3話 仕様変化:1
裁来は思い当たる言葉をただ淡々と繰り返し口にしていた。
「ステータス、ステータス表示……。まさか鑑定、とか。」
その結果、ステータスの確認画面は表示されない。
ゲーム、ゲザムワンザストにおいてステータスの確認は結構重要だ。自分のレベル、ジョブ個々のレベル、体力やスタミナ、攻撃力に防御力、魔法攻撃力に魔法防御力、魔力量や属性や状態異常耐性。確認したいところは山ほどある。というか、見る必要性があるものがステータスにはあまりに多い。
裁来は、本来常に表示されているはずの自分のレベルすら確認出来なかった。
「サイクロプスを倒せたんだから雑魚では無い……よな?」
サイクロプスはゲーム内で弱い部類の大型魔物だ。どんなに強い個体だったとしてもレベルは80程。裁来はサイクロプス相手に苦戦した記憶を持っていなかった。
裁来はステータスの確認は出来なかったが、ここまでを振り返ってこうも考えた。
――ソフィアはゲーム内のキャラクター、そしてその記憶と肉体があり、ゲームの様に戦闘出来た。サイクロプスも簡単に倒せた。つまり、ゲームのデータを引き継いでいると考えて良いだろう。
ソフィアの目で見たものをそのまま思い返せる、というのがその判断の決め手だった。その記憶がある時点で、どんな可能性を捨てたとしても、裁来がゲーム内で動かしていたソフィアという存在である事は間違いなかった。ならば、ソフィアとしての全てがそのままのはずだった。
「ステータスは確認出来ない……。まぁ見れないものは仕方ないよな……。」
裁来はソフィアとしてのステータスをそのまま引き継いでいる、という仮説を信じ、ステータスの表示を諦め、次の確認へと移った。
次に裁来が確認する事は装備品についてだ。
目に入る装備は、当たり前だが間違いなく裁来が所持、装備している物。例えばその他の装備品はどうなっているのか。
「でもなぁ。装備の確認って言ったってステータスすら見れな……は……??」
裁来がゲーム内の装備品整理の画面を脳内に浮かべた途端、裁来の脳内には様々な情報が飛び交った。ほぼゲームと同じ、装備品を見る画面の様なものが脳内に表示されていた。ただ、ゲームとは違う部分もあった。そこには装備と一緒に、消費アイテムや素材等、色々なものがごちゃごちゃに混ざっていたのだ。
「どうなってんの、これ。」
裁来にしてみれば驚く点が沢山あった。
まず、ステータスは確認出来ないのに装備は見れる事。それは装備していない装備の性能等も含め全て。更には装備しているものの詳細も確認出来る。
次に、装備とアイテムやらの色々なものが同じ場所にあり、それを持っている事。そもそもゲームでは装備品と消費アイテム等は別々のところに収納し、別々のところで確認したりする。それどころか全ての物は手持ちに限りがあり、溢れないように別にあるアイテムボックスに預ける必要があった。
裁来は所持しているものをざっと確認し、課金アイテムや魔物の素材に消耗品等、ゲーム内で所持していた物の全てを所持しているであろう事を理解した。
そして、そのアイテム等を出せるかどうかを確認しようと考え、脳内でポーションを取り出す様に念じてみる。するとすぐに真っ黒な穴の様なものが現れ、瓶のポーションがその穴から出てきた。
「……便利だな。」
ポーションには蓋がしてあり、中身は緑色。形も選んだポーションそのままで、正にゲーム内でよく目にしていたポーションだった。
裁来はそのポーションを見つめて1つの事を考える。――飲んでみようか?
裁来はこれまでを再び振り返る。ソフィアの動きや使えるスキル、そして装備に所持アイテム。それらはほぼゲームと一致していた。それならポーションの効果だって同じ筈。
「よし。」
裁来は決意を固めポーションの蓋を開ける。そして緑の液体を飲んでみた。すると、裁来が意識していなかったジンジンとした体の痛みが完全に引いたのだ。最初にサイクロプスに殴られた時のダメージ。それは全くの無へと変換された。
「ダメージを回復する感覚……。なるほど。」
裁来は納得した様に頷く。ポーションの効果も恐らくゲーム内の効果そのままで、安全に使えるだろうという答えが出た。
更に裁来は次の確認事項へと移る。それはアイテムの収納。取り出せたのなら収納も出来るはずだと考えたのだ。
裁来はもう一度同じポーションを取り出し、今度は仕舞おうと考える。だが……。
「あれ、黒い穴が出ないし仕舞え無い……。」
どんなに頭で考えてもアイテムが収納される事は無かった。
ゲームではアイテムを収納する場所が大きくわけて何ヶ所かある。1番よく利用するのがインベントリとアイテムボックスで、インベントリはプレイヤーが持ち歩くアイテムを収納する場所。
裁来はステータスの時の事を思い出しつつ、ダメ元で、
「インベントリ。」
と口にした。すると嘘の様に黒い穴が現れた。困惑しながらもポーションを仕舞う事を考えると、スっとポーションは黒い穴へと吸い込まれた。
裁来は脳内でポーションの個数を確認してみる。するとしっかり元の個数へと戻っていた。
裁来は内心、うわ、仕様よくわかんね〜……。と思った。
インベントリと唱えなければ仕舞う時には黒い穴は現れず、ものを取り出す時だけ頭で考えれば黒い穴が現れる。そしてインベントリを閉じるイメージをすれば黒い穴は消える。裁来はそれを複数回繰り返し確認し、改めて理解した。
次に裁来は今後こそ正しく装備品の確認へと移った。アイテムに気を取られしっかりと確認する事を怠っていた。
本来装備している装備はステータスから確認、解除等が出来る。だが此処ではステータス画面を確認出来ない。だから裁来はインベントリからどうにか出来ないかと考えた。裁来はインベントリを頭の中に浮かべ、装備品を確認する。それを自分に装備する様に頭の中で考えた。
「変な感じだな……。」
すると装備は変更された。装備は瞬時に入れ替わり、別の装備が現れたのだ。正に頭の中で考えるだけで着替えが済む感じ。
次に裁来は武器を出してみる事にした。裁来は武器は無理だろうと考えた。その考えに至った理由はゲーム内での仕様によるものだった。
ゲームでは、そのジョブで使える武器しか所持出来ない様になっている。勿論インベントリに収納する事は可能だったが、それを手に持つ事は不可能。
故に裁来は武器が現れる事は無いと考えたのだ。だが、裁来が武器が出てくるように考えると当たり前の様に武器は現れた。
「……は!?」
裁来は驚きの声を上げる。それは当然の事だった。ゲームでは魔法剣士として弓を持つだなんて事は有り得ない。それが今、魔法剣士として弓を持っているのだ。魔法剣士とアーチャーの同時使用等、ゲーム内では考えられない事だ。
更に、ゲザムワンザストで自分のジョブを変更するには、ジョブを変更する為の役割を持つキャラクターに話しかけたり、特殊なイベント前の変更画面で選択するしかない。
だが、裁来の今の状況が、ここでは武器を切り替えるだけでジョブが変更出来る、いつでも13あるジョブに変更出来るという事を証明していた。
驚く点はそれだけに留まらない。本来ジョブを変更すれば、勿論その前のジョブの武器は解除され、自動的にインベントリに入る。だが裁来の両手にはそれぞれ弓と剣が握られていた。そしてその仕様は武器だけでなく、そのジョブ専用の防具等の装備品も同じだった。ゲザムワンザストではジョブ毎に装備出来る防具やアクセサリー等が決まっている。そして裁来が弓を出し、手に持ってもそれらが解除される様子は一切無い。
「装備のペナルティが……無い……?」
裁来は装備品について正しく認識する必要があると考え、装備品の詳細な仕様の確認を始めた。