第四幕
沖縄諸島に点在するとある島々が甲賀忍術潜団の本拠地、真大和の秘密基地である。周辺にある幾つもの島々の秘密ドックに複数の戦艦や潜水艦を隠してあり、ここから南方方面の監視と偵察を行っていた。西郷は呉での46㎝砲レールガンの微調整と、威力を大幅に増強できた事で作戦の許容範囲を広くできると確信し、甲賀本部に戻り少しの休息を取っていた。
「KING!真田室長が次の南沙諸島奪取作戦をアユミ作戦と名付けたので報告しておく。」
「了解しました。やっとこの時が来ましたね、艦長!」「少し記憶が戻って来たのか?KING!」
「解りませんがなんとなくそう思っただけです。」
「やっと中国海軍本拠地の南沙諸島を叩く時が来たな!」
「西郷も真田室長と同じく、この状況を楽しんでいますね」
「楽しんでいる様に見えるだけさっ、笑。状況判断を少しでも誤ると、戦局が一気に逆転するのを思い知らされているので、常に冷静に、余裕の面持ちで挑めと教えられた、だから室長もアユミ作戦と名付けたのだろう!」「後退はない!常に考えろ!故にあゆみをとめてはならないと!」
南沙諸島(スプラトリー諸島)、日本語では、新南群島は、南シナ海南部に位置するインドネシア、ベトナムなどに囲まれた海域である。第二次世界大戦前に、フランスが領有権を主張したが、日本は台湾を領土に編入していた為、日本とフランスで領有権を争っていた。その後、第二次世界大戦開戦と共に日本はフランスを退け、新南群島として併合した。しかし、1945年日本敗戦により権利を放棄、1946年に中国が接収し、勝手に島々を埋め立て基地にしている。
2045.6.10
「これより、アユミ作戦、作戦シノブ最終段階を同時遂行する!私が常に口にする、風林火山を忘れるな」
疾きこと風の如く 疾風の様に速く
徐なること林の如く 林の様に静寂に
侵掠すること火の如く 火の様に激しく攻め
動かざること山の如し 山の様に動かずに
武田信玄の旗には風林火山として孫子の兵法が記されているが実は続きがあり、陰、雷霆がある。
知り難きこと陰の如く 戦略は隠密に図り
動くこと雷霆の如し 攻める時は雷霆の様に凄まじく
風林火山陰雷霆。孫子の兵法は全ての戦略の要であり、真田の家系に子々孫々と受け継がれる語句である。
「西郷艦長!上杉艦長!健闘を祈る。」
「了解致しました。」
西郷率いる甲賀忍術潜団の空母から、無人戦闘機型ミサイル60機が順次飛び立つ!南沙諸島に停泊している、巨大空母、駆逐艦、近海にいる巡視艦、橋やインフラ施設めがけ突撃し、火柱があがる。次々に突撃してくる戦闘機の格好をしたミサイルは、まるで過去の大戦の神風特別攻撃隊に見えた。巨大空母は集中攻撃を浴び黒煙をあげ傾いた。何が起こったか解らない様子で反撃すらできない敵軍の無数の軍事施設から、サイレンが鳴り響いたその瞬間!!南沙諸島を勝手に埋め立てたその無数の軍事施設に、ほぼ水平方向からピーポイントで施設が1つまた1つと砕け散って行く。
真大和の46㎝砲レールガンから発射された、マッハ11の超音速砲弾が正確に標的を射いているのだ。
レールガンは膨大な電力により、超電磁の力で砲弾を打ち出す画期的な兵器で、従来の火薬を使っての大砲や機銃と、比べ物にならない速度と飛距離がでる。遅れて反撃した敵の戦闘機、ミサイルは全て撃墜、石油精製プラントを残し、全ての滑走路、軍事施設を破壊し、南沙諸島を制圧した。わざと逃した少数の中国軍の目の前を見せつけるかの様に、大胆に浮上させた戦艦にしか見えない真大和の月明かりの白銀が海面を揺らした。
南沙諸島を奪われ逃げた少数の中国軍が本土に帰還しようして信じられない光景を目にする。港に接岸した瞬間に拘束されたのだ。五年前から猿部隊が中国本土を調略し続けている為、今では香港から上海までの海岸地帯は中国なのだが中身は日本のAIが各地を秘かに統率、運営していた。実際の中華共和国が統率しているのは北京周辺とモンゴルの一部だけでそれ以外は全て日本AIか動かしていた。真田の高笑いが聞こえてくる様である。
「室長!真大和はこのまま尖閣諸島に向かい、陸軍上陸部隊と合流した後、尖閣に上陸します。」
「了解した!上陸後、ただちに滑走路と港の建設に着工してくれ!国旗の掲揚ができる灯台も忘れずに。」
「心得ました。」
五稜郭にいる真田は作戦シノブの最終段階を上杉と通信でシュミレーションを行った。概要は、北朝鮮から弾道ミサイルを北方領土海域に向け発射し、それを伊賀忍術潜団のイージス艦が迎撃ミサイルで打ち落とす。ロシアを助けたと見せかけて、北方領土四島に上陸して四島全てを奪還する。
「上杉!号令をかけよ!」
「0315より作戦シノブ北方領土奪還を始める!各部隊用意!命令に応じて行動せよ!」
「平壌部隊、弾道ミサイル発射!」
「弾道ミサイル点火、...5.4.3.2.1ミサイル発射!」
「.....弾道ミサイル想定軌道に乗りました」
「イージス艦部隊、トマホーク迎撃ミサイル発射準備!」
「着弾点捕捉確認、目標!北側弾道ミサイル3発...発射!」
「.....撃墜成功しました」
「ロシア側に報告、日本国イージス艦にて、オホーツク海域に着弾予定のミサイルを撃墜したと伝えよ!」
「了解しました!ロシア側に伝えます」
「これより北方領土四島に上陸!」
「上陸地点、ロシア軍集結、攻撃して来ました!」
「よーし、真武蔵、艦砲射撃用意!撃てぇーぃ!」
「陸軍90式改戦車部隊上陸開始」
「武器弾薬を持った民間人はロシア兵として扱え!気を許すな!」
カムチャッカ半島から飛来するロシア戦闘機の無数の編隊が伊賀潜団のイージス艦と空母にミサイルを撃ち込んでくる。戦闘場所から遥か遠くで、真武蔵の後方ハッチが開き無数の追尾ミサイルが発射された。イージス艦と空母は戦闘機型ミサイルでロシア戦艦が放ったミサイルを撃墜してゆく。いくらミサイルを撃っても命中しないロシア戦闘機編隊は焦りを見せ始め少し上空に上がり体勢を整えているところに、真武蔵が放った追尾ミサイルが襲いかかる。ロシア戦闘機同士でクラッシュして爆発する者、ミサイルから逃れようとして、海面に激突する者、誘い込まれては、少しづつ落とされを繰り返し、みるみる戦闘機の数が減っていった。上杉は海の風の力を読んでいた。風の強い場所に敵を誘い風を避けようと穏やかな地点に来た所で撃ち落とす、真田丸誘戦法を使っていた。ほとんどの戦闘機が撃墜された。
逃げ切ったロシア戦闘機が反撃を試みようとする時に、真武蔵が素早く水中に沈ずみ本来の潜水艦の威力を見せる。戦闘機部隊のその先にいる巨大空母に向け上杉が叫ぶ!! 「超音速魚雷、雷霆!一番二番発射!」
「敵空母に着弾」
「浮上し、前方ハッチ開け!主砲準備!」
「撃てぇー!」
「敵空母に直撃、航行不能を確認」
「艦長!北方領土四島、制圧完了との事です!」
「まだ旗は揚げるな!」
「室長!北方領土制圧しました」
「了解!武装維持、そのまま待て!」
「日本防衛軍指揮官の真田だが至急、ロシア側にお伝え願いたい!」
「翻訳開始、どうぞ!」
「我々日本防衛軍は、オホーツク海域に於ける北朝鮮側のミサイルを阻止したにも関わらずあなた方は、軍を活動中の部隊に向け進軍させて来ました。よって私達、日本防衛軍はロシア軍に対して応戦する事態となりました。あなた方を守ったにも関わらず進軍させるとは何事であるか!!!筋違いである!!よって応戦しただけの事、戦いを続けるなら続けるがよい!そちらが退くまで退くつもりはない!」
「一文一句違わず伝えよ。」
数時間後、ロシア軍は撤退を始めた。
両作戦を終えた真田は二人の司令官に労いの言葉と各部隊への報酬と少しの休息を与え横浜に戻った。
「上杉、五稜郭にはAIを設置したのでQueenと相談しながらロシア軍の動きを監視してくれ、それから10日後よろしく頼む」
「了解しました」
「室長、西郷艦長から連絡が入ってます」
「つないでくれ」
「どうした?」
「KINGの神経系統が異常な数値を示していた事には気がついていたのですが、昨夜KINGが完全覚醒したので経緯を全て話しました」
「そうか、江口と代わってくれ」
「久しぶりだな!真田、よくも俺をこんなバカでかい物に詰め込んでくれたなっ!ここに入れないとダメだった理由は理解している!完成間近なんだなっ」
「ああ!お前の身体は完全に使える様にしてあるよ、ただ少しまだそこに居てくれ、最後の仕事がある」
「そのようだな!理沙は大きくなっただろうなっ」
「ああ、あいつに似てべっぴんになってるよ」
「ありがとう」
「西郷、話は聞いていたと思うがその通りだ。10日後、横須賀へ真大和で帰還してくれ、上杉にも伝えてある。それではよろしく」
「了解しました」