4話 仕様変化:2
もし今裁来が考えている様な事が正しいとするなら、それはとんでもない現象が起きている事になる。
例えば、装備枠は武器、サブ武器、頭、胴、腕、腰、足、背中、指、手首、首、耳、とある。通常防具が頭、胴、腕、腰、足、背中。アクセサリー類が指、手首、首、耳となっている。アクセサリーは計10種類身に付けることが可能で、全部で装備枠は23もある。ただ、アクセサリーが10種類しか付けられない為に18枠が装備数の上限だ。
そして、先程裁来が試した武器は明らかにその仕様から外れていた。武器を2つ手に取る事が出来ていた為だ。
ならば、アクセサリー類も何個も身につけられるのでは無いか?
裁来はそう予想し、これは検証する価値しかなかった。
装備出来るアクセサリー類にはそれぞれ攻撃力や防御力等は存在しない。だが何かしらの向上効果……属性値向上や消費魔力減少、回復力上昇等の小さい効果がある。小さい効果とはいえそれによって立ち回り等も変わる為、アクセサリー類も重要な役割を持っている。
裁来が今アクセサリー類を身につけている箇所は、両手の指に4つずつ指輪とリングと、両手首にブレスレットを2つずつだ。
まず裁来は同じ指にリングを装備出来るか試す。既に人差し指にはリングがしてあるが、そこにもう1つ着けれないかとインベントリを思い浮かべ、追加で装備してみるよう考える。だがどうやっても上手くいかない。
次に裁来はインベントリからリングをそのまま取り出し、自分の手で持ち指にはめてみる。するとすんなりと指に入った、のだが……。
「うわ……ぶっかぶか。」
リングはプラプラと動いている。更に裁来が今回選んだリングは魔力増加の物だが、裁来は魔力増加を感じる事も無かった。
次に何も着けていない親指へとそのリングを近付ける。装備枠の事を考えれば装備出来ないのが普通だが……。
「……凄。」
吸い込まれる様にピッタリとリングが装備出来、更に魔力増加を感じる事も出来た。
この検証により、裁来は確信を得る事が出来た。装備枠は間違い無く拡張され、仕様は変更されていると。
裁来はインベントリを思い浮かべ、装備していない装備枠に装備を着けてみる。すると当たり前の様に成功し、裁来は合計23の装備枠を埋められる事を理解した。
そして出てきた感想と言えば歓喜等では無く、
「いや……いやいや、ズルじゃん、これ。」
というものだった。ゲームで言えば装備枠の上限というシステムを破壊するチート。それはズルでしかない。
裁来は納得がいかなかったが一応装備はそのままにしておく事にした。何故なら此処がすべての装備枠を埋めていたとしても地獄に思える環境である可能性があり、どんな事が起こるかまだわからないからだ。
それはさておき、裁来は装備枠について疑問も覚えていた。武器はメイン武器とサブ武器を関係無く持てる。つまり重ねられる。だが他の装備枠は装備を重ねられない。それは何故なのか。その理由はどこかにあるのかもしれないが余りに未知だった。裁来は、まぁ武器を何個も持って戦うのは難しそうだし……と考え、結局まぁいいかと答えを出した。
必要な確認事項はまだあった。大量にあり過ぎるがこれも裁来にとっては必要な事だった。
裁来が次に確認するのはクリスタルについて。
クリスタルとは武器や防具ごとにある、クリスタル枠というものに装着出来る物。武器に付けるクリスタルには属性値や状態異常の追加の他に攻撃力の追加等のステータス強化も出来る。1つの武器に違う属性クリスタルを装備した場合には敵に対し属性相性が良いものが自動的に選ばれ、属性ダメージと状態異常ダメージが同時に入る。盾に装備したクリスタルはジャストガードする事で属性や状態異常効果を発揮する。ジャストガード以外に発動するものはステータス補正のみ。
防具には属性耐性や状態異常耐性、環境影響耐性、防御力向上の防具用クリスタルが付けられる。敵や地形で使い分けられ、環境でダメージを受ける場合や、敵から受けた毒のダメージ等も完全に無効化する事が出来たりする。
アクセサリー類にはクリスタル枠が無く、クリスタルを装着する事は不可能だ。
裁来はまずインベントリを開き、クリスタル枠が無いアクセサリー類にクリスタルを装着出来るかどうかを試した。結果は当然の様に不可能だった。
「そりゃクリスタル枠無いし当然か。」
次に装備品を試す。
既にクリスタル枠を埋められている装備に、上から更に付けられないかどうかを試すが、これも裁来の予想通り不可能だった。
次にクリスタル枠が空いている物を試す。ゲームでやるようにインベントリを動かし、装備にクリスタルを装着する。すると、
「……出来た。相変わらず原理はサッパリだな……。」
当たり前のように装備にクリスタルは装着出来た。
次に裁来はクリスタルを装備から解除出来るか試した。すると呆気なく、簡単にクリスタルは元の形へと戻り、ゲームと同じ様にそのクリスタルが消費される様な事も無かった。
だが裁来は、クリスタルがゲームの様に制作する事は出来ないかもしれない、所持しているクリスタルを上手く使い回していくしかない。とはいえクリスタルの種類や数は余りに豊富にあるし、消費される事は基本的に無いから大丈夫だろう、と考えた。
「さーてと……。装備品に関しては取り敢えずこんなもんか。まだ変わったところもあるかもしれないけど、まぁ良しとして……あれ?」
気が付けば周囲は気持ち明るくなっていて、雨も止んでいた。
そして裁来はふと気が付く。――今って何時なんだ?俺はいつ起きたんだ?
裁来にはわからなかった。起きた時間も、この場所も、何故此処に居るのかも、何故此処で起きたのかも、そもそも此処が一体何処なのかも。それらはいくら考えても答えが出そうになかった。
裁来は情報が必要だと思った。そしてその情報を集める為には……。
「目的地も無いけど歩くしか無いな……。」
まずは此処を移動しようと考えた。
裁来は今居る場所から周りを確認しようと考えて、少し高い木を軽々と登った。その身は簡単に高い場所まで上り、その景色を見る事になる。
暗い青に燃えるオレンジの光。前方に続く緑と、それに反射する眩い光。そのメには人間を1人と映さず、鳥が数羽高く飛んでいて……。それは正に神々しい夜明けだった。冷たくも柔らかい風が裁来の髪を靡かせる。
裁来はそれを見て、受けて。感じた様な事をふと口にした。
「なんだ。やっぱり人間が居ない世界の方がよっぽど綺麗じゃないか。」
裁来は自分の発言に違和感すら覚えなかった。それはサバキにとって当たり前の感情だった。
裁来は辺りをグルリと見渡す。
そしてわかった事は、此処はどうやら森にある道から外れた場所でありそうだという事。何故なら裁来が振り向いた視線の先に不自然に木が並んで無い場所が続いていたからだ。
「誰かが、造った。」
裁来はその事に少しの嫌悪感を感じながらもその木を降り、その道へと歩く。
その道を歩けば誰かと出会うのか。裁来は今のところ魔物と正体不明の鳥しか見ていない。そもそも人間という種族が居るのかも不明だ。
裁来は、その道を歩く事以外が選択肢に無かった。明らかに失っている記憶と、それに関連する様な重要な情報を集める為に……とにかく行動をおこさないといけない。
少し歩くと裁来の予想通り道があった。裁来はその道に足を入れる。
「よし、歩くか!」