5話 道
その道はとても雑なものだった。まるで獣道。通っていたその結果として道になったかの様な、それ程までの雑な整備。
ゲーム内でよくある道はこれよりも綺麗だった為、裁来はこの道を整備しているのはゴブリンやオーク等ではないかと予想した。
裁来が道を少し歩いていくと水、水流の音が耳に聞こえてきた。前方、間違いなく道を歩けばその音の鳴る場へ辿り着ける。歩き、その音は次第に大きくなっていく。そして目に入ったものは……。
「川、吊り橋だ。……にしてもボロいな。」
古くて劣化しているのか、そもそも質が悪いのか。本当にゴブリンやオーク等がこの道を整備している可能性が考えられた。
とはいえ今のところ裁来は何ともすれ違っていない。それは人間は当然だが魔物もだ。
気が付けば空は少し明るくなっていた。ゲームでも夜中は森に通行人は殆ど居なかったが、明るさ的にもそろそろ誰か居ても良いのでは、と裁来は考える。……それにしても魔物も居ない訳だが。
「ん、あれ!?」
そんな事を考えている時、裁来は吊り橋の先で何か動いているものを見た。それは間違いなく生物だった。でも人間では無い。形や色が人間にしては歪過ぎた。
裁来はそんな事は関係無いとでも言うかのように足を前に進める。
橋は歩く度ギシリと音を鳴らし、川の音があってもその音は魔物の耳へと入る。
「ギ?ギギギッ!ギィィ!」
結果、その1体が裁来の接近に気が付いた。魔物は計3体。その1体の声によって他2体も裁来の存在に気が付き、何やらジェスチャーを始めた。
裁来はその姿を見てゴブリンかと予想したが、ゴブリンにしては違う特徴が多かった。緑の体に棒のようなものを手に持っていて、姿は小さく痩せ細っている。本来ゴブリンは肌色や茶色、赤色等の色をしていて、今目の前に居る魔物よりかは肉がある。
裁来は取り敢えず、と武器を出し構えた。サイクロプスの時のような緊張感は無く、一方的に敵を殺す狩人としてそこに立っていた。
だが、そのゴブリンの様な魔物達はそんな裁来を前にし、勢い良く逃げ出してしまった。
「え、そんな事ある?こっちはやる気だったのにな……検証したい事もあったし……。まぁいっか。」
ゲームでは魔物が逃げ出すという事はそう無い。例えば一番初めの村の外の敵、レベル1の敵さえカンストレベルを相手に逃げずに立ち向かう。だから裁来の目に今の光景はとてもレアなものとして映った。
裁来は逃げた魔物を追うことはしなかった。別に何かされている訳では無いし検証も今すぐしなくてはいけない訳じゃない。戦ったら確実に殺せる相手だった事は直感していたが、欲しい素材がある訳でも無いし、本当に殺す必要性が無かった。
裁来は武器を戻し、再び道を歩き始めた。果たしてこの道は何処に続いているのか。
裁来はただ歩き続けた。その途中で空洞や洞窟の入口の様な場所を発見したり吊り橋と川をもう1つ見つけたりした。その時には空は結構明るくなっていた。
「にしても気分良いな。風も心地良くて気持ちいいし……息をするだけで浄化されるみたいだ。」
裁来の周りでは緑が穏やかに揺れ、程よい風が吹いていた。辺りを見渡しながら歩く……それだけでその時間を満喫出来た。
そしてその自然の中で、とある生物が裁来の目に映った。
小さくぴょんぴょんと跳ね、ぴょこぴょこと動き回っている。裁来は一目見てそれが無害な小動物達である事を理解した。
「アレも無視で良いな。」
その小動物達が居るのは道の丁度延長線上だった。裁来は何事もないかの様にその場を通過する。すると小動物達は逃げる様ぴょこぴょこと道を空けた。
「…………。」
裁来はその全てを壊してしまいたい欲求に駆られた。ぴょこぴょこと逃げ回るソレらに剣を振り、真っ二つにしてズタズタに。剣から発生する弾を撃ち込み、その肉体を吹き飛ばし。太い槍でその小さな体を穿き、肉ごと引き裂いて、切り裂いて。そんな明確なイメージを脳内に浮かべる。
だがそんな事は無意味で無価値だ。殺したいという自分の欲求をスッキリさせる為だけの理性の無い獣の様な行動。いや、寧ろ食欲等でそうする獣の方がマシまである。
……とにかく、それで殺害するのは自分よがり過ぎだ。裁来は自然と共存するその生態を目にし、思いを口にする。
「俺が我慢さえすれば解決する事だよな。」
裁来はその場にしゃがみ、少し距離をとって自分を見ている小動物を見つめる。
欲求は理性で抑えるもの。それが人間だ。では欲を抑えなくては人間で無いのか。それは違う。それは間違いなく人間であり、それこそが生物としての在り方だ。だがそうするとどちらかが間違っている事にならないだろうか。まぁ、どちらにせよ……。
⬛︎⬛︎は⬛︎⬛︎じゃないんだから関係無い。⬛︎⬛︎はその⬛︎を脱している。⬛︎⬛︎としてどうこう以前に⬛︎⬛︎として⬛︎⬛︎⬛︎いるのだから。道徳心や倫理を考え理性で抑えるのでは無い。⬛︎⬛︎は⬛︎⬛︎の為に、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎為に⬛︎⬛︎⬛︎のだ。そしてその結果、⬛︎⬛︎は⬛︎⬛︎したのだが。
「……はぁ。」
裁来は小さくため息をついて再び歩き始めた。
小動物達は不思議そうにその背中を見つめた。小動物達が一定の距離をとって裁来を見ていたのは一種の生存本能だった。逃げたら確実に殺される。その恐怖の対象が目の前に居た為に、恐怖心で動けなかったのだ。アレは小動物達から見ても、確実に良くないモノだった。
裁来が暫く歩くと開けている場所を目視する事が出来た。それは間違いなく森の出口だった。その先がどうなっているかは不明だが、取り敢えずそこを目指して歩いた。
するとこの道に、その出口から何かが入って来たのが見えた。
「あれ……人と荷車……魔物?」
それは間違いなく馬車だった。馬車と言っても魔物が引いているものだが。
裁来の目にはその馬車を引く魔物がロージャッドに見えた。ロージャッドというのはゲーム内でよく見た馬に似た魔物だ。手懐ければペットとして飼育する事も可能。だが飼育する事が出来るだけでゲームの使用上使う事は出来なかった。精々餌をあげたり、一部モーションがあるくらいだ。
裁来の目には馬車を引くロージャッドの様な魔物が新鮮に見えていたが、アレがそもそもロージャッドであるという確信は無い。
裁来は色々な情報を集めないと、と考えた。勿論、ロージャッドに似た何かについても。
馬車との距離は近付いていく。裁来もそちらに歩いているし、相手もこちらに向かっている。
だが、その過程で裁来は妙な感覚を覚えていた。距離が縮まる度、それは大きくなっていく。話しかけないといけないという考え。それが焦りに変わっていく感覚。裁来は自分で何に焦っているのかも理解出来ていなかった。
裁来は気持ちを落ち着けたいと思ったが時間とは残酷に、そして理不尽に進む。話しかける決心を中途半端に決めた時、それは裁来の想定外な方法で幕を開けた。
「おい君!なんでこんな所に居るんだ!?1人、なのか?1人だよな!?」
あちらの方から、とんでもない勢いで話しかけてきたのだ。