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ストレスアキュムレート  作者: みたらしあびたい
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1話 転生

 ヒトの形をした者が立っていた。そのヒトの形をした者は目の前に倒れているニンゲンを見下しながら雑に作業を進めている。


「あぁ、これは要らないから返してやるよ。」


 その対象であるソレはとあるモノだけを返され、その言葉だけを聞いて覚えた。ソレの瞼は嫌に重たく持ち上がる事を知らない。目の前に居るナニカを人間だと認識した後、プツンと意識を切らした。




 ◆




 ソレは冷たい雨が煩く降る中でゆっくりと目覚めた。ビショビショに濡れた地面を手で押しながら体を起こし、頭に残った言葉に反応する。


「何を返す、だって……?一体俺は……私は……何を返されたんだよ……。…………なんだ、此処は。冷たくて……暗い。」


 ソレは目の前の状況に頭が追いつかない。自分が何をしていたのかも、性別すらも正しく認識出来ない。記憶やら何やらがぐちゃぐちゃだった。正に混乱状態。ただ、わかりそうな事がいくつかあった。ソレはまずそれらを整理する事から始めないと、と考えた。

 だが、その耳には暗い雨の中で余りにも歪な音が聞こえてきた。ドシャッという音、それは段々と大きくなり、近付いて来る。

 周りは草が生い茂っており、木々に囲まれていた。更に夜なのか辺りは暗い。故にソレの目には殆どが見えていなかった。だがその中で確実に見えた赤い光があった。


「……何?」


 その赤い光は間違いなくソレに近付いていく。ドシャドシャと音を鳴らし、簡単にその全貌を確認出来る位置まで近付く。


「……は。」


 それは巨人だった。赤く光る1つの目に、その赤い光を反射する鋭い牙が見える。巨人の目的は間違いなく前方で蠢くニンゲンだった。

 ソレは必死に頭を使うが頭の中は混乱状態にあった。考えても、冷静さを取り戻そうとしても無駄な事だった。只管頭を使ったが、結局頭は現在の状況を把握するだけの物に過ぎない。

 やがてその巨人は足を止めた。何故なら手を伸ばせば届く位置までやって来たからだ。

 そしてソレは目の前に来た巨人をボーッと見つめた。こんな状況になっても頭が働いてくれる事は無かった。

 悲惨にも巨人の拳は振り上げられた。そして簡単に、勢いよく振り下ろされる。

 ソレはその拳を認識し漸く1つの答えを出した。――あっ、これ痛いやつじゃん。


「ヴぇ……!」


 巨人の拳はソレの顔面を強打した。その衝撃でソレの体は大きく吹き飛び、地面を転がる。

 ソレはその物理的なショックでか、痛いという感覚を覚えると同時に自分の名前を思い出した。


「新川……裁来……いや、ソフィア、なのか……?」


 ソレは地面に倒れながら思考を続ける。だが記憶が2つの名前分存在し、割れている。一致しないその2つの記憶を同時に整理しようとすると頭が割れそうな程痛んだ。故に生存本能は目の前の障害を前に、戦闘面で強そうな記憶から整理する事を決断させた。


「ソフィア……。」


 ソレは1度新川裁来の記憶を置き、ソフィアの記憶を呼び起こす。そして理解出来たのはソフィアという者が歴戦の戦士である事。そして自分の肉体が正しくそれである事。何よりも、目の前に居る巨人サイクロプス程度であれば容易く。


「殺せる。」


 ソレは自分がどんな存在かを大まかに理解した。起き上がり、思うままに腰にある剣を抜いた。


「グァ?」


 サイクロプスは1つ殴って動かなくなり、また突如動き出した奇妙な生物に疑問を感じていた。興味を惹かれ、観察欲に駆られる。

 ソレの思考はただ1つに絞られ、戦闘態勢に入る。まずは目の前の敵を殺す。だが1つに絞ったはずの思考を外れるかの様に、浮かぶような違和感を感じた。


「何だ?この……現実感というか。」


 ソフィアという肉体は目の前の敵に緊張を抱いた。それはこれまでで絶対に有り得えず、尚且つ初めての事だが、目の前に居る敵に気持ちが逸っている事を理解していた。

 サイクロプスは大きく息を吸い込み、そして大きな声を出したらコレはどんな反応を見せるのかと興味本位で叫んだ。


「グオオオオオオオオッ!!!!」

「っ、うるさっ!」


 ソレは咄嗟に耳を塞ぐ。

 その反応を見たサイクロプスは更に興味を惹かれた。そして次にもう一度殴ってみようと思考した。ソレを目掛けて腕を振り上げる。


「この()()()()()()……!」


 ソフィアという肉体はその動きを理解した。そしてその予想通りにサイクロプスの腕は動き、ソフィアという体はその場を離れる様に、当たり前の様に足を滑らせる。

 サイクロプスの拳はソレに当たらず、高い水飛沫をただ上げた。

 ソレは攻撃するなら今しか無いと考え、拳を避けた体勢からサイクロプスへと向きを変え、赤く光る目に跳ぶ。右手に持った剣はオレンジの光を帯び煌めく。剣は正しく炎を纏っていた。剣を振れば確実に当たる位置、距離。そして。


炎奪斬(えんだつざん)。」

「グァ!?グガァァァァッ!!」


 ソレは炎奪斬という()()()を使用した。それは剣に炎を纏い、攻撃するというもの。()()()()()()()()()で最大3回まで剣を振れるものだ。そして当たればその対象から魔力を吸収出来る。

 サイクロプスの叫び声は留まらず血飛沫の上がる目を両手で抑えている。

 ソレはその様子を見ても躊躇しない。炎奪斬から続けて、別のスキルを使用する。剣は先程とは違い紫の電気を纏う。そしてもう一度跳び剣を軽く引き、サイクロプスの目を抑える指の隙間、眼球を狙い剣を突き出す。


電奪刺(でんだつし)。」


 ソレはズプンと硬いゼリー状のモノを刺し潰す様な感覚を覚えた。そして手に持つ剣が良く魔力を吸収する事も理解した。そして刺さった剣を勢い良く引き抜く。


「グゥゥウァァアア!」


 電奪刺は剣に電気を纏い敵に突き刺し引き抜くスキル。攻撃判定は突き刺した時と引き抜く時両方にある。炎奪斬と比べ威力は高いが隙が大きく基本的に単体にしか効果が無い。つまり、この様な場面では有効に使えるスキルだった。

 ソレは地面に降り立ち、ピシャリと水音を鳴らす。サイクロプスはソレが居るであろう場所に手を大きく振った。だが


「レイスシフト。」


 レイスシフトという1秒間透明になり攻撃を受け付けず、移動も出来るという回避スキルの使用によってサイクロプスの手は空を仰いだ。

 ソレはサイクロプスから少しの距離を取った。その瞳にはサイクロプスがただ大きく手を振り回している様子が映る。故にソレはその場でただ静かに待った。

 ソレの()()()は魔法剣士だ。剣撃による魔力の吸収、そして攻撃を当てた部分から魔力を一定時間勝手に吸収出来る。吸収する魔力量は中々のもので、ソレはサイクロプスを殺す魔力はこれで充分だと理解していた。

 ソレは溜まった魔力を闇に変換し左手に集め魔力塊を創る。これには少しの時間が必要だが自分を認識出来ない敵に邪魔される事は無い為安心して行動出来る。そしてそれに剣を通し、()()()()()()敵をロックオンし剣を振りスキルを発動させる。


「ブラックゾーン。」


 突如現れた黒き球体。それはサイクロプスを完全に覆い、何度も何度もサイクロプスを中心へと押し潰す。


「ギアアアアアアッッ!!」


 ドン、ドンと音を鳴らし定期的に中心に押し潰していく。そしてサイクロプスの悲鳴が聞こえなくなった辺りで仕上げの様に球体は小爆発を起こし、そのまま消滅した。そしてそこにはサイクロプスの姿も無かった。


「やはり低レベルの個体、サイクロプスだったか。さて……と。」


 ソレは周りを一応確認する。あまり良く見えてはいないが戦闘音等で集まってきている別の魔物はいなさそうだと考えた。だが一応念の為に、とソレは軽く跳び木の上へと移動する。


「まずは自分の事を正しく理解しなくては……。この状況も何もかもがわからないし……。」


 ソレは取り敢えずゆっくり落ち着いて、今自分のある状況や記憶等を整理していこうと考えた。

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