだけ寂しいか知っていたので、行ってほしくないと思い、さくらんぼをつけた。その味は絶品だった。鹿はそれを毎日食べて生活した。その噂は、鹿を通して、いろんな動物に伝わり、いろんな動物が来るようになった。でも、そんなにさくらんぼをつけることは出来ない。でも、無理して頑張った。嫌われたくなかった。ある日、さくらんぼをつけることは出来なくなった。それがわかると、動物は、まるで何もなかったかのように桜の木から離れていった。目当ては桜の木ではなく、さくらんぼだった。

桜は寂しかった。情けなかった。悔しかった。



それから、どれぐらいの年月が経ったのだろう。ただただ孤独で、何も覚えちゃいない。

多分100年は余裕で経っている。多分。

でも、最近は、たまに馬に乗った人が通りかかるようになった。それから数日、今までにはない量の人々がやってきた。人々は、それはそれは立派な家を築いていった。何故か、嫌な気はしなかった。やがて、城もでき、川も引かれた。川には船が行き来し、人通りも増えていった。その町も、国と呼べるようになったようだ。

でも、この国の人は、たまに、沢山の行列を成して何処かへ行ってしまう。その時は少し寂しい。でも、争いは起こらなかった。町はどんどん発展して、人が中に乗って移動する。

車とやらもできた。廃棄ガスは、キツかったけど、嫌われるのに比べたら楽な方だった。

毎日人を見るのが楽しみだった。

私を「綺麗」と言ってくれる人もいて、その時は、それ以上にない幸せだった。

でも、それは突然だった。

あれは、皆の様子がおかしくなった時くらいのことだった。人々が、定期的に、沢山の荷物を汽車に積み込み、いつもと変わった服を着てどこかに行くようになり、またある人は、徒歩で、町を去るようになった。寂しいけど、残っている人もいたから、なんとか大丈夫だった。でも、不安ごとといえば、遠くで、爆発音のような音が聞こえていることと、たまに、空をでかい飛行機が爆音を立てて通ることだ。

怖かった。 

そんな夏のお昼前。

また飛行機の音が聞こえてきた。私はなぜか恐怖感を感じた。私は背が高いので、空の端から端まで見渡せたが、飛行機は見えない。雲の中だろうか。

そう思った瞬間、飛行機の羽のようなものが雲の端から出た。するとたちまち飛行機から何かが降ってきた。

すごく大きい、飛行機の破片だろうか。

それをわたしは目で追ったが、すぐ側の丘に隠れた。

数秒後、遠くで黄色く光った。6秒後爆音が響いた。

それとともに、熱風が体に吹き付けた。私ほどの大樹でも折れそうになるほどだった。驚いたけど、私は平気だ。

すぐに街を見た。ほとんどの家がボロボロだった。

町の塔もグチャグチャに折れていた。

近くの川が、強く波打っていた。私は状況が理解できなかった。また後ろを向いた。すると、私の10倍以上はあるであろう、きのこができていた。爆音のしたところから、きのこが生えた。まさに幻想的だった。

そのきのこは、時間が経つたびに大きくなっていずれ消えた。それから毎日、町から人が逃げていった。

寂しい、行かないでくれ。私を一人にしないでくれ。

また、あの苦しみは絶望だった。そして町には、瓦礫に押しつぶされた、死体しか残らなかった。

でも、人が全員逃げた次の日、きのこが生えていた方から、川沿いを歩いて下る人たちが現れた。

彼らは、この町を見つけると、一目散に町へ向かった。

彼らは何故か、さらに移動しようとはしなかった。

次の日、一人の少女が私の元へ来た。

心が晴れるようだった。すると少女は喋らない私に話しかけてきた。「私の名前は、栞里しおりあなたは?」

私は勿論話せない。名も無い。「なら今日から貴方の名前は花夏ね。花に夏で はなか。 だって夏なのに桜咲いてるんだもん。いや?」

嫌な訳がない、何故この子が私の心を読めるかは知らないけど、初めて人と話せたこと、名前を付けてくれたことが嬉しすぎた。

彼女によると、彼女は、あのきのこの近くにいたらしく、あれは爆弾というらしい。爆弾は、よくわからないけど、怖いもので、彼女はその爆弾から出た物を浴びてしまったようだ。町から彼女たちが動かないのは、皆怪我をしていて、移動できる状態ではないからだそうだ。

少女は毎日私の元へ来た。楽しそうに。

「私はね…爆風の瓦礫で右足が潰れてて、左目はよく覚えてないけど多分火傷で失明してて、生まれたときから白血病なんだ…」

私は驚くべきことを聞いた。彼女は、そんな素振りを一度も見せなかったからだ。よく見たら、右足には、枝を巻き付けていて、左目あたりはアザのようになっていた。

たまに咳き込むのは、白血病の症状であろう。

でも、私は彼女が大好きになっていた。

こんなつらいのに、何日も何日も会いに来てくれたからだ。

ある日彼女はこんなことを言った。

「貴方、何歳?この幹に空いた穴と、この傷は?」

なんのことかと私は自分の幹を見た。

ボロボロだった。樹皮は剥がれ落ちて、幾千もの傷がつき、穴がぽっかり空いていた。

わたしはたちまち知らないと応えた。

彼女は恐る恐る、聞いた。「貴方は今までにどんな人生をおくってきたの?」

1から10まで全て話した。彼女なら話してもいいと思った。彼女は泣いてしまった。

「辛かったよね。本当に頑張ったよ。」わたしも泣いた。そんなことを言ってもらえたのは初めてだ。

彼女がいれば何でもできると思った。

私はよく頑張った。

彼女は泣き顔をしてその日は黙って家に帰ってしまった。

次の日、来たのは彼女じゃなかった。おかしな格好をした、二十代位の男だった。彼は誰かの骨を持っていた。

それを私の根本へ埋めた。

そして男はこう言った。

「彼女は君が大好きだったよ。でも、世界は残酷なものだ。彼女はいつも歩けない程だったが、君のもとへ行くときだけは、ぴょこぴょこしてた。」

その話を聞いたとき、私はおもった。

辛いのは、私だけではなかったんだ。

今まであってきた者たちすべてそうだ。

村の人達、いきなり矢の雨が降ってきた、町の人達、戦いたくないのに戦って死んだ。鹿、餌がなかった。この町の人、いきなりの爆風で半壊、半分は逃げることとなった。そして少女、病気と怪我に苦しめられ、家を捨てた。

食べ物がなくても、文句も言わず、笑っていた。

それを知った途端。花の色は真っ青になった。

綺麗な青色だ。

何も考えられなかった。

次の日そこに桜はなかった、そこに少女が来ることもなかった。桜はずっと、約2000年、皆を幸せにするため、年がら年中桜を咲かせ、ピンク色の化粧をして、悲しみの青を隠しながら、ずっと生きてきたのだった。


スタ、スタ、スタ「これと、これと、これか……(ボワッ)」それから男は、花夏の思いがしっかり天に届くよう。桜の幹を集めて、丁寧に燃やしたという。



「ここは、どこだ? 温かい。」

「ぉーぃ」

「花夏ー…遅い」

「しお……り か?」

「早く、行こう!」

「待って(汗)」


二十代位の男「幸せに…」


青色の桜 完

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